映画「コーダ あいのうた」 2022(令和4)年1月21日公開 ★★☆☆☆

(英語; 字幕翻訳 古田由紀子)

 

 

父と兄と小さな漁船に乗り、夜明け前からトロール漁にでる高校生のルビー。

毎日寝不足のまま学校に行くので、授業中はいつも居眠りばかり。

 

ルビーの家族は両親も兄のレオも、ルビー以外は全員聴覚障碍者なため、

唯一の健常者のルビーが漁船に同乗しなければならないのです。

それだけでなく、病院に行くときも、漁協の集まりでも

ルビーが通訳しないと父は参加できないので、いつも同伴させられます。

しかも、年頃の娘が下ネタばかりの父のことばを通訳するのは恥ずかしいです。

 

 

歌が好きで、漁の間もいつも歌っているルビー。

新学期の部活選択では、秘かにあこがれているマイルズと同じ合唱部を選びます。

裕福な家に育ち、名門バークリー音楽学校を受験するというマイルズ。

顧問のヴィラロボス先生は、ルビーの声も

「不安定だが魅力的な声だ」と評価してくれて、マイルズ同様、

自宅での個人レッスンをしてくれることになります。

 

ただ、家族のサポートのために遅刻することが多く、

真剣さが足りないと先生には怒られるし、

家族からはもっと稼業を手伝ってほしいといわれるし・・・

 

ふたりは発表会でのデュエットにも指名され

いっしょに練習できるのは嬉しいけれど

自宅では両親が昼間から大声をあげてセックスしてたりとか

好きな男子の前で気まずすぎて、ルビーはうんざりです。

 

ある日、頼まれていた漁船への同乗を拒否して、

マイルズと湖で泳ぎ、デートを楽しむルビー。

 

 

たまたまその日は漁船に監視員が乗り込み、

健常者なしで漁に出ていることを沿岸警備隊に通報されて

多額の罰金が課されてしまいます。    (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

コーダというのは音楽用語で、

曲を繰り返し演奏した後の最後のエンディングの部分だということは知っていましたが、

もうひとつ、「Children of Deaf Adults」の略でもあります。

これは「“耳の聴こえない両親に育てられた子ども」を指し、まさにルビーのことです。

 

 

 

7年前のフランス映画「エール!」のリメイクだということにはすぐ気づいたんですが、

予想以上に「そのまま」でした。

下ネタ炸裂の豪快な父、スタイルよくておしゃれな母とかのキャラ設定も同じで

ストーリーもほぼ同じ、

フランス→アメリカ、酪農→漁業の違いと、弟が兄になったくらいかな?

それから、フランス版は両親は健常者の俳優が手話をマスターして演じたんだけど

本作は本当の聴覚障碍者だったような気がします。

 

「エール!」を見た時も思ったんですが、設定は現代のはずなのに、

「すべてが手話だのみ」というのが納得いきません。

日本だったら、聴覚障碍者同士は手話を使うとしても、

(今はマスクしていて難しいけど)健常者の話す口の形を読み取って、

一生懸命声を出して話してくれるように思うんだけど・・・・

 

パソコンやスマホにも便利な機能たくさんついているでしょうに、

仕事の話でも、なんでルビーが全部手伝うの?

 

「エール!」の時からすでに7年くらいたって、聴覚障碍者への意識改革、

人的サポートとかAI活用とか、格段に進んでいるはずなのに

おかしくないですか?

 

それに、「漁業」という稼業は、「酪農」以上に、聞こえないと危険な仕事ですよね?

一番信じられないのは、漁船で緊急応答にも出られずに

沿岸警備隊に捕まってしまい

「たまたまルビーがいなかった」

「たくさん罰金を払わなきゃいけない」

とか被害者意識でいるところ。

 

「私のせいなの?」っていうルビーの気持ちがよくわかります。

ていうか、罰金を科する前に、聴覚障碍者だけの漁船に何もサポートしてこなかった

自治体とか漁協とか、おとがめなしなのかな?

と思ってしまいました。

 

まあ、実話じゃないですからね。

観客が「ルビー、自分の夢と家の仕事の二者択一に苦しんでかわいそう~!」

と思えればいいわけです。

 

 

(結末) 「エール!」を観てない人にはネタバレです

 

 

合唱部の発表会では、観客席の両親に娘の歌は「音」としては聞こえないんですが、

聴いている人の反応やどよめきは両親にも伝わり

「うちの娘の歌が、こんなにたくさんの人たちを感動させている」

ということがわかって、進学をOKする、という流れ。

 

あきらめかけた音楽大学のオーディションにも、ギリ間に合って

緊張のなかオーディションがはじまり、

会場の後ろのほうに入ってきた家族に気づいたルビーは

聞こえない彼らに手話をつかって歌を届けようとするのです。

 

見事合格!

なぜかマックスは不合格で

「どうせ君はチェロ奏者とでも駆け落ちするんだろ?」(笑)   

 

・・・・なんて話になっています。        (あらすじ おしまい)

 

 

 

歌が聞こえなくても、聞いてる人たちがみんな微笑みながらうなずきながら聞いていて

大きな拍手を受けているのもわかるから、

「娘のこのギフトを無駄にしてはいけない!」と心底両親が思うところとか

最後の手話つきの歌も感動的で

映画祭でやったら、ぜったいに「観客賞」を獲れるタイプの作品なのは間違いないです。

 

実は「エール!」のとき、思わず私は★5つもつけちゃいました。(あとでちょっとだけ反省したけど)

 

 

音楽大学を歌で受験するのだから、歌曲やオペラのアリアが一般的でしょうが、

「エール!」ではフレンチポップス。

今回はなんとフォークソングですよ。

 

オーディションで歌ったのはジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」

え~っ!ですよね。まあ、いい曲だけど、

カラオケじゃあるまいし、鼻歌で弾き語りする歌じゃん!

大きな手話で一生懸命に歌詞を両親に伝えようとするようすは感動的だったんですが

あれで合格だすのは、ちょっと違うんじゃない?

って、直後に冷静に思ってしまった私・・・・

 

「エール!」では、たまたま自分の好きなミシェル・サルドゥの懐メロとかが出てきたので

ちょっと評価たかくなっちゃったんですが、今回はダメでした。

 

本作では父も母も兄も、実際の聴覚障碍者が演じている、ということ以外は

前作より良くなったところが見当たらないんですけど、

ホントにこれがゴールデングローブ賞の作品賞ノミネートなの?

受賞は100%ありえませんけど、

映画チラシもこんな自己評価高いものになっちゃっていますよ!

 

 

観て、なんとなく「感動っぽい体験」はできるから、おススメできないわけじゃないんですが、

世界的な賞をとるようなレベルのモノではないし、劣化リメイクだし、

「上質な映画をみたい」という方にはおススメはできないです。