53 デビューライブ 渋谷クラブクワトロ
アルバム「名前のついていない場所へ」が発売されてすぐデビューお披露目ライブを渋谷クラブクワトロでやることになった。
ビクターが3曲入りくらいのデモCDを作って無料で配っていた、バブルのしっぽだなぁって思う。
バンドサウンドがいいだろうということでバンドでやることになった。
なぜならばファーストアルバムはナッシュビルレコーディングのゴリゴリのバンドサウンドだったからだ。
正直、バンドサウンドに慣れていない。
長い間ヒロさんとアコースティックライブをしてきた。
自分でギターとピアノを弾きながら歌う、そこに一本のギターが入る、これしかやってきてなかった。
アコースティックギターのリズムで歌うことで歌のリズムととってきた。
バンドサウンドはすごく嬉しいけど、自分にとってはすごく難しかった。
そしてリハが始まった。
素晴らしいミュージシャンが集まってくれて素晴らしい演奏をしてくれてるのに、どうしてもしっくりこない。
それはすぐ感じた、ピアノのスタイルだった。
ピアノのフレーズやタッチは自分てがものすごくこだわっているということにその時に気づいた。
ピアノのフレーズが心に火をつけ自分を盛り上げるんだと。
リハを一回やったあとに思い切ってマネージャーのリュウさんに打ち明けた。
か「ごめんなさい、どうしてもピアノが違うんですけど、どうすればいいですか」
りゅう「わかった」
そしてキーボーディストをチェインジしてくれた、新しいピアノはブンさん、最高のキーボーディスト、残念ながら10年くらい前に亡くなってしまった。
なんか偉そうで嫌だったんだけどどうしても違うのを我慢するのは苦しいと思った。
決してその方が下手とかじゃなくスタイルが違うだけだった。
これはひっくり返せば自分にも当てはまること、自分が呼ばれた時相手に違うと言われたらもちろんそれまで。
ミュージシャンもシンガーもオールマイティーじゃない、それぞれ柄があってクセがあって様々なスタイルがある。
僕の音楽知識と経験の少なさからはっきりとした意見を提示できなかった。
こういう音楽、こういう奏法、こういうアプローチ。
コードの選び方で音楽がかわる、セブンスを多用する音楽やメジャーセブンズやディミニッシュを多用する音楽。
ギターによっては歪みのスタイルで音楽性がわかれる。
そしてデビュ-ライブ本番。
渋谷クラブクワトロにものすごい人が集まってくれた。
「うそだろ!?デビューするとこんなに人が集まってくれるんだ!」と大きな勘違いをした。
自分が知られたわけじゃない、人気があるわけじゃない。
レコード会社と事務所が集めてくれたのだ。
だってちょっと前まで弁当配達と氷丸めるマンしかやってないのに一夜にして満員になるわけがない。
そう、内容は変わってない、少し前進したくらいだ。
弾き語りのセットの時はとても落ち着けて歌うことができた、いつものやつをやればいい。
自分が弾くギターの音にとても落ち着いたことを覚えている。
一曲だけ高校時代に夢中だったツヨシさん(デビューしたら呼び捨てはできない)のタカミネギターを借りて歌った、バランスが良くいい音がした。
プロのギターエンジニアがついてるというのは本当に安心できるんだなぁと。
デビューライブは華やかに見えると思う。
だけどうまく言えないけど晴れ晴れしい気持にはならなかった。
代々木公園でパンチパーマ君の前で歌った時の感動はなかった。
このバンドで確か3都市くらいまわったと思う。
そしておそらく僕だけが舞い上がってカラ回っていたと思う。
MCもあらかじめノートに書いていたものを練習して全ての場所で喋ってた。
それを見てブンさんが僕のMCの真似をしてバンドメンバーが笑った、これが似てるのだ。
「ライブとはこういうものだ」をやろうとしている僕が滑稽にみえたのだろう。
それまで一生懸命に作ってきた歌がふわっとしてしまった夜だった。
これは本当に悲しかった、これじゃダメだ!
なんか違う、これは違う、自分の好きな事を知らなきゃ。
具体的に知らなきゃ、自分をもっと知らなきゃ。
セカンドアルバムのレコーディングがせまっていた。