映画 「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」 2023(令和5)年9月27日Netflix配信 ★★★★☆

原作本 「奇才ヘンリー・シュガーの物語」 ロアルド・ダール 評論社

(英語:字幕翻訳 風間綾平)

 

 
ヘンリー・シュガー(ベネディクト・カンバーバッチ)は41歳の独身男。
親の遺産でリッチに暮らし、一度も働いたことがありません。
有り余るほど金があるのに、妻に分けたくないから結婚もせず、
働くことなく、さらに財産を増やしたいと考えていました。
 
ある日、友人の家の書斎で、1冊の薄い本を見つけます。
タイトルは
「イムラット・カーン 目をつかわずして見る男」
(著者はチャテルジーというインドの外科部長)
(劇中劇の部分は青字で書いています。)
 
 
1935年12月 カルカッタ。

60歳くらいの小柄なカーンという男が病院を訪ねてきます。

彼は目をつかわずにものを見ることができ、

「この町のホールで旅回りの公演をするので協力してほしい」
 
目隠しが完全なこと、トリックのないことを
医師の先生に証明して欲しいというのです。
 
外科部長(ディヴ・パテル)が面白半分で実験してみると
彼の言うことは本当でした。
目隠しをしたまま階段を駆け下り、自転車に乗って街中を走ります。
その日の公演も大成功。
 
カーンは1873年、カシミール生まれ。
13歳のときに家を出て旅芸人の一座に加わります。
その後、本物の行者の空中浮遊を見て感動。
1890年、17歳の時、行者から奥義を授かります。
 
奇術で稼ぎながら何年もかけて
炎を見たり亡き兄の写真に集中して雑念を払う修業をして
ようやく34歳のとき今の能力を習得します。
 
目を使わずに脳に映像を送れるのなら
視覚障碍者への助けになる、論文を書いて発表すべき、と

チャテルジーは再び彼を訪ねるのですが、

彼は眠ったまま目を覚ますことなく、亡くなっていました。
 
これを読んで、ヘンリーは
「これで自分の人生が変わるかも!」と思いました。
                (あらすじ とりあえずここまで)
 
 
ロアルド・ダールの児童文学のうち多くが、すでに映画化され、
「チョコレート工場の秘密」が一番有名ですが、
本作の監督、ウェス・アンダーソンも「すばらしき父さん狐」を原作に
「ファンタスティックMr.FOX」というストップモーションアニメを作っています。
 

 

 

マチルダも魔女もBFGもおばけ桃も・・・

私もけっこう見ていますが、

ここまで原作本や原作者を意識した映画はなかったかも。

 

 

クエンティン・ブレイクのイラストの淡い色合いも

ウエス・アンダーソンの世界観と矛盾しませんね。

 

クレジットの筆記体の文字も、ダールの筆跡を模したフォントだったようです。

 

チョコレート工場は、正直

違和感ありありでしたからね。

 

登場人物は自分のせりふを発して演技するのではなく

本の内容をカメラ目線でト書き部分まで「読んで」くれるのです。

「朗読劇」というか、

まるで絵本を読み聞かせしてもらっているみたいでした。

 

その演者も、ベネディクト・カンバーバッチ、ベン・キングズレー、

デヴ・パテル、レイフ・ファインズという超一流どころです。

 

わずか37分の作品とは思えないほどの満足感でした。

 

続きです(ネタバレ

 

 

ヘンリーは
「この力を身につければ、カードで一儲けできる!」
と閃きます。
本来、取得には何十年もかかるものなのに
邪念を消して集中することで意外と早く透視に成功。
透視にかかる時間を5秒まで短縮するのに3年3か月。
 
最高級カジノ「ローズハウス」にでかけてブラックジャックを。
2枚の手札の合計が19のところでストップをかけず
もう1枚ひくヘンリーにみんなびっくりしますが、
彼には次のカードが「2」だということが見えていたから
なんなく大金を手にします。
 
わずか1時間で3万ポンド儲かり、現金を受け取りますが
スリルも緊張もないゲームに嫌気がさし、

ベランダから表通りに札束を撒くと、

警官(レイフ・ファインズ)がやってきます。

 

「これは暴動煽動罪だ。」
「そんなに金をバラまきたいのなら、然るべき場所に寄付するべき」
「貧乏も知らない金持ちのアホめ!」
 
 
警官の説教に納得したヘンリーは、
これからは慈善のためにカジノで稼ぐことを考えます。
 
シュガー家の会計士のジョン・ウィストンに相談し、
世界中を渡り歩いてカジノで大儲けし、
「ウィストン・シュガー合同会社」のスイスの口座に送金し
たくさんの小児病院や孤児院を作るための寄付をすることにしました。
 
ヘンリーは63歳で安らかな死を迎えます。
この話をダールのところに持ってきたのは
会計士のジョン・ウィストン本人でした。  (あらすじ ここまで)
 
 
原作と同じく、
「イムラット・カーン 目をつかわずして見る男」の劇中劇を入れ込んだ
「入れ子構造」になっていますが
映画ではさらに、最初と最後に
レイフ・ファインズ演じるロアルド・ダールの仕事部屋のシーンをいれて
三重の入れ子構造になっています。
 
それから、原作では30歳くらいだったカーンが
なぜか60歳すぎの老人になっていましたが
違いはこれくらいで、ここまでロアルド・ダールを意識してみられたのは
はじめてかもしれません。
 
 
配信だと、読んで観て、何度も味わうことができます。
けっこう早口で聞き逃した部分もあるし、
あの4人が端役にいたるまで何役もこなしているのも1度では見逃すので
本作は配信向きかも。
 

予告編を貼っておきます。

 
 
 
Netflixでは、本作につづいて
 
9月28日 『白鳥』
9月29日 『ネズミ捕り男』
9月30日 『毒』
 
と、立て続けに配信。(すべて配信済み)
 
すべて合わせても90分程度なのですが、
これは絶対、1日1編ずつ味わいたいですね。