40 コロムビアを通じて事務所オーディション
コロムビアのヨーさんは毎回ライブを観に来てくれていた。
タレント事務所はハッキリ!キッパリ!バッサリ!だったけどガッカリはしてなかった(4韻)。
経緯はわからないけど、コロムビアを通じて事務所のオーディションを受けることになった。
前にも書いたが窓口はコーさんがしていてくれた。
その事務所の名は「ユイ音楽工房」この名前は高校時代から知っている。
そして何年も憧れ続けてる事務所だ。
はじめ買ったLPは「かぐや姫ライブ」、高校時代夢中になってたのはツヨシ。
このお二人がいる事務所で、タクロウをはじめとするフォークロックの聖地みたいな所だ。
駒沢のパラダイススタジオだったのかなぁ?どこのスタジオでオーディションしたか全然覚えていない。
スタジオについたら部屋に通された、そこで歌う準備をして呼ばれるを待ってる。
「それじゃぁこちらへ」と声をかけられスタジオに入ったらビビった。
ユイ音楽工房の方々が15人くらい集まって黙ってズラッと並んで立っている。
その前をギターを持った僕は挨拶をしながら前を通ってブースにはいった。
そこにはレコーディング用のマイクがセットされててビデオが回ってた。
「もうちょっとオシャレしてくればよかったかなぁ」。
その頃の僕はヘインズのTシャツとリーバイスのジーンズで日常もライブも過ごしてた。
歌う直前に社長が入ってきた、この業界なら誰もが知ってるあの社長だ、もちろん僕も知っていた、貫禄が半端ない。
ゴクリと唾を飲み込んだ「始まる」。
こんなにたくさんの大人達の前で歌うことはもちろん初めて、めちゃくちゃ緊張した。
進行役の人だけは今でも覚えてる、カナさんだ。
優しい声が緊張を和らげてくれたから忘れない、その声を聞いて落ち着くことが出来た。
カナ「それでは自己紹介をして歌う曲を言ってから歌い始めてください」
か「柿島伸次です、1曲目スタートライン、よろしくお願いします!」
全部で何曲歌ったんだろう?7.8曲歌ったのか?
狭いブースでピアノはなかったのでギターだけで歌った。
起こっていることが夢すぎて現実感がないのだ、ふわふわしてるというか、なんていうか……フワフワしてたと思う。
ビクタースタジオで初めて「オーディエンス」を録ったあの時の感覚と違った。
これはなんでだろう?これに関しては今も理由がわからない。
全曲歌い終わった、すごい汗をかいた、僕は汗っかきでライブをやるといつも汗びっしょりになってた。
いわゆる談笑みたいなものもなく、弾き終わったギターを持って再び挨拶をしながら15人の前を通って控え室に帰った。
それから誰と何を話してどうやって帰ったか覚えてない。
これが夢にみていた瞬間だったのか?それがいまだったのか?
俺は夢をみてるのか?この現実感のなさはなんだろう?
数日、数週間たっても結果はわからなかった。
オーディション後、周りから少しづつ人が減っていくのを感じた。
そして弁当配達のバイトに戻る。
配達先のおじさんは「よぉ!歌う弁当屋!」といつものように声をかける。
僕は「弁当を配るシンガーです」といつものように返した。