映画「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」 令和2年3月14日公開 ★★★★☆

(英語、 字幕翻訳 安本煕生)

 

 

映画制作者のジョンと料理家のモリー夫妻は、

殺処分寸前だった犬のトッドとロサンゼルスのアパートで暮らしていたが、

トッドの鳴き声が原因で追い出されてしまう。

そこで彼らは、本当に体にいい食べ物を育てるために農場を立ち上げることに決め、

愛犬と共に郊外に移住する。                          (シネマ・トゥデイ)

 

カリフォルニアで起こった大規模な山火事。

ジョンとモリーの農場のすぐそばまで迫り、家も財産もすべて置き去りに

たくさんの動物たちを連れて逃げるふたり。

 

そしてテロップが流れます。

「自然と共生する農場を作りたいという僕たちの思いは

無謀すぎる、と理解されなかった」

「ぼくらはある犬との約束を守りたかった」

 

 

話は2010年にさかのぼります。

サンタモニカのアパートに住んでいたふたり。

夫のジョンは野生カメラマンで、妻のモリーは料理ブロガーで

食の質はまず、作物の農法に左右されると考えていました。

絵本にでてくるような農場で自然と共存しながら、あらゆる食材を育てたい・・・・

と思いながら、ベランダでトマトを育てるような日々。

 

ある日、ふたりは、殺処分寸前の黒い子犬に出会い、家に迎えます。

トッドと名付けられたこの子との出会いが人生の転機となるのです。

トッドは留守中ずっと吠え続け、トレーナーもスプレーもなにをやっても失敗。

あまりのうるささに苦情続出で、大家からは立ち退きを迫られます。

 

それなら、トッドが思い切り走り回れるような農場に引っ越せば、モリーの夢も叶う・・・

とはいっても二人にそんな資金はなありません。

ところが、ネットで「伝統農法にこだわった農業ビジネス」を発信すると、ぞくぞくと投資家が集まり、

ロスから北へ1時間のムアパークに80万㎡もの土地を買うことができました。

 

アプリコットレーンと素敵な名前をつけたものの、

ここは今まで何人もの人たちが農業を始めようとして失敗していた問題の多い乾燥地帯で、

こんな荒れ果てたところに、全く素人の夫婦がやってきて、何をできるというのか?

 

そこでモリーは、バイオダイナミック農法の草分けであるアラン・ヨークという専門家を招くことにします。

アランのやり方は、効率よく作物を育てて高い収益を上げることを目的にした農業ビジネスとは真逆で

まずは(商品にもならないような)様々な植物をバランスよく植え、それと共存する動物を育て、

農地を最初から作り直す、途方もない農園づくり。

 

まずは木を排除して焼き、8キロもの長さの水路を建設します(ここまででぐったり)

次はミミズの堆肥施設。ミミズの大量のフンを集めて液体肥料をつくるのです。

収穫の目途もたたないまま、最初に出資してもらったお金などすぐに消えてしまいました。

お金はさらなるクラウドファンディングで調達し

ネットで募集したボランティアの若者たちに手伝ってもらいながら、さらに作業は続きます。

 

鶏や羊や鴨のひな、牛まで購入して、今度は酪農をはじめます。

牧羊犬のカヤとロージー、ブタのビッグマザー、エマとか、

家族の一員となるような動物たちも次々にやってきます。

 

次は、8万㎡もの広大な果樹園をつくり、

75種類もの果物を次々に植えていきます。

 

 

ブタのエマは一度に15匹とか、ともかくどんどん出産し、

鶏たちの生む新鮮タマゴとか果物とか、ようやく「農産物」らしきものが出荷できるようになりますが

資金回収は夢のまた夢。

 

それでも「多様化」が生命に満ちたサイクルを完成させ、すべての生物が「共生」できる

夢のような農場の完成が近づいていきます。

 

ところが、ここで頼みのアランが戦線離脱。

彼は人知れずずっとガンと闘っていたのです。

 

アラン亡きあとも、失敗を重ねながらも理想の農場づくりは進みます。

 

