映画 「ハワーズ・エンド」 平成4年7月11日公開(4Kデジタル・リマスター版 令和元年9月13日公開) ★★★★★

原作本 「ハワーズ・エンド」 EMフォースター 集英社

(英語 字幕翻訳 細川直子)

 

 

 

知的中産階級で理想主義的なシュレーゲル家と、

現実的な実業家のウィルコックス家は旅行中に親しくなり、

シュレーゲルの次女ヘレンはウィルコックスの別荘ハワーズ・エンドに招かれる。

美しい田園風景の中、当家の次男ポールに一目惚れしたヘレンは、姉に婚約の意志を書き送る。

それを読んで、すわ結婚と早とちりした姉が飛んでくるが、ポールにそのつもりはなく……。(allcinema)

 

今、恵比寿ガーデンシネマで4Kデジタルリマスター版が公開中です。

上映時間と私の「膀胱問題」から、見る予定には入れていなかったのですが

オリジナル版は普通に旧作でレンタルできるので、これも入院中に鑑賞しました。

 

 

 

ウィルコック家の別荘ハワーズエンドで、そこの次男のポールとロマンチックな夜を過ごしたヘレンは

ちょっと浮かれてしまい、

「私ポールと婚約しました」

と、姉のベスに手紙を書いてしまいます。

ベスは弟のティビーとジェリーおばさんの前で手紙を読み上げ、

婚約のくだりにビックリ!

我にかえったヘレンはあわてて訂正の電報を送るも

そのまえに叔母さんがハワーズエンドにやってきてしまいます。

 

(冒頭はドタバタコメディのように始まりますが

このあと想定されるトラブルについてはサクッと省略、

一気に数か月後のシーンとなります)

 

音楽イベントでヘレンは隣に座った青年の傘を持ち帰ってしまい、

それを追いかけてその青年、レナードが自宅にやってきます。

「妹があなたの傘を盗みました?妹は常習犯ですの、ごめんなさいね」

お詫びにお茶に誘うベスでしたが、すぐに帰るというレナード。

メグは彼に自分の名刺を渡し、いつでも遊びにいらして・・と。

 

一方、夏の恋愛沙汰で気まずくなっていたウィルコック家が

ポールの兄のチャールズの結婚を機に

シュレーゲル家(メグ・ヘレン・ティビー)の家のすぐ前の高層住宅に引っ越してきます。

(一応礼儀なので)メグが挨拶に訪れるのですが、

ポールの母であるルースが応対してくれます。

 

「ポールとヘレンは恋には向いていても、体と心がバラバラで生活にはむきませんね」

「あの夏の失敗はもう繰り返したくありませんわ」

と笑うメグに相槌をうちながらも、体の辛そうなルースでしたが、

「今住んでいる家は18か月後に契約が切れて出ていかなければいけないんです、生まれた家なのに」

というメグのことばに驚いて否定するルース。

「生まれた家は無二のものよ!そんなことあってはいけません!」

急に、メグのことをハグすると、ハワーズエンドの別荘の話を始めます。

 

「あそこは私の兄の形見なんですが、古くて不便とみんなが改装したがってますの」

「朝日のなかの牧場をあなたに見ていただきたいわ!」

「土地の人が昔、クリの木の幹にブタの歯を刺して、その期の樹液を吸うと歯痛が治るのよ」

 

仲良くなった二人は、メグがいつも参加している討論会に誘ったり

ルースのプレゼントやカードの買い物に同行したり、楽しい日々をすごします。

ルースはメグをぜひハワーズエンドに誘いたかったのですが、かなわないまま入院、手術、

そして帰らぬ人となってしまいます。

 

