50 ナッシュビルレコーディング 開始!
スタジオに入る時が来た、ついにこの日が来た。
リズム録りは3曲づつ二日にわけて録る。
それが終わったら楽器のダビング。
そして最後に自分のギターダビングとボーカルレコーディング。
ドラム チャドクロムエル
ベース マイケルローズ
ギター ケニーグリーンバーグ
ピアノ マットローリング
アコギ 柿島伸次
全6曲このメンバーで録った、そしてダビングで……
オルガン ビルコーモ
スライドギター トムバレット
チャドはジャクソンブラウンのツアーが終わったばかりと言っていて、それを聞いただけでも武者震いがした。
日本からのエンジニアはナカちゃん、同世代で大のロック好き、僕のほとんどの曲をミックスしてくれてるメチャクチャ頼れる友だ。
僕が日本から持ってったタカミネ(takamine)をナッシュビルの人たちは「タカマイン!タカマイン!イエー!」って言ってた。
スタジオにミュージシャン達が続々と集まってくる。
一人一人握手とハグをして挨拶をする、ハグはもう大丈夫、ケーシーで経験づみだ。
みんな陽気でびっくりした、僕も自分で明るい方と思っていたがそれをゆうに上回る陽気さだ。
僕の名前は呼びやすかったみたいでみんなが「SHINJI!」って呼んでくれる。
ケーシー「送ってきてくれたテープをみんなに聴いてもらったんだけど、歌詞がよく聞き取れないって言うんや、みんな一生懸命聴いてもわからんゆうねん、なんかいいこと言ってそうなんやけど……」
そうりゃそうだ、メチャクチャ英語なんだから。
なんだかこの時自信がついた感覚になった「俺の英語もまんざらじゃないな」。
スタジオのでかいスピーカーから2DKで録ったデモテープが大音量で流される、メチャクチャ気持ちい。
彼らは聴きながら各々紙とペンでなにやら数字を書いていく。
か「ん!?なんだこれ?コードネームじゃないね?」
ケ「ナッシュビルチャート言うんよ、こっちのミュージシャンはみんなこれよ」
そして「OK!here we go!」といってブースに入っていく。
チューニングをしてクリック確認してセーノでドンだ!
信じられない光景が広がった、スピーカーから自分の曲が流れてくる、それもデモテープとほとんど同じだ。
俺の8トラックMTRより全然いい音が、いやこいつがなかったら今がない、Thank you My MTR!。
ピアノのフレーズは自分にとってとても大事なのでピアノブースに行って弾いて見せた、そしたらマットは「OK!OK!」といてすぐ弾いてくれた、お茶の子さいさい(懐かしい言葉)なんだなきっと。
僕のつたない演奏が素晴らしい演奏で生まれ変わっていく。
欧米人と日本人の違いを感じたことがあった、それは意見をはっきり言うだ。
ナッシュビルミュージシャンが「こうした方がいいと思うんだけどどうかな?」と言ってくる。
今いい雰囲気でやってるのだから雰囲気を壊さないほうがいいかな……なんて思ってモジモジしてた時がある。
ケーシーは「イエスかノーをはっきり言ってええんよ、言いたいこといわなきゃわからんし伝わらんよ」
まったくだ、おっしゃる通り、その日から僕らはイエスノーをはっきり言う様になった。
リズム録り二日目の最後の曲は「いまここから」だ。
その前に5曲録ってきてスタジオにいる人全員のグルーブ感みたいなものができてた。
エレキがD/A/G/ Bm/A/G/とシロタマ、同時にピアノラレララレラと高いボイシングで鳴る。
5小節目からドラムとベースが一気に入ってくる、このイントロは祝砲のように感じた。
なんとこの曲はワンテイクで決まった、信じられないかもしれないけどワンテイクで「OK!」となった。
この曲はアルバムの一曲目の『いまここから』だ。
あんなにイキイキした演奏聴いたことない、このアメイジングな瞬間を共にできたことを一生忘れない。
そしてオルガンダビング。
オルガンがこんなに楽曲を豊かにするとは思ってもみなかった。
僕が聴いてきたほとんどの音楽はオルガンは隠れるくらいの音しか入っていない気がしてたから。
ピアノとオルガンの組み合わせはこの日を機に大、大、大好きになる。
こうしてファーストアルバムの楽器RECは終了した。
ダビングでのギターソロの素晴らしさ、ケニーのアコギの弾き方、マイケルのメロディアスなベースライン、チャドの魂のドラミング、マットの人間業とは思えない縦横無尽なピアノ、感動的なシーンがいくつもある。
ベースのマイケルは日本が好きすぎて腕にタトゥーを入れていた。
だれが教えたかわからないが漢字で「曲」って彫ってあった、きっとsoundっていう意味で「音」とか「音楽」っていれたかったんだと思う、マイケルは僕らに「スゲーだろ!」という感じで笑顔で見せてきた、とても可愛くあたたかいエピソードだ。
そのマイケルも今年亡くなってしまった、マイケルとケーシーこの写真の中の二人はもういない。
今でもファーストアルバムを聴くとあの時の光景が目に浮かぶ。