映画 「GUNDA グンダ」 2021(令和3)年12月10日公開予定 ★★★☆☆

とある農場に暮らす母豚GUNDA。

小屋の中で横たわるGUNDAに生まれたばかりの子豚たちが群がり、必死に乳を求める。

やがて小屋から出られるほどに成長した子豚たちは、

GUNDAの後を追いながら野外を歩き回る。

さらに、農場を駆け回る牛や鶏など、躍動感あふれる動物たちの姿が映し出されていく。

                                                (シネマ・トゥデイ)

 

 

とある農場。
鳥の声、ブタの鼻息・・・
暗い納屋のなかで、生まれたばかりの10匹くらいの子ブタが
母ブタのおっぱいに群がっています。
体が濡れて黒光りしている小さい子(最後に生まれた?)は
なかなか乳にありつけず、ピーピー泣くばかり。
目の前に乳がきても、目がよくみえないのか、うまく吸えません。
元気な兄弟に遅れがちな子(さっきの子?)を
母ブタが踏みつけるようなシーンもあって、ひやっとしますが・・


 


小屋からオンドリたちが飛び出してきます。
たくましい脚で荒れた道の草をかきわけ、進んでいきますが
片足の鶏が一羽登場。
孤高の王のような毅然とした姿です。


再びブタ小屋。
子ブタたちもふっくら肉付きがよくなってきました。
母に踏まれた子(?)もびっこを引きながら
兄弟のあとをついていきます。

 



 

農場の牛たち。
白いブチの入り方がいろいろで
一頭たりとも同じ外見の個体はいないのですが
それ以上に個性が際立っています。
キリっとしたイケメン風
ぼんやりした夢うつつな風情
常にせかせか、せわしないタイプ・・・・



子ブタたちはかなり大きくなってきましたが、
それでも母ブタの乳をねらっていて
それを避けたいのか(?)
母ブタは水場の泥に体を沈めてドロドロになります。
降ってきた雨を飲もうとする母ブタ、それをまねる子ブタたち
長い子ブタの放尿シーンも。

ある日、大きな機械音とともに
コンバインのような車がブタ小屋のまえに止まります。
荷台が地面におろされ、子ブタたちの鳴き声・・・

車が走り去ると、そこにいるのは母ブタだけ。
ひとり残された母ブタを長回しのワンカットでカメラが追います。
小屋の前をぐるぐる歩き回り、時々立ち止まり
訴えるかのようなカメラ目線・・・
いつまでも鳴きながら歩き回っていた母ブタも
あきらめがついたか、小屋のなかに入ると、暗転。       (あらすじ おしまい)


コロナ後はじめて当選した、トークイベントつき試写会。(ヒューマントラスト渋谷)
日本初導入の音響システム“odessa”により、繊細で臨場感あふれる音体験ができました。

全編モノクロ映像で、せりふはもちろん、字幕もナレーションも音楽もなし。
にもかかわらず、情報量が多くて全く飽きません・・・
といいたいところですが、(飽きたり眠くなったりはしませんが)

よほど家畜に知識のある人や
音響オタクみたいな人以外には、たいして情報は入って来ず。
みんなより遅れた子ブタが乳をさがすところでは
「もうちょっと右だよ、ガンバレ!」って全員が思うだろうし
子ブタがこっちにおしりを向けて放尿するところでは
「おしっこ、長い!」とびっくりするだろうし、そんな程度です。


農場のドキュメンタリーでもなければ、食育とか環境保護を声高に訴える感じでもないし
この映画を通して伝えたいことは正直、よくわかりません。

 

あきらかに肉食用の子ブタたち、トサカのあるオンドリたち、

牛たちも乳牛ではなさそうだし・・・

ヴィーガンで有名なホアキン・フェニックスが関わっているようなので
ラストの母ブタの表情を追い続ける10分の長回しは

「それでもあなたは私の子どもたちを食べ続けるのか?」とか

そういうメッセージなのかな?

ただ、撮影と音響に関しては、とことん神経をつかっていることは
誰の目から見てもわかります。
「偶然監視カメラにうつりこんだ動物たちの自然な姿」
だったら珍しくないですが、
本作はめちゃめちゃ準備して、こっちから撮りにいってるのです。


「人間の作ったストーリーにあわせて
膨大なフィルムを探しまくって編集してつなぎ合わせる」
というのもよくあるネイチャー映画ですが、
本作は基本「長回しのワンカット」
そこには人間の思惑が入る余地はありません。

上映後のトークショーのなかでは
「ブタ小屋には8つのカメラと指向性の強いマイクを仕込んで
でもブタたちのストレスにならないよう、最大限の配慮をしてるはず」
「映ってはこないけれど、(全くの自然の中ではなく)
かすかに聞こえる遠い音からも、人間の営みを背景に感じさせる映画」

というようなお話がありました。


今回の試写会では、SNS投稿はむしろ奨励されており、
上映前にこんなプリントもいただきました。

 



 

場面写真はありがたく使わせていただきますが、
ネタバレ満載で書くつもりが、あまりに私に受け取れる情報量がなくて
こんな内容ですみません。
GUNDAというタイトルの意味もわからなかったんですが
あの母ブタの名前だということを、トークショーではじめて知りました。

 

 


コロナ禍の始まったころに観た「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」も
農場が舞台のドキュメンタリーでしたが、こっちは膨大な情報量。
こちらに登場する「ビッグマザー エマ」もGUNDAと同じく
肉食用子ブタを生み育てる「育成ブタ」でした。
育成ブタって、年に2,3回出産し、そのたびに「子ブタとの別れ」を経験し
人間との関係の深い家族同様のエマは、それを「職務」と割り切っているように思えたから
あの執拗にも思えるラストシーンは、私にはショッキングではありました。

ここの農場主やスタッフなど「人間」の

動物へのフォローや世話や感情がすっぽり落ちているのは

それが作品の趣旨なのかもしれないけれど、ちょっとモヤモヤしました。
(GUNDA って調べたら「暴漢」とか「犯罪者」とかでしたが、
もうちょっといい名前つけてあげて欲しいし・・・)

会場で
「この作品を人にすすめますか?なんと言ってすすめますか?」
というようなアンケートが配られました。

本作は類のない「大傑作」なのかもしれないけれど、
正直、あんまり「普通の」人にはすすめられない「実験的作品」と言えるかも。
ただ、映画とは考えずに家畜の世界を「体験」するつもりで
音の良いシアターを選んで鑑賞するのは「あり」だと思います。