映画「彼方に」 2023(令和5)年10月25日 Netflix配信 ★★★★☆

(英語: 字幕翻訳 尹恵苑)

 

 

幼いローラと手をつないで街を歩くビジネスマンのダヨ。

今日はローラのダンスの発表会で、

娘を送り届けたら仕事に向かわなければならないのですが、

パパの前でダンスをしてくれるローラが可愛くて

同僚のジェームズに電話をして

なんとか会議のスケジュールを遅らせてもらおうとしています。

 

途中、暴走してくる自転車にぶつかりそうになりますが

なんとか回避。ローラにケガはありませんでした。

 

 

歩道橋の上から妻のアマンダが手を振っています。

歩道橋の上でハグする3人。

 

ジェームズからまた着信があり、ダヨがその場を離れた瞬間、

血まみれのナイフをもった男が

突然アマンダとローラに襲い掛かりました。

                (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

目の前で最愛の家族が 一瞬のうちに通り魔の餌食になってしまう・・・

とうてい耐えられない悲劇からはじめる短編ドラマです。

 

 

 

 

本作はアカデミー賞の短編実写映画賞にノミネートされていると聞き、

リストを見直したら、「The after(原題)」というのがこれですね。

その時にはすでに配信されていたのですが、気づかず、緑色にするのを忘れました。

 

本命の「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」の上映時間は39分ですが、

本作はわずか18分です。

 

なので、通り魔に刺されるまでも10分もないのですが、

その間にいかにダヨが家族を愛していたかがしっかり伝わります。

 

「冒頭10分で悲劇が起きる」というのは、長編映画でもそんなに珍しくないですが、

このあとだいたいはお決まりの流れ(イベント的なことやメディアの扱いとか)

邦画だったら、回想シーンや遺体との対面をいれて

音楽とか盛り上げて「泣かせどころ」をきっちり設定するでしょうね。

 

ところが本作はそういうの一切カット。(残り時間10分以下ですから)

 

後半はストリーと感想を一緒に書かせていただきます。(ネタバレ

 

 

事件後、

同僚や知り合い、被害者遺族のメンタルケアの部署などから

ひんぱんに電話はかかりますが、話す気にもなれず。

あの日スマホに残っていた妻からのメッセージに聞き入っています。

 

仕事は辞めて、白タク?のドライバーをするようになると、

客同士の会話が耳にはいるようになります。

ダヨから話しかけることはないのですが、

息子の自慢をきかされたり、レズのカムアウト、

老親が死にそうになっていたり・・・・

 

あるときは、後の席の老夫婦が

スマホがうまく使えない笑い話をしていて、妻の方が

(こんな時)ジョンなら・・・」といって急に口をつぐみます。

「あれから5年か」

「あの子が過ごせなかった人生を思うと・・・」

 

それを聞いて、運転席のダヨももらい泣き。

 

 

客の妻役はイギリス映画の名バイプレーヤー、ルース・シーンでした。

そういえば、主役のデヴィッド・オイェロウォもイギリス人だし、

そういえば、救急車呼ぶのも「999」でしたね。

 

 

そして、ローラが生きていれば誕生日だったある日。

 

乗り込んできた客は黒人の夫と白人の妻と女の子。

その女の子がローラによく似ているのです。

夫婦は後ろの席でずっと口喧嘩しており、

自宅に到着しても、女の子は車を降りようとしません。

 

ダヨが車のドアを開けてその子をおろすと、

なんと女の子はダヨを後ろからハグしてくれるのです。

 

両親は驚いて娘を連れ帰りますが、

ダヨには、ローラが生き返ってきてくれたとしか思えず、

その後も立ち上がることもできずに、

声をださずに涙を流し続けるのでした。

 

 

「自分の誕生日に、よその女の子の体を借りて

ローラがパパに会いに来た」

とか、そんなオカルトなことは言いたくないけど

世の中にはそういうスピリチュアルなことが実在することは確か。

これはちょっと「鬼の目にも涙」でした。

 

そのシーンには劇伴もつけず

「はい、ここで泣いてね!」ってつくりじゃなかったのも良かったです。

 

18分でこの完成度はすばらしい!

すばらしいけど・・・でも短編賞は「ヘンリーシュガー・・」でしょうね。

 

 

ロアルド・ダールの作風にここまで忠実につくってくれたウエス・アンダーソンには

脚色賞もあげたいな~ 

「チョコレート工場・・」なんてもう、もうめちゃくちゃだから、

草葉の陰でダールさんもきっとそう思ってることでしょう。

 

 

ボロ泣きしておいてなんですが、本作では

「父親は家族を守らなければ・・」という気持ちを

やけに強調しすぎていたような・・・

 

実体験があるわけではないので説得力ないですが、

ああいう極限状態で、本能的に子どもを守るのは母親なんですよね。

わが子を守るためには非力とか関係なく暴漢に立ち向かえるのです。

ここでは「父親からの視点」なのでこうなるんでしょうけど・・・・

 

また、

配信だと何度も見直せるのが良いような悪いような・・・で

あの自転車の男と通り魔が「まさか同一人物?」と思って

その辺もチェックしてしまいました。(ちなみに別人でした)

 

 

 

そして主役のデヴィッド・オイェロウォなんですが、

この18分の短編にここまで心をゆさぶられるのは、1にも2にも彼の演技力。

後半はほぼせりふもなくて、彼の表情のアップばかりでしたよね。

ほんと、素晴らしかったです。

 

下の一覧は、5年くらい前に、

映画業界で活躍するアフリカ系俳優をブログのなかで書きだしてみたものです。

(ほんとに全年代集めてもこのくらいの数で、この中で役を回してる印象)

これ書いたときは、オイェロウォも「グローリー」の主役のキング牧師とか大活躍だったんですが

最近名前を聞かないのがちょっと寂しい・・・・

 

 

①モーガン・フリーマン (1937年)★     

②サミュエル・L・ジャクソン(1948年)
③デンゼル・ワシントン (1954年)★

④エディー・マーフィー (1961年)
⑤フォレスト・ウィテカー(1961年)★

⑥ローレンス・フィッシュバーン(1961年)

⑦ドン・チードル  (1964年)
⑧ジェイミー・フォックス(1967年)★

⑨ウィル・スミス (1968年)★

⑩イドリス・エルバ  (1972年) 

⑪ドウェーン・ジョンソン(1972年)

⑫マハーシャラ・アリ(1976年)★

⑬デヴィッド・オイェロウォ(1976年)

⑭チャドウィック・ボーズマン(1976年)逝去
⑮キウェテル・イジョフォー(1977年)
⑯オマール・シー  (1978年)
⑰マイケル・B・ジョーダン(1987年)

⑱ダニエル・カルーヤ (1989年)

⑲ジョン・ボイエガ  (1992年)

(★はアカデミー賞受賞者)

 

 

たまたま主演作が日本未公開だったりしているようですが、

この舌を噛みそうな難しい名前がすっと出てくるくらい

メジャーになってほしいです。