映画「輝ける人生」 平成30年8月25日公開 ★★★★☆

(英語 字幕翻訳 松浦美奈)

 

 

専業主婦のサンドラ(イメルダ・スタウントン)は、イギリスのサリー州にある屋敷に暮らし、

州の警察本部長の夫マイク(ジョン・セッションズ)は爵位を授与されるなど、幸せの絶頂にいた。

だが、夫と親友の浮気現場を目撃し家を飛び出して、

ロンドンの団地で生活している姉のビフ(セリア・イムリー)のもとに駆け込む。

自分の部屋で酒ばかり飲んでいるサンドラを心配したビフは、彼女をダンス教室に連れていく。

                                                    (シネマ・トゥデイ)

 

シャンテで観ようと思っていたら、わずか2週間くらいですでに上映終了し、

今日から「泣き虫しょったんの奇跡」が始まっていました。

先週観たばかりの「スターリンの葬送狂騒曲」もすでに終わっていて、「判決、ふたつの希望」へと。

回転早すぎ!!

一方、新宿武蔵野館では本作も「オーケストラクラス」もまだやっていたし、

「スターリン・・・」もはじまったばかりで、ロビーは模様替えの最中でした。

 

 

サンドラは警察幹部である夫のマイクがナイトの称号を受け、

自宅で盛大なお祝いパーティーのホステスとなります。

「35年間、多くの困難を分かち合ってきた妻のサンドラにお礼をいいたい」

とか紹介され、

「これからはレディ・アボットね」とまんざらでもなかったのですが、

なんとその晴れの日のパーティーの最中に

夫がサンドラの友人のパメラと別室でチュッチュとやっているのを目撃してしまいます。

 

「私たちは5年前のソレント旅行から関係していたのよ」と、すっかり居直っているパメラに

「説明させてくれ」とあわてるマイク。

 

「車を乗り換えるってわけね。」

「君を傷つけるつもりはない。いろんなことが重なって…君にもわかるだろ?」

「フン、パメラは何度も下取りに出された中古車で、車体は詰め物だらけよ」

 

サンドラの叫び声に、パッヘルベルのカノンを優雅に奏でていた演奏もとまり、

二人の女性の罵りあいとマイクのおろおろぶりに、みんな唖然として

パーティーはめちゃくちゃになってしまいます。

 

一方、(場面かわって)郊外の天然の池で水泳を楽しんでいるのは、姉のエリザベス。

泳ぎながら男が自分のバッグを盗むのを目撃しますが、男に逃げられ、

友人の携帯を借りてチャーリーに電話し、合いかぎを持ってきてもらいます。

 

「バッグにだいじなものは入っていたの?」

「イタリアで買った思い出のバッグだけど、中身はバスの定期と便秘薬だけよ」

なんていって笑っているところに、スーツケースを引きずって、サンドラが登場。

 

「しばらくここでお世話になるわ」

「パーティの最中にマイクの裏切りがわかって、私はみんなの笑いものよ」

と嘆く妹に

「あ~ら、これは人生最大のチャンスよ」

「あんな横柄なうぬぼれやのマイクなんて、くれてやったらいい」と。

 

この姉妹の生き方は真逆で、35年間警察幹部の妻をやってきたサンドラに対し

姉のエリザベスは環境運動とか政治運動とかで警察に取り締まられるほうで、

マリファナやるのも日常茶飯事。

自宅のカギを持ってるチャーリーも、夫なのかと思ったらただの友達なのでした。

男性関係も奔放で、女性とも関係をもつバイセクシュアルで、結婚もせずに

今までの人生、とにかく自由に生きてきたエリザベス。

 

夫は出世して、邸宅に住み、一人娘には可愛い孫もいて

どこから見ても「勝ち組」と思っていた自分の過去が全否定されているようで

サンドラは酔っぱらってブチギレます。

 

中華料理店で、店員に暴言を吐いた上にエビ餃子を投げつけて、警察を呼ばれ

一晩ブタ箱で頭を冷やすことになってしまいます。

 

