映画「キーパー ある兵士の奇跡」 令和2年10月23日公開 ★★★★☆

(英語・ドイツ語、 字幕翻訳 牧野琴子)

 

 

 

1945年、戦地で捕虜となったナチスドイツの兵士バート・トラウトマン(デヴィッド・クロス)は

イギリスの収容所に送られる。

収容所内でサッカーをしていた際に地元チームからゴールキーパーとしてスカウトされ、

試合で実績を残した彼は名門サッカークラブ「マンチェスター・シティFC」に入団。

元敵兵に対する罵詈雑言を浴びながらもトラウトマンはゴールを守り抜き、

やがて歴史ある大会でチームの優勝に貢献する。              (シネマ・トゥデイ)

 

 

ドイツの落下傘部隊のバート・トラウトマンは、森を進軍中にたくさんの仲間を失い、

生き延びた彼は捕虜としてイギリスのランカシャー収容所に送られます。

 

(おこりんぼの軍曹→ハリポタのダドリーだったハリー・メリングでした)

 

「この鉄十字は?お前は筋金入りか?」

「俺に決定権があれば全員処刑だがね」

ナチスに強い憎悪を抱くスマイス軍曹からはたびたび嫌がらせを受け

ドイツの敗戦で終戦を迎えるも、帰国は認められません。

戦犯がいないか調査し、残りは思考の再教育をするといわれて、

ホロコーストの残虐なビデオとか見させられます。

 

ただ、「捕虜は人道的に扱われる」と宣言するまあまあ良心的な収容所のようで

休憩時間にはタバコ吸ったりサッカーすることもありでした。

 

 

バートは、実はゴールキーパーの腕が超一流で

タバコを賭けたPK戦では 連戦連勝。

収容所に出入りしている物品の納入業者のジャックは、偶然それを見かけ、

「あのブロンドのキーパー、いいじゃないか!」と気に入ります。

 

実はジャックは、食料品店を経営する傍ら、地元サッカーチームの監督でもあるのですが、

チームは大不振でこれ以上負けると、降格やスポンサーに見放される危険も。

ジャックは賄賂で大佐を買収し、一時的にバートをチームの助っ人として借り受けることに成功。

「ブラッドフォード出身のバート」とメンバーには紹介し、しゃべらないようにとくぎを刺しますが、

早々にドイツ兵捕虜だということがバレて、チーム内は大騒ぎ。

特にキーパーのポジションを奪われたアルフとキャプテンのビルは大反対しますが、

彼がアルフにかわって出場した試合では

バートのスーパーセーブのお陰で3-0で久々の勝利を得ることができました。

 

ジャックはその後も毎日収容所へ送り迎えをし、

試合のない日は食料品店の手伝いまでさせるようになり、

バートとジャックの家族が顔を合わせることも多くなります。

 

 

ジャックの娘のマーガレットはチームのビルと交際しており、

ドイツ軍の空襲で亡くなった友人もいるから、そもそもバートをチームや店に置くことには反対。

それでも、試合ではチームを救い、店でも黙々と働き、人あたりもいい彼にたいして

ジャックの家族は少しずつ好感を持つようになってきます。

 

収容所の閉鎖が閉鎖され、バートのドイツ帰国が決まります。

その1週間後にリーグ残留をかける大事な試合を控えているので

ジャックは落胆しますが、バートはこのままイギリスに残ることを決め、

見事チームを勝利に導きます。

 

バートの活躍を知った名門FCマンチェスターシティのトンプソン監督が偵察に来ており、

監督直々にマンシティの入団テストを受けるよう薦められます。

マーガレットの心も、ビルから完全にバートのものになっていました。 

                                 (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

実話だということも知らずにみていたんですが、帰って調べてみたら、

バート・トラウトマンは1923年ブレーメン生まれのドイツ人で、

西部戦線で1000人の部隊のうち、生き残った90人のひとり。

捕虜となるも、戦後もそのままイギリスにとどまって、

伝説のゴールキーパーといわれた実在のサッカー選手でした。

 

彼はすぐれた兵士として国から表彰されるほどだったんですが、

敵国にしてみたら、ナチスの人殺し軍団でしかないわけで、

それはもうひどい言われようです。

イギリス人たちは、

多くのイギリスの民間人を殺したドイツ軍の爆撃も

ユダヤ人を迫害したホロコーストも、

全部その責任をこのドイツ青年にぶつけてくるのです。

「自分に選択肢はなかった」としか反論できないバート。

 

マーガレットの家族で一番最初にバートに心を開いたのは妹のバーバラ。

ちょっと人見知りのふっくら少女なんですが、

竹馬をつくって乗り方を教えてくれたりするバートにすっかり懐いてしまいます。

そばにいる人は、だんだんみんな彼のことが好きになっていくんですが、

だからといってバートとマーガレットの距離が縮まるのを父のジャックは心配でなりません。

 

「おまえはいいやつだが、世間はドイツを憎んでいる」

「あの子に重荷を背負わせたいか?」

そういってふたりの結婚には反対するのですが、

逆にふたりはより親密になって、ふたりは結婚します。

とりあえず、ハッピーエンド。

「愛が国境や偏見を越えた」みたいな嬉しい気持ちになりますが、

ドラマはこれからが本番です。

 

 

 

(あらすじのつづき) ネタバレ?