その後、病院の婦長からヘンリーのところに手紙が届き、中にはルースの文字で

「マーガレット・シュレーゲルにハワーズエンドを贈る」

と書かれていました。

子どもたちを集めてこのメモを見せ

「法律上の拘束力はないが、妻の思いをかなえたい」というヘンリーに子どもたちは

「日付がない」とか「鉛筆書きは無効」などと口々に言い始めます。

「貧しく家のない人ならともかく、ルースはなんでこれを書いたのか?どんな意味があるのか?」

という父に

「何の意味もないのかも」といって、イーヴィーが破って暖炉の火に投げ込んでしまうのでした。

 

ヘレンから傘を取り戻したレナードですが、彼は文学や天文学好きの銀行員で

すでにジャッキーという妻のいる妻帯者でした。

ある日北極星をさがしているうちに一晩中歩き回り家に帰らなかったことから

ジャッキーが家で見つけたメグの名刺をもってシュレーゲル家に。

 

誤解は解けてレナードがお詫びにやってきますが

自分の気持ちをまったく理解してくれない妻とは違い

「『試練』の中の『自然は語る』の章ですわね」

「あれを読んだら一晩中さまよいたくなりますよね」

なんていってくれるこの姉妹に心を開くようになります。

 

またヘレンは、(彼の働く)ポリフォリオンは近いうちに破産することになる・・・

と以前ヘンリーが断言していたことを彼に伝え、すぐにも転職するように強く勧めます。

アドバイス通りレナードは転職するも、すぐにそこでリストラにあい、失職してしまい、

逆にポリフォリオンは破産しなかったため、ヘレンはひどく責任を感じてしまいます。

 

 

メグは、自宅の契約がまもなく切れてしまうことをヘンリーに相談すると、

チャールズに続いてイーヴィも婚約したため一人で住むには広すぎるロンドンの豪邸を提供すると。

それだけでなく

「私と一緒になってほしい、妻となってほしいのです」とプロポーズ。

メグはこれに驚くことなく

「気づいていましたわ」と彼にキスするのでした。

 

チャールズたちはメグのことを「よくしゃべるオールドミス」といい

父と結婚して遺産が少なくなることを警戒しています。

また、ヘレンは嘘の情報を流しながら責任を感じないヘンリーに強い憤りを感じていて、

イーヴィーの結婚式に突然バスト夫婦を連れてやってきます。

パーティの酒や料理をがつがつ食べるジャッキーに気づいてヘンリーは驚きます。

10年ほど前、キプロスで、ヘンリーとジャッキーは男女の関係だったのです!

 

メグも彼女のやり方でレナードの職探しをヘンリーに依頼していましたが、

この一件でもう力にはなれないと手を引きますが、

それでも(何も悪くない)レナードが不憫で心を痛めるヘレン。

ふたりはボートに乗りながら感情が高まって、一線を越えてしまうのです。

 

ヘレンは自分の財産から5000ポンドの小切手を切ってレナードに送り、

ドイツへと旅立ってしまいますが、小切手はその後、送り返されてきます。

 

その後ヘレンからは、絵葉書は来るものの、近況はなく、

連絡先は銀行の窓口指定で、生きているのかも不明なのを心配し

ヘンリーに相談すると、(その時一時的にヘレンの本などをハワードエンドに置いてあったので)

「ハワードエンドに必要なものを取りにいくように言って、様子をみればいい」と。

 

するとやってきたヘレンはあきらかに臨月で、父親の名前を言おうとしませんが、

「子どもの責任は私がとるわ、レナードも知らないわ」と口をすべらせ、みんな驚きます。

ハワードエンドの次の所有者であるチャールズはヘレンを追い出すためにやってきますが

そこへ レナード本人が訪れると、そこにあった姉妹の父の形見の剣を振りかざします。

心臓に持病のあったレナードは転倒し、そこに本棚の本が落下して、彼は死んでしまいます。

 

病死か?故殺か?

