映画 「グレート・インディアン・キッチン」 2022(令和4)年1月21日公開 ★★★★☆

(マラヤーラム語・英語: 字幕翻訳 加藤栄子)

 

 

インド・ケーララ州カリカット。

高カーストの2組の親戚筋がレストランで会食。
どうやらお見合いの場のようで、
「若い二人に話をさせよう、それがしきたりだ」
と 年長者たちは席を移動しますが、ふたりははにかむばかり。
それでも見合い話はまとまったようで、盛大な婚礼が行われます。

 



妻は結婚後、夫の両親と4人で、伝統的な広い屋敷に暮らすことになり
結婚式の翌日から義母と台所に立ちます。

「おねえさん、キレイね」
毎朝牛乳を届けてくれるジャーナキという可愛い少女を話をするときだけが
妻のほっとするひとときでした。

妻と義母はひたすら料理を作って運び、義父と夫は食べるだけ。
男たちが食べ散らかした食卓で、そのあと女性ふたりが黙々と食事をする・・・・
それがこの家のしきたりだったのです。


義父が外に出ようとすると、義母がすぐにサンダルを持ってきて揃えます。
歯を磨くときも歯ブラシを持ってくるのは義母で、もう召使以下。
夫はそこまで酷くないですが、家事を手伝うことは全くなく、
スマホをみたり、ヨガをしたりして食事の出てくるのを待つだけです。

夫の妹が出産間近で、手伝いに来てほしいと義母に電話があり
「お嫁さんが来たんだから、家事をやってもらえばいい」
ということで義母は出かけ、家事負担がひとりになってしまいます。

                          (あらすじ とりあえず ここまで)

 

新宿ピカデリーであっという間に上映が終わってしまい、

リストに入れていたのに 見損なった作品、

「下高井戸シネマ」でなんとかみられました。

 

格式ある家に嫁いだら、楽な暮らしができるどころか、家事が大変で参った!

・・・という話のインド版なんですけど、

ちょっと昔の日本のドラマだったら

「箸の上げ下ろしまでうるさく文句つける姑」とか

「姑にべったりのマザコン夫」とか

「出身地や実家をちくちくとディスる小姑」とか

こういうパターン、いくらでも出てきますが、

どうもこの家はそうではないんですね。

 

義母(姑)は寡黙な働き者で

むしろ妻(嫁)のことを気遣ってくれる優しい女性。

 

 

前半は義母と一緒に台所に立ち、いろんなインド料理を次々に仕上げていく手元が

上から映し出され、まるでクックパッドやクラシルの動画を見ているようでした。

火力の強い火で炒めたり揚げたり、リズミカルに包丁で切る音、

火の音や熱、香りも立ち上ってくるようで、空腹が刺激されるような映像です。

 

ただ、観ていて楽しかったのは最初のうちだけ。

義母がいなくなって家事負担が増えてくるあたりから、ひたすら苦行に思えてきます。

 

あらすじ、つづきです (ネタバレ

 

義父は義母がいないと何もできない人で、

歯を磨くときも義母のかわりに 妻(嫁)が歯ブラシをもっていかなくてはなりません。

ミキサーや炊飯器もあるけれど、使うと「手抜きだ」といわれ、

洗濯機で洗っているのをみた義父からは

「服が傷むから、私の分は手洗いしてくれ」と言われます。

義父はすでに仕事をリタイアしているので、

こんなジジイが一日中家でぶらぶらしているのです。

 

家が豪邸なわりに台所は非近代的で、蛇口は1か所、

流しもすぐ詰まり、排水管から水漏れもしています。

夫に頼んでも、業者を呼ぼうともせず、直す気もないから

台所の床はすぐに汚水にまみれてしまいます。

床掃除も掃除機は使わず、箒で掃くだけ。

台所では裸足でいなければならないので、割れたガラスを踏んでケガもしました。

 

ある日妻は生理になり、それを夫に告げると、

近所の手伝いの女性ウシャを呼んで家事を代行してもらうことに。

これは「生理の妻の体をいたわる」というのではなく、

「穢れた存在だから身を隠さなければいけない」のです。

小部屋に監禁され、誰とも会ってはいけません。

夫や義父の目を盗んでウシャと話をすると

彼女は生理でも働かないと生活できないので、それを隠して働くといいます。

 

ある日妻は、夫に「外に働きに行きたい」と相談しますが、

義父はあっさり却下。

「私の妻(義母)も大学卒で働きたがったが、ずっと主婦をしていた」

「主婦は何よりも尊い仕事だ」

義母に電話で相談すると

「採用されてから考えれば?」といわれたので

妻はこっそり就職活動を始めることにしました。

夫とレストランで外食したときのこと。

夫が食べ残しを皿の上に置いたので

「あら、家の外ではマナーを守るのね」というと夫は激怒します。

家では口から出したものをテーブルの上に散らかすのが

不潔で我慢ならなかったので、ちょっと皮肉を言ったのですが

「それが僕のマナーだ。謝れ!」と許してくれません。

 

仕事の面接通知が来たのも義父にバレて、これも怒られます。

 

妻はまた生理になり、今度は義父の妹が手伝いにきて、

「穢れた者がベッドに寝るな」

「床にゴザを敷いて寝ろ」だの

「洗った下着は裏の人目につかないところに干せ」

だのと文句をいわれます。

せっかくジャーナキが来て、

「おねえさ~ん」と呼んでくれても

隔離中だから、ちゃんと会うこともできずにいました。

 

