映画 「愛を読むひと」 平成21年6月19日 ★★★★★
原作本 「朗読者」 ベルンハルト・シュリンク 新潮社


読んで♪観て♪


1958年のドイツ。
15歳のマイケルは21歳年上のハンナとの初めての情事にのめり込む。 
ハンナの部屋に足繁く通い、請われるままに始めた本の朗読によって、
2人の時間はいっそう濃密なものになるが、 
 ある日、ハンナは忽然と姿を消す。 
1966年、大学で法律を学ぶマイケルは傍聴した法廷の被告席にハンナを見つける。
裁判に通ううちに彼女が必死に隠し通してきた秘密にようやく気づき、
衝撃を受けるのだった。   [ GOO映画 ]  

「朗読者」がたくさんのメディアで絶賛され、
ベストセラーとなったのは9年前。
私の好きな新潮クレストブックから出ていたこともあり、
「流行りものはとりあえずおさえる」感じで読んだら、
「せつない恋愛ドラマ」という紹介とはうらはらのエロいシーン。
ハンナのイメージもつかめず、時代背景もとらえられずに、
ざっと読んだだけで放り出してしまいました。

ちゃんと読んでいなかったから、車掌の仕事の後に看守?
とすると、出会ったときは戦時中?
ハンナとミヒャエルの年齢も計算があわなくて・・・・


それが、映画を観て、すっきり解決ひらめき電球
ケイト・ウィンスレッドのハンナも心から納得でした。
はっとする美しさと生活感を持ち合わせた女優さんて
少ないですよね。ニコール・キッドマンだったら、こうはいかなかったな・・・

ハンナは1922年生まれ。
マイケル(ミヒャエル)は1943年生まれ。
二人が出会った1958年には
ハンナは36歳、マイケルは15歳でした。

作者のシュリンク氏は、1944年生まれの弁護士。
というのは、マイケルその人?
もちろん自伝ではないのでしょうが、
裁判の傍聴シーンなどとてもリアルで、
ナチスがユダヤ人に対して行った戦争犯罪についての
戦後処理について垣間見た気がします。

(ついでにいうと)マイケルの娘のユリアは
おそらく1960年代後半位の生まれなので、
これはもう「ちょっと昔の話」なのですね。

予備知識なしにいきなり本を読んだら
↑こういう最低限のこともわかりづらいので、
私は張り込めなかったのかも。
あれだけのベストセラーでしたが、日本人の何割くらいの人が
本当に理解できたのかな?と思ってしまいました。
たしかに素晴らしい本ですが、
「誰が読んでも絶対感動できる」みたいな宣伝のしかたは
かえって本嫌いを増やしてしまうような気がします。

映画のオススメも同じ。
映画オタクの人が「これが傑作!」と思う映画を
年間2,3本しか見ない人に勧めてもね。
小難しいのを勧めておいて、感想を求めたりしたら、
逆に映画嫌いにさせてしまいますよ。
昔の私も実はそれで映画から縁遠くなってしまったので・・・
(これはまた別の機会に書きますが・・・)


さて、映画版「愛を読むひと」にもどります。
おそらく、ドイツ人以外の人たちにとって、
この作品は「映画向き」なのではないかと思います。
でも誰もが思うことでしょうが、
全編英語というのがねぇ~ガーン
ミヒャエルがマイケルになっちゃった時点で、がっかりです。
法廷シーンだって、「東京裁判の被告が英語だったらおかしいでしょうが!」だし、
一番気になったのは、朗読する本も全部英語だったこと。
ホメロスのオデュッセイアは本来ギリシャ語だし、
チェーホフの短編もロシア語のドイツ語訳だったでしょうが、
言葉や文字が作品の重要なアイテムなのですから、
英語の本にしちゃうのはかなり抵抗があったはず。

ただ、ドイツ語で映画を作ってしまうと、世界中での上映は限られるし、
ケイトのキャスティングもなくなるわけですから。
しかたないのかな?
今年だけでもナチス関連のハリウッド映画、けっこう観ました。
ブラピ主演の「イングロリアス・バスターズ」も(これはまだ観ていませんが)
ヒトラーが英語しゃべるのかな?もう慣れちゃいましたが・・・

とにかく、「せつなく美しい愛の物語」と思っては
観ないほうがいいと思います。
ハンナの秘密が、実は〇〇だった、というのを
ミステリー仕立てに宣伝していますが、これも違う。
これは(戦争シーンはどこにもないけれど)
戦争がの悲劇を加害者(国)側の立場から
次の世代に残すドラマではないかと思うに至りました。
マイケルの娘はたぶんいま40歳くらい。
まさに21世紀を生きる、「私たちの世代」です。
マイケルが娘に伝えたように、また次の世代に
語り続けなければいけないことなのです。

映画を観た今、また原作を読みなおしたいと思いました。