雑草 → 除草剤はつかわず、羊たちに食べてもらって、彼らのフンが土地を肥やす

カタツムリ → 鴨たちが食べる

果物を食い散らかすムクドリ → 鷹が追い払う

フンにわくウジ虫 → 鶏たちの大好物

大量のアブラムシ → 天敵のカタツムリやテントウムシが駆除してくれる

土を掘り返すホリネズミ → メンフクロウが捕える

 

作物が豊かに実るとかならず害虫がやってくるけれど、

すぐに駆除しないでいると、必ず天敵がやってきてくれて

全滅はしないまでも「共存レベル」に落ち着くのです。

 

一度、鶏を襲うコヨーテにむかって発砲し、理想がくだけた、と絶望することもありましたが

最後には彼らも鶏ではなく、ホリネズミをターゲットにするようになってくれました。

 

1200年ぶりの大規模な干ばつや歴史的な大雨も経験しましたが、

被覆植物のおかげで帯水層に水がたまるようになっているここの土地に限っては、全く無傷でした。

 

愛犬トッドは年老いて亡くなりますが、モリーには新しい命が宿り

息子のボーディーが生まれます。

この理想郷のような農園は見学者も多く

展望台には恩人のアラン・ヨークの名前が付けられました。

 

冒頭で起こった山火事も、幸い風向きがかわってくれて

彼らの農場は被害を免れることができました            (あらすじ ここまで)

 

 

コロナ明け直後に見たのだけれど、ノートを忘れてセリフやナレーションが書きとれず

記憶だけで再現してみました(なので、かなりいい加減です)

 

新型コロナに翻弄されたこの状況で見ると、

もう何もかもが神の啓示的に思えてしまいます。

人間にとって「よろしくないもの」は全力で排除するのではなく

「ともに生きていく」精神ですね。

 

『ウィズ コロナ』といえば聞こえはいいけれど、

もしかして「増えすぎた人間の数を調整するためにあらわれた?」なんて考えがよぎって

ドキッとしてしまいました。

 

それはともかく、「全カットが見どころ」のいい映画でしたよ。

夫のジョンは、農場経営は素人ですが、野生カメラマンで映像のプロですからね。

自然の美しさ、雄大さ、残酷さもストレートに伝わり

当事者でしかとれないような 動物とのふれあいにも癒されます。

 

あと、このふたりがバリバリの環境活動家でないこともありがたかった。

多分支援者のなかにはそういう人たちもいるんでしょうけど、

このふたりは いたって自然体。

農場をはじめるきっかけも、「トッドを自然の中でのびのび育てたかった」からで

別に都会での生活を否定しているわけではありません。

 

 

農業をビジネスと考えたら、手間をかけずに高く売れる作物を大量に作るのがベストですが

ここではそういうのは全く無視です。

なにか害をあたえるものがあらわれても人為的に駆除せず、

食物連鎖を利用してサイクルをつくって

いろんな生物をその中に取り込んでいくのです。

(コロナウィルスはわからないけど)人間の害になるためだけに

生まれてくるものなんて、この世には存在しないという考えかた。

そして生態系のサイクルがうまくまわれば、

農薬や猟銃を使わなくても、人間にも豊かな恵みが授けられるというわけです。

 

 

ジャンル分けするとしたら、本作は

環境系の「オーガニック映画」に分類されるのでしょうか。

実は私は、(誰とはいわないけど)猛烈に自己主張する環境活動家というのが大の苦手で

本能的にその場から逃げ出したくなるんですけど、

この映画はまったくストレスなく観られました。

 

人間の都合で生態系を壊すのはよくない!

というのも、意外なほどすんなり受け入れられました。


 

ビッグマザーのブタのエマなんて、すごくキャラがたっていて、

「ベイブ」みたいに人間のことばをしゃべりだしそうな勢いでした。

犬のトッドやロージー、鶏のグリッシーも・・・

これ、「動物映画」「ペット映画」としても楽しめる作品ですよ。