 

1949年10月、

マンチェスターシティはバートの入団の記者会見を開きます。

彼がドイツ人だということはある程度折込済みでしたが、

「(徴兵ではなく)志願兵だったというのは本当か?」

「鉄十字勲章をもらったのは本当か?」

というような質問があいつぎ、バートは否定しなかったので、記者会見は大混乱。

バートが出場する最初の試合でも会場内が大ブーイングでした。

「ナチ野郎は国に帰れ!」

「戦死者への冒涜だ」

 

鉄十字勲章をもらったというのはマーガレットも実は初耳で、夫に怒りをぶつけるものの、

反対派の集まっているところに乗り込んでいって、

父ジャックと、バートのために必死で反論します。

 

「ドイツ人の罪は消えないが赦すことはできる」

「バートの人生には戦争とサッカーしかなかった」

「ひとりの人間にすべてを負わせるの?」

「戦争で傷ついて必死で立ち上がろうとしているのに・・・」

「みんなで束になって鞭打って憎むほうが簡単」

「あなたたちも加害者なのよ」

 

マーガレットの言葉に心を動かされたユダヤ人コミュニティのラビは 声明を出します。

「わが教団はチームへの支持を表明します」

「このキーパーが良識ある人なら、サッカーへの力量で判断すべき」

 

これをきっかけに、次第にバートはシティの守護神として人々に受け入れられるようになり、

1951年には二人の間に男の子が誕生。

チームも彼の活躍もあり、強豪チームとして定着し、

1956年、女王陛下をむかえて、ウィンブリースタジアムでのFAカップ決勝戦。

相手選手の膝がバートの首を直撃しますが、首を庇いながらもバートは試合を続行し、

チームは優勝、バートは最優秀選手に選ばれます。

ところが、病院で診察すると、彼の頸椎はふたつに折れてしまっていて、

命にかかわる重傷だったのです。

 

入院して回復のきざしがみえたものの、

今度は最愛の息子ジョニーが車に轢かれて、わずか6歳(5歳?)で亡くなってしまいます。

 

「これは僕のせいだ」とバート。

戦争中に、任地に派遣されたとき、

ボールを取りに来たロシア人の少年を後ろから面白半分に撃ち殺した同僚を見ていながら

止められなかった自分をずっと恥じており、その後、常に少年の影を感じていました。

ジョニーが召されたのも、自分の過去の過ちのせいだとうつむきます。

マーガレットは

「あの子は私の息子でもあるのよ。いっしょに償わされるのはまっぴら」

「前に進むしかないでしょ!ここで朽ち果てるつもりなの?」

 

バートは引退を撤回してチームに戻り、

1964年までに545試合に出場、多くの賞をとり、

また、英独の関係改善につとめたと、両国から表彰され

1980年にマーガレットが、また、2013年にバードが89歳で亡くなったことが告げられます。

                                          (あらすじ おしまい)

 

後半もなかなかの波乱万丈ぶりですが、起こったことは彼の人生そのもの。

ただ、たとえば、エンドロールの文章では、バートとマーガレットがまるで

「死がふたりを分かつまで添い遂げた」ように聞こえますが、

実はジョニーを亡くしたあと、(これが原因で)ふたりは離婚していていました。

バートは生涯3回も結婚して、他に婚外子もいたりして・・・・

なかなかにお盛んな人だったんですよ  ポーン(ちょっとショック)

 

個々のエピソードも、どの程度ホントなのかも不明です。

 

ジョニーの墓参りにいったら、収容所のスマイス軍曹と出会うシーン。

彼はドイツ軍の空襲で失った妻や子どもたちの墓参りにきていたのです。

「サッカーを辞めるって聞いたが、息子のために

お前を受け入れた人たちのために、ピッチに戻れ」

「サッカーで恩返ししろ」

そういって、バートが持っていた木のお守り(件の少年の遺品)を渡して去っていく・・・・

ぜったい脚色だと思ったので、あらすじでも省略してしまいましたが、

けっこうこういう疑惑のエピソードがてんこ盛りなんですよね!

 

恋人のエリザベスの気持ちの変化に気づいたビルが

土砂降りの雨の中、彼女を賭けてPK合戦するというのも

(ホントか嘘かはともかく)エピソードとしても、なんだかな~という感じ。

 

あと、スポーツ映画としてみると、ゴールをセーブするシーンばかりだから、

(ルールのわからない私には好都合でしたが)

サッカーファンにはちょっと物足りないかも知れません。

 

全体的に若干脚色過多のような気もしますが、

激戦を生き残り、終戦直後の敵国で、地元のサッカークラブに入り

人々に受け入れられていく・・・って、

前半のそこまで、事実だけつないでも、映画1本分の分量ありましたが、

その後も、なんと手かずの多いこと!

 

彼は歴史にのこる優れたキーパーだったわけですが、

そのためにどんな努力をしたのか?ってそれだけじゃなくて、

それぞれの場面にいろいろなことを考えさせられます。

 

そもそも戦争は「喧嘩両成敗」にはならず、「負けた方が悪」なので

サッカーの試合以上に「勝たなきゃダメ」という不条理なシステムで

ナチスのホロコーストが明るみに出た敗戦国ドイツの戦後を考えると、

ドイツ国民はどれだけの反省と謝罪と強いられたかと思うと恐ろしくなります。

 

「赦すことは難しいけど憎むのは簡単」

 

マーガレットのこのことばは、赦すほうの立場の人しかいえませんが、

たしかに、寄ってたかって攻撃するのは楽ですけど、

相手の立場を慮って心から赦すことは簡単なことではありません。

でもそれをしないと、いつまでも前に進めないんですよね。

 

スポーツは政治とは無関係といいながらも影響を受けることも多いですが、

バートはそのプレイで、英独の人々の心の架け橋となり

両国から勲章をうけるほど評価されていることは、やっぱり「いい話」です。

 

3回も結婚してるのがちょっとひっかかりますが(笑)

それは、きっと彼が魅力的な男性だったということで・・・・

 

 

主役のデヴィッド(ダフィット)・クロスはどこかで見たことあると思ったら、

「愛を読むひと」のあの少年でした。 10年以上たっても面影同じですね!