スマホを見ていた妻は、女性の人権を訴える人の主張に共感するのですが、

SNSで拡散したことが夫にばれ、削除しろといわれます。

 

夫と義父は巡礼にでることを決め、

「潔斎」で心身を清める期間はさらに面倒なしきたりがあるのですが

それを知らない妻はまた反感をかうことになります。

 

夫の親族が集まった時、ついに我慢の限界が来た妻は

お茶のカップに下水の水を入れ、夫たちに汚水をぶちまけて家をでます。

 

実家に戻った妻は、帰宅した弟が当然のように母親に

「水をくれ」というのをみて、ブチ切れます。


妻は夫と離婚し、望み通り、ダンスの振り付けをする教師となりました。

夫は新しい妻を迎え、

「これまでの人生はリハーサルだった」といい、

新しい妻は夫の使ったカップを受け取って洗うのでした。     (おしまい)

 

 

もう後半は、この何にもしない2人の男にこき使われて、誰もが頭にきちゃうんですが、

この2人、人格的に問題ありというわけでもなく、まあまあ温和な物腰。

今までそれで来たから、これが「うちの方針」と思って疑問ももっていないみたい。

夫は学校で社会科とか教えているのにね。

 

ここの親族も同じようなものですが、

一般的にインドの高カーストの家が全部そうというわけでもなく

「潔斎中に生理中の女に触れたら、牛糞を食うしきたりだけど

そんなこと守る奴はいない」

と、ほぼ笑い話になってる感じなんですけど、

この家というか、この一族はやたらと遵守していて、

それを自分たちの「高潔さ」と勘違いしているんでしょうね。

 

たまたまこの家に嫁いできた義母が「よくできた嫁」で、しっかり役目を果たしてきたから

それがしっかり次の代に継承すべきことになってしまったのかも。

(宗教的なものはともかく)ちょっと昔の日本もこれに近いものがありましたが、

今のご時世、「理不尽」以外の何物でもないですね。

 

登場人物に名前があるのがミルク売りの少女とお手伝いの女性だけ、というのも象徴的。

「一般的などこにでもある話」となっているのが、むしろ恐ろしいです。

 

象徴的、といえば、この作品、字幕だけの無音のオープンロールが10分くらい続き

「楽しい娯楽映画じゃありませんよ、念のため」と言っているように思えました。

最後にはインド映画らしく、ダンスシーンもありましたが、

結局、夫に反省はなく、次の妻をめとって、この生活は変化なく続く・・・・

という、理にかなわない結末となっています。

 

最後のほうで夫の赤い車がうつった時は、

「夫は反省して実家に迎えに来たのかな?」と思ったのですが

運転していたのは妻でした。

車は「財産分与」でもらったのかな?

 

義父はひどいやつだけど、料理をほめたりもするし

夫も気配りを見せるところもあるし

なんか「完璧なクズ」と描いていないところが、

逆に割り切れない気持ちになりますね。

 

うーん、なかなかブラックな話ではありました。

 

***************

 

 

ここからは関係ない話。

 

実は私が観ていて一番イライラしたのは

夫と妻の家事分担、ではなく、あまりに効率の悪い家事をしていること。

ガスもあるのに、わざわざ火をおこしてご飯を炊くとか・・・

 

 

圧力鍋とか炊飯器とかあるのに使えないのは理不尽としか言えません。

チャトニは、その都度すりつぶしたほうが香りがたつんでしょうけど

ミキサー使ったっていいじゃん!と思いますけど。

 

作るほうがともかく、片付けるほうは、これがまた大変そう。

日本でも昔は、「雑巾」の一択でしたが、今はダイソーの便利グッズがたくさんあります。

インド料理、油をいっぱい使うから、お掃除グッズは便利だよ~!

 

もうね、ほんとにダイソーとかセリアとかに連れて行って、

5000円分くらい買ってあげたくなりました(笑)

 

こんなのがあったら、絶対に助かるよ~

 

お金がある家なんだから、いくらでも買えそうなのに、インドにはないのかな?

そもそも女性が助かるものを作ろうという気持ちがゼロなのでしょうか。

 

 

本作を(公開館が少ないのにわざわざ)映画館で観る人は、きっと

これも観てると思いますが↓

 

愛する妻のために生理用ナプキンを作った夫の話です(実話)

余計なフィクションを盛ったりして、映画としてはイマイチでしたが、

こういう人物のおかげで、生理中の女性が快適にすごせるようになるんですよね。

 

男女平等を意識として訴えることも大事だけれど、

家事労働を助けてくれる、安くて便利なグッズの商品開発も

とっても大事なことだと思うんですけどね。

 

すりこぎで時間をかけてすりつぶしたようにできる高性能ミキサー(フードプロセッサー)とか

釜で炊いたご飯を完璧に再現できる、ちょっと高級な炊飯器とか

どんな生地にも対応して、優しく洗える全自動洗濯機とか

うるさい義父もきっと黙らせる高性能家電が日本にはたくさんあるな~!

 

「政治家の数」とか「管理職になる割合」とか

そういうことだけで判断して「日本の女性の地位は低い」とかいわれるけど

違う見方もしたらいいのにね、と思った次第です。