数種類のありがちなクリスマスソングが一歩外に出ると壊れたレコードの様に私の脳を侵していく。
イブなんてもう何年も馬鹿馬鹿しいと冷めていた筈だった。
友人達と慰め合うこともしたくはなかった。

空元気に過ごし気を紛らわせ、明日から連休だという金曜日、マコトが仕事で会社にやって来た。

何ごともなく打ち合わせを終えてからマコトは帰って行った。
直接関わらない事案なので会釈だけで別れたが、退社する頃にメールが入いる。

「真千子ちゃん、元気なかったようだけど、思い過ごしかな。今日はこれからどうするの?」

「ご無沙汰してました。元気ですよ。
今日はこのまま帰ります。」

「僕は今一か所寄って、すぐ片付けるから、よかったら食事でもどうかな?」


寂しい者同士の食事など意味があることだろうか?暫く考えていたが、断ることにした。

「すみません、気分があまりノリません。今日は帰ります。」

「お茶だけなら大丈夫?」

「わかりました。では、通りのカフェMで待っています。」

マコトの食い下がらない対応に押されてしまった形で、私はMに向かった。

「ごめんね、無理に呼び出してしまって。」

マコトの笑顔を見ると急に懐かしいような気がして感情が揺れてしまう。涙ぐむ姿を悟られないように、平静を装う。

「お疲れ様でした。鍵谷さんは元気ですね。」

マコトと呼ぶことは出来なくなっていた。
鍵谷さんと、元々名字で呼んでいたが、マコトの提案で二人の時は名前で呼ぶようになっていた。
「あはは、また鍵谷さんに戻っちゃったね。」

「すいません。」

「別に謝らなくていいよ。それよりお腹は空かないの?」

「…そうですね、あまり空いていないです。」

「やっぱり元気ないじゃないの。何かあったの?」

私はもう、色々な言い訳を考えるのも面倒になってしまい、シュンタとの現状をすっかり洗いざらい話した。

「へー。じゃその彼は今夜はそのクルーザーのパーティに行くんだ。」

「と、思いますが本当かどうかはわかりません。」

マコトは昼食を食べ損ねたとのことで空腹だと言う。結局近くのダイニングに移動することになった。

すべて話したことで少し私は気持ちが軽くなっていた。


「実はね、僕もちょっとしたことがあったんだ。別れた奥さんがね、結婚するらしい、なんと出来ちゃった結婚だって。」
「そうなんですか?連絡があったのですか?」

「うん、ほら別れた時彼女はマンションにそのまま住んでいたから、名義とかの問題もあるからね。」

マコトは淡々と話しているが、やはりショックなことなのだろうか。

複雑な思いをしている、そんな感じであろうか。
「別に悲しい訳ではないよ。ただね、何となくね、子供は絶対欲しくないって言っていたからね。人は変わるんだね、当たり前だけど。」

「じゃ、今夜は傷心同士のクリスマスですね。」 「そうじゃないよ、真千子ちゃんを励ますクリスマス会だよ」
そう、それはマコトの思いやりかもしれなかった。そんな話をわざと持ち出しただけなのかもしれないが、マコトには素直に何でも話せることで、安心感が私の心を癒していくようだった。


それは深夜のメールだった。
寝ていた私がそのメッセージに気がついたのは翌朝であったが。

「返事おそくなってゴメン。ずっと調整つけていたけど、やっぱり旅行に行けなくなった。急な仕事が入りどうしても抜けられないんだ。また、連絡します。」

シュンタから長文のメールを初めて受け取った、内容は寒々しいものだったが。

朝の気怠い気分が一変してしまった。
もう、日付を超えて出発日の二日前になる。
悪い予感は今、目の前の私を嘲笑う。

やはりそうか、それでももしかしたらと一縷の望みを捨て切れなかった自分が情けなく憐れになる。
二人の関係をもっと密な特別なものとしようという目論見は見事打ち砕かれたのだ。


仕事をしていても、メッセージが何度も浮かんできてしまい、いつの間にか溜め息を何度もついてしまった。

仕事を何とか終えて帰宅してから、もう一度メールを開く。

頃合を見計らってシュンタに直接電話で話しをしよう。捨て置くことは出来なかった。

「もしもし、メール見たけど…」

「ゴメンゴメン、ずっと何とか行けるように考えていたけど、ダメだったんだ。
例の大物投資家がクリスマスに豪華クルーザーでパーティを開くんだ。
財界人を沢山呼んでいてね、顔繋ぎと手伝いを頼まれて断れないんだ。」
「…そう、仕方ないね。キャンセルしておくね。」

「あ、料金がかかったら言って。精算するから。」

「精算?何を?」

「キャンセルチャージのことだよ。」

私は精算と言う言葉が自分に向けられた様に感じた。
仕事という名目で先約をはじき飛ばすシュンタがやはり、冷淡で利己主義に思えてならない。


確かに新しいチャンスをシュンタは逃がしたくないのだろう。
そう信じていたかったが、やはり、疑念は払拭出来なかった。

シュンタはアクセルを全開に踏んで私を追い越して去って行く。

シュンタの行く先は…仕事か…女か…。