86 スリーフィンガー サムピックあり?なし?
レコーディングも後半になってくると人数が減ってくる、必ずしも全員がそろうことはなかった。
ぶっ続けで働くのは無理だ、あるものは街へ行き、あるものはコンサートへ行き、あるものはお茶にいき、交代制のように各々の時間をすごしていた。
このレコーディングで「ふたり雨の日」と「いつもの様に僕は」の2曲を自分でアコギを弾いた。
「ふたり雨の日」のレコーディングの時のこと。
この曲はスリーフィンガーの弾き語りスタイルで他の楽器は入らない、ブルースハープもコーラスも入らない、今までで一番シンプルな曲だ。
スタジオにはケイさんと中ちゃんと僕の三人だったと思う。
グルーンギターでレンタルしたテイラーのOMボディのギターを使った。
このレコーディングでOMボディの凄さを知る、今まではデカいボディにしか興味がなかった僕にとっては発見だった。
弾き語りスタイルなのでクリックは使わず、自分のタイミングで演奏する、じつはこれがとても難しい。
クリックに慣れてしまえばクリックがあることがどんなにありがたいか。
まずはサムピックをつけづに指だけで弾いてみる、指だけで弾くと親指で弾くベース音がしっとりする。
ジェームス・テイラーやジャクソン・ブラウンはサムピックをつけない。
次はサムピックをつけて録ってみた、サムピックはベース音が乾いた音になってはっきりと発音される、ポール・サイモンや日本の80年代くらいまでのフォークの人たち、ラグタイムをやる人たちはサムピックをつける、両方試したがどちらもアリだと思った。
そこでコントロールルームのケイさんに……
か「サムピックあるのとないのとどっちがいいと思います?」
ケ「時間ないし、どっちでもいいから早く弾いてくれる?」
か「はぁ??!」
すぐさまギターを置いてコントロールルームまで行き。
か「どっちでもいいとはなんですか?!!」
これは印象的なできごとだったのでとても記憶に残っている。
色々言い合ったが二人とも頭に血が上って着地はしない。
少し休憩をとりなんとか怒りを鎮めて(鎮まってない)もう一度ブースに入ったけどダメだった、そりゃそうだこんな気持ちでやっても意味がないというか弾けない、そう音楽は気持が健康じゃないとやれないのだ。
ケ「少し早いけど飯でも行きますか?」
そして僕ら3人はあの日本料理店「一番」に行った。
美味しいご飯を食べたら怒りがおさまってくる、一番でお互いカッとなったことを詫びあった。
「ごめん言い方悪かった」「僕もキツくいいすぎてすみません」お腹いっぱいになって仲直り。
僕はこの瞬間が好きだ、信用が深まる瞬間、雨降って地固まる、ゆうひが丘の総理大臣を思い出したりなんかしてた、ケンカしたあと寝転んで空をみて笑って仲直りみたいなやつを。
みんな長旅で疲れが溜まってきていた、ちょっとしたことでピリピリしてトゲトゲしくなっていた、そんな時もある。
もう一度気を取り直してスタジオへ、サムピックをつけず演奏した、やわらかいサウンドを選んだのだ。
仲直りの後の演奏は気持ちよくできた、椅子にかけていたジャケットが途中で落ちたのはご愛嬌、ジャケットが落ちた音はCDにそのまま収録されている、ケンカしたことによっていいテイクが録れた。
「ふたり雨の日」は忘れられないレコーディングになった。
オケ録りが終わったらボーカルレコーディングが待ってる。
こっからが勝負なのだ。