映画 「燈火(ネオン)は消えず」 2024(令和6)年1月12日公開 ★★★★☆

(中国語: 字幕翻訳 上川智子、磯尚太郎)

 

 

会葬御礼のカードの乗った骨壺を抱えたメイヒョン(シルヴィア・チャン)。

夫のビルが亡くなって呆然としています。

ビルは香港では数少なくなった昔気質のネオン職人でしたが

メイヒョンには優しく、いつも夢を語るロマンチストでもありました。

 

ある日、夫の服のポケットから鍵の束をみつけ

それは10年前に廃業したはずの工房の鍵でした。

おそるおそる工房のドアを開けると、無人でしたが、

作業中の管は暖かく、食事をした形跡もありました。

新しい注文の伝票もあります。

 

娘のチョイホンは全然信じてくれませんが、

そこで見つけた名刺に電話をかけると、

「願いが叶うネオンをお探しですか?」

と、懐かしいビルの声の留守電につながりました。

 

もう一度工房を訪れると、なにやら謎の人影が・・・

「ビルなの?」「言い残したことがあるの?」

 

被り物を脱ぐと、それはレオと名乗る見知らぬ青年でした。

レオはビルを師匠と仰ぎ、ここでネオンづくりの指南を受けていたらしいのです。

 

「師匠が望むのならぼくはこの工房を引き継ぎます」

「師匠には作りたいネオンがあるんです」

 

 

 

ビルのやり残した仕事を完成させたいというのはメイヒョンも同じ。

次の日から、ビルの心残りのネオンを捜しに

親子のようなメイヒョンとレオで、街中を歩き回ります。

             (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

香港の「100万ドルの夜景」に欠かせなかったのが、色とりどりのネオンサインの看板です。

ところが、2010年の建築法改正で、厳しい制限が課されて、

もう9割以上のネオンが撤去されたといいます。


ビルは残された数少ないネオン職人で、10年前に廃業したはずなのに

こっそり工房で(弟子までとって)作業をしていたようなのです。

この夫婦、とても仲が良かったみたいなんですが、そんなに気づかないもの?

 

このあと理由がわかるのかと思ったら、

廃業後の工房以外の仕事とか

ビルの死因とかにも、最後まで全く触れないんですよ。

私が聞き逃したのかもしれないけれど、

長く患って亡くなったのと、急死や事故死では受け取り方が違うますよね。

 

大好きだった夫がある日、ふっとこの世から姿を消してしまった

ということで受け止めるしかないです。

 

 

若い時のふたりはネオンがきっかけて交際がはじまり

プロポーズも自作のネオンの前で。

メイヒョンの心の中の回想シーンが何度も挿入されます。

 

 

いっしょに工房に立ったり、白髪染めをしてもらうシーンとかも。

 

 

つづきです(ネタバレ

 

 

娘のチョイホンは、レオのことをあまり信用しておらず、

父の遺品を勝手にリサイクルに出してしまったり

ことごとくメイヒョンとかみあわないのですが、

母の老後を心配しており、

生命保険の運用とか考えてくれています。

 

チョイホンが連れてきた婚約者は仕事仲間の建築士、ロイ。

3年も付き合ってたと聞いて、メイヒョンは驚きます。

ふたりはすでに入籍日も決めており、

オーストラリアのビザもとれたので、9カ月以内に移住するときいて

メイヒョンはさらにショックを受けます。

 

 

ビルの工房には、今も修理の依頼があちこちから入ってきます。

顧客のなかには、

SARSや豚インフルで商売が立ち行かなくなって

支払いができないとき、ビルはお金もとらなかったと。

「看板あるところに商売あり」

商売が軌道にのったら払ってくれればいい、といわれたとか。

 

その時メイヒョンは、代金を回収してこないビルを責めたり

タクシー運転手への転職を薦めたりしていたのに・・・・

 

ビルの元顧客で、認知症になった老人の記憶を取りもどさせるために

メイヒョンたちは、あるネオンの再生に挑戦します。

ただ、そのネオンも一晩で取り壊される運命でした。(あらすじ ここまで)

 

 

 

ラストで、香港の実在のネオン職人たちが紹介され、

すでに消えてしまった香港のきらびやかなネオンが

映画のスクリーンに復活します。

ネオンのほうは実在しないので、過去の記録映像とかCGとか

映画のために新たに作りなおしたりして再現されたそうです。

 

最後の「ジャンボ水上レストラン」は曳航途中に水没したんでしたっけ?

ここに思い入れのある人にはゾクゾクするような映像だと思います。

 

エンドロールで一番盛り上がってしまったので

ラストどうなったのか、ちょっと記憶がないのですが、

奇跡を信じて、一夜限りのネオンの点灯にこぎつけるも

翌日には取り壊す・・ということだったような。

ネオンを設置するには膨大な申請書類や許可が必要で

それはとうてい無理だから、ということなのかな? ←想像です

 

工房は若いレオにまかせて、

メイヒョンもオーストラリアに行くんでしたっけ? ←これも自信ない

 

MOVIOLAの公式サイトはいつもとても情報量多いのですが

今回はそこまでではなく、未だわからないことだらけなんですが、

ともかく、映像の美しい作品でした。

 

メイヒョンは年代も近いのでもっと共感できると思ったんですが、

夫が廃業後10年も工房で働いていたことも

娘の交際相手にも気づかず、なんかいつも空回り。

 

無人の工房にマスクかぶった人がいたら、

普通は泥棒だと思いますが、ビルの幽霊だと思ってたんですね。

(大好きなビルだから、幽霊でもなんでも会いたい!というのはわかる!)

 

確かその時、レオは自殺を考えていたところだったので

メイヒョンは命を救ったことになります。(けっこう無理な設定だけど)

 

 

日本だったら、私くらいの年代の人は

「昭和が良かった~」

「あのころに戻りたい~」

とか言いがちで、

共感してもらえなくても怒られることはないですが、

香港だったら、もう安直なノスタルジーでおわらないんですよね。

政府批判になってしまう。

 

本篇のなかではネオン規制をきびしくした建築基準法への不満とか

そういう批判的なことを全くいわない一方で、

古き良きものを細く長く継承することの尊さも説かれています。

思ったことをそのまま発信できる日本とは違う国なんだということを

実感しました。

 

娘たちがオーストラリアに移住する、というのも、

「新しい世界への憧れ」というような生易しいものではなく、

この国にいては才能を発揮することもできない、と

自ら見切りをつける行為なのでしょう。

 

それから返還後の香港の映画産業も、

厳しい検閲のために思ったものが作れなくなったり

中国市場を意識した台湾・中国合作映画へ移行されたり

過去の輝きを失いつつあります。

失われゆくネオンサインを香港映画とむすびつけて観た人、

きっと多いのではないでしょうか。

 

消えゆくフィルム映画を連想した人もいるかも・・・

 

ネオンは高電圧で発熱もするから、

(香港に限らず)規制対象になるのはいたしかたなく、

安全性や経済性ではLEDに遠く及びません。

 

でもこのきらびやかさは

LEDでは無理でしょうね。

 

 

復活してほしいネオンサインは?

 

たとえば、

今はアルマーニになってしまった銀座不二越ビル屋上の

「森永の地球儀」とか!

 

 

 

それから、灯っているところを一度もみたことないのですが

池袋のキリン堂薬局のネオンサイン。

とりこわしになる前に、一晩でもいいから、点灯させてほしいなぁ・・・