 

翌年の夏。

チャールズが収監されたため、自分の死後、子どもたちには金を

ハワーズエンドは妻に残すことを伝えるヘンリーですが、子どもたちも異存はありません。

「妻の死後、ここは妻の甥のものになる」

庭では近所の子どもと遊ぶ、幼いヘレンの息子の姿がありました。

 

「ルースは死ぬ前に紙に君の名前を書いた」

「意味はわからんがこれでよかった」                        (以上あらすじ 終わり)

 

本作はイギリス古典文学のEMフォースターの三部作の3つ目で

ジェームズ・アイヴォリーによって映画化されました。

1993年のアカデミー賞では、9つの賞にノミネートされ、イーストウッドの「許されざる者」と同率。

作品賞監督賞を含む4つの賞に輝いた許されざる者にはちょっと負けましたが

「主演女優賞」「脚色賞」「美術賞」を獲得しました。

 

映画館では見られなかったものの、十数年前にレンタルビデオで見た記憶があるんですが

久々に見たら、前とはずいぶん印象が違っていました。

前は不器用ながら純粋でまっすぐなヘレンの一本気な生き方に魅力を感じていて、

資産家との金目当てとおもわれてもしかたないような結婚をして、

「あっち側の人」になってしまったメグに失望したのですが、

自分が歳とってくると、メグとルースの友情に感動し、

ヘンリーにさえ、ちゃんと分別のある頼りがいのある男性の魅力を感じてしまいました。

 

美術や音楽も素敵でしたが、記憶にのこるセリフもいくつかあって・・・

 

「なぜ引き留めなかったの?それがホストなのに」

「彼を私たちのおしゃべりから救うのがあなたの役目よ」

    (レナードをお茶に誘ったのに帰ってしまったとき

          メグが弟のティビーに)

 

「一度職を失ったら僕らに道はない」

「妻を救おうとしたけれど、僕にできたのは・・・・共に飢えることだけだ」

    (レナードがボートの上でヘレンに)

 

「ルース奥様と足音が同じでした」

     (ハワードエンドの管理人のエイヴリーさんがメグに)

 

「いろいろな国の母親たちが一緒に集えたら、きっと戦争はなくなるのに・・」

    (討論会の席でルースが)

 

 

シュレーゲル家 →   知的な中産階級

ウィルコック家  →  現実的な資産家

バスト家  →     労働者階級

 

と、まるで価値観の違う人たちのようにグループ分けしがちですけど、

けっして分かり合えないわけではなく、

ルースとメグの間には深い友情が生まれたし、

ヘンリーとメグの夫婦がお互いに敬意を払って、自分に足りないものを補い合っているようで

本当にいい夫婦だとしみじみしているのは、自分が歳とったせいでしょうか。

 

この小説が出版されたのは1910年、今から100年以上前なので

例えばメグたちと討論会に集うような「意識高い系」の人たちが

この時代必ず話題にあげたのが「婦人参政権」・・・・というのが、まさにこの時代です。

サフラジェットと呼ばれる活動家たちが過激な活動をしていた時代で、

2年前に公開された映画「未来を花束にして」のなかにも出てきます。

 

ルースは今までそんなこと、考えたこともなかったようで、完全に浮いているんだけれど、

それでもみんなの前で自分の考えを語ることの楽しさに目覚めたようで、

「楽しめなくてごめんなさいね」というメグに笑顔で否定するところで、胸がいっぱいになりました。

 

ハワーズエンドの「ブタの歯」みたいな因習を「大好きよ」といってくれるメグに

ルースは自分の死後を託そうと心を決め、

夫や子どもたちに一度は阻まれるも、結局は、すべてルースの思いが通じたのですよね。

ルースは前半で亡くなってしまうのだけれど、

ハワーズエンドの木々のささやきにも風の音にも、

ラストまで、ずっと彼女の存在を感じ続けていました。

 

けっして短い作品ではないけれど、全編一瞬たりとも無駄なシーンがなく

映画を見る楽しさを与え続けてくれる作品です。

 

こういう映画、新作でもう見られないのかな?

 

忘備録として相関図を書きたかったんですが、上手くいかず、

Excelで書いたのをコピーしてみました(恥ず!)