アカデミー賞を受賞の後、テクニカラーを使ったユナイテッド配給の短編映画も軌道にのって。
ウォルト・ディズニーはいよいよ《白雪姫》の製作に乗り出すことになった。

グリム童話集の《白雪姫》の挿し絵から人物の描写の手前で、
Dwarfs(小人たち)のアニメーションになったわけだが。

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後に、ウォルト・ディズニー自身がこう語っている。
「とにかくバランスがよかった。まずアニメで描くのが簡単な小人たちがいる。お客さんを引きつけるプリンセスがヒロイン、相手役の王子さまの出番は最後だけ。悪役の女王の出番は、これも半分は描きやすい老婆だからね」

ユナイテッド採用の原動力となったピックフォードの似顔の原画は、
シリー・シンフォニーのシリーズ《春の女神 The Goddess of Spring》で世に出ることになった。

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しかし、やっぱり自然な人間の動きとは比較にならない。
どこかぎこちない。
ミュシャの名画をセル画の下敷きにしたから、不自然に横顔だけのシーンが多い。
たくさんの小人たちや動物たち(バンビも登場する)がいい動きをしているだけに。

ウォルトはユナイテッド幹部と相談、
まず人間の女優・俳優による実写映画を撮影し、
そのフィルムの1コマ1コマを写真に現像して、
それを原画にアニメーション・セルを描きあげるという驚くべき画期的提案を持ち込んだ。

しかし、ユナイテッド側はチャップリンの件もあり、
「配給はするが、この企画に俳優や監督は出せない」と冷たく非協力的だった。
むしろ、「これじゃあ限られた短編の採算に合わないんじゃないか。うちはそんなに出せないよ」と手厳しい忠告も受けた。

ウォルトはくやしさをこらえながら、
「フルアニメ長編をつくって、ユナイテッドの連中を見返してやる」と執念を燃え上がらせた。

でも、女優はどこで探せばいいんだ。
ユナイテッド以外のハリウッドの映画会社はライバルばかり、
そのユナイテッドをうならせるような女優は出てこない。
ウォルト・ディズニーの悩みは逆に深くなってしまった。

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そこに、
「うちの近所に、すごく評判の可愛い女の子がいましてね」と世間話を持ち込んできたのは、グーフィーをつくったチーフ・アニメーターのアート・バビットだった。

ハリウッドはまだできかけの新興都市、
アメリカのあちこちから才能のある俳優の卵やダンサーが家族を連れて移住した巨大なニュータウンだった。
Marjorie Celeste Belcherという1919年生まれの16才の美少女は中学卒業後、ダンサーの父親のスタジオで、子どもたちのためにクラシックバレエのインストラクターをしていた。
そろばん塾の高校生の娘さんが、小学生たちにそろばんを教える、みたいなもの。

バビットが惚れ込み、ウォルトに引き合わせた。
グリムの仕事を引き継いで、The Goddess of Springを完成させたハミルトン(Hamilton Luske・後に「ディズニー創業で活躍した9人の老人」という名誉称号を贈られた)も、
彼女の清楚なしぐさと、バレエの基本が叩き込まれたしなやかな歩き方に魅了された。
「ウォルト社長、これはイケますっビックリマーク

おじさんアニメーターみんなが彼女のファンになった。
愛称はマギードキドキ
彼女の写真原画をつかったセル画を担当したアニメーターたちは、小人や背景担当のアニメーターのやっかみを受けたくらいで。

《白雪姫》がついに完成し、アカデミー賞を受賞すると。
マギーは18才でアート・バビットと結婚しました、とさ。
めでたしめでたし。

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あれ!?
バビットは後に、ウォルトと大ゲンカして退社するんでは。
その話はまたあとでね。