68 かっちょ悪い失敗 黒幕はどこだ!
ツアーはとても楽しくやりがいがあった。
ゼロから作った曲をレコーディングし、できたCDを持ってキャンペーンをし、その集大成としてツアーがある。
ずーっとずーっとこの暮らしをしたい、そう思ったし、そうなると思ってた。
この頃の僕はとても楽観的でこれが続くものだと思っていた。
確かこのツアーだったと思う、大阪だったかな、名古屋だったかな、どちらかのクワトロでの出来事。
アンコール前のラスト曲が「WINDING ROAD」だった。
僕が歌い終わったあとバンドが長めのアウトロを演奏してる中、一人だけステージを去るという演出だった。
ジョージの長いエレキソロが続いて柴田さんのピアノにはストリングスが加わり、最高の盛り上がりの中一人手を振って去っていくといういわゆるちょっとやってみたかったカッコいい演出。
ステージというのはだいたいが黒い幕を使っている、今はわからないが当時のクワトロは会場が横に広くステージも高さ20㎝くらいととても低かった、黒い幕がステージの後ろや横や前にもかかっていた。
今までにないくらい最高に盛り上がる演奏をバックに……
まずは上手にゆっくり移動してゆっくりお辞儀。
そして下手にゆっくり移動してゆっくりお辞儀。
最後にセンターにゆっくり移動してゆっくりお辞儀してからの精一杯の
「サンキュー!ありがとう!また会おう!」
楽屋へ帰る幕をまくったつもりが、客席の方の幕をまくってしまったのだ。
そう、楽屋に行くつもりが客席にでてしまったのだ。
一番まえのお客さんが小声で「柿ちゃん、ここちがうで……こっちじゃないで……」
か「あれ?あら?……めくったま……く…このくろま……」
「また会おう!」と言った数秒後に、もうまた会ってしまった(照)。
ユイのヒロさんが「バっ!柿島!こっち!こっち!」と意外と聞こえる声で僕に早い手招をきした。
せっかくカッコいいエンディングを考えて退場のリハまでやったのに、という顔をしていた。
早くもどらなきゃ!
もうどの黒幕が本当の黒幕なのかわからなくなって、いわゆる悪いのが黒幕なんだけど、そういう意味の黒幕じゃなくて、いわゆる白幕を探すため、あらゆる幕をまくりながら「本当の幕はどれだ!」と心の中でまくしたてた(韻)。
遠くの席のお客さんも異変に気付き、会場からはカッコいい感じはスーッと引いていく、クスクスはすぐゲラゲラになった。
まさしく「人生はWINDING ROAD」一筋縄にはいかない。
アンコールはあったかい雰囲気になったことを覚えてる。
あったかいオーディエンスに感謝。