そこへ夫のマイクから

「パメラと暮らすことにする。新たな人生のはじまりだ」

と電話がはいり、もう後戻りもできなくなってしまいます。

 

「君とあの女王陛下が姉妹なんて笑える」

「仲直りするいいチャンスだよ」

とチャーリーにアドバイスされ、エリザベスは

自分の通っているダンス教室に誘って、友人たちを紹介するのです。

 

肉体労働しかできないチャーリーとか、5回も離婚経験のあるジャッキーとか

一生自分には無縁と思っていた人たちにも、だんだん打ち解けていきます。

 

サンドラは子どもの時からダンスが得意で、コーラスラインのオーディションまで行ったのに

家庭のために夢を犠牲にして、ダンスとは無縁の生活をしていたのです。

ダンス自体は大好きなのに、

「みんなの前で恥をかきたくない」という気持ちが強くて、なかなか踊れなかった彼女も

次第に積極的になり、ロンドンのピカデリーでの寄付集めのフラッシュモブがネット配信されて、一躍有名に。

「華麗なるシワ軍団」の動画は孫にも大人気!

 

これがビエンナーレの監督の目に留まり、ローマでの公演が決まって、みんな大張り切りです。

このころからエリザベスの咳や腰痛がひどくなりますが、

実は肺がんのステージ4で余命いくばくもないことがこの後サンドラに告げられます。

 

サンドラは当初不仲だったチャーリーとも心を通わせるようになり、お互い恋愛感情をもつようになります。

ただ、チャーリーにはリリーというアルツハイマーの妻が施設にいて、

その入居費用のために、家を売って、その後5年間、船で一人暮らししていたのでした。

 

ローマでの公演は大成功におわりますが、その翌日、ホテルの部屋で冷たくなっているエリザベス。

帰国後、葬儀のためにマイクや娘たちもやってきます。

 

その時点で、マイクとパメラはすでに破綻していて、戻ってきて欲しいというマイク。

パメラは家事がまったくできず、娘たちもほとほと困っていたようで・・・・

 

リリーはすでに死んでいると思い込んでいたサンドラは、

チャーリーとの新しい生活を夢見ていたのですが、

「実はまだ施設で生きているから妻にはなれない」と言うことを知り、

「私は愛人には絶対になれない!」

と、マイクのところに戻ることにします。

 

後日、「リリーが亡くなったので、ずっと夢だったフランスに行く」というチャーリーからの手紙を受け取り

チャーリーとマイクの間で揺れるサンドラの気持ち・・・・・

 

という話です。

 

「熟年夫婦もの」のジャンル映画は、まさにターゲットの世代なので、極力見るようにしているのですが

「終わった人」みたいなハズレを引くこともしばしば。

この映画、モントリオール映画祭で最優秀主演男優賞を獲ったと聞き耳を疑ったのですが、

そのときの舘ひろしのコメントが、なんというか、非常に冷静で自惚れてなくて、

むしろ彼のことがとっても好きになりました。

(モントリオール映画祭って、「おくりびと」を最初に評価してくれたところなんですが、

それ以来,日本映画だったらなんでも賞をくれる、よくわかんないイベントになってしまっています)

 

本作も、突っ込みどころ多めで、最初のほうは、けっこうイライラしながら観ていました、

実は私の父も警察幹部で、叙勲も受けたことあったので、(あんないい家には住んでなかったけれど)

家庭環境は似ていました。

確かにプライドは高いんだけど、一方で、家族もふくめ、常に自制することが求められ

外部に漏らしていけないことも多かったから、

子どもの頃から「抑制」が身についていたように思います。

まあ、国民性の違いもあるんでしょうけど、あの不倫場面に遭遇した妻が

騒ぎ立ててパーティーを台無しにするというのは、絶対にありえないことです。

「その場面はあわてず騒がず、みんなが帰ってからがっつりと鬼の形相でブチギレる」

というのが正しい反応だと思うんですけど。

最初から客人の前でこんなに罵詈雑言言える人だったら、

「警察幹部を支える妻」「良妻賢母の専業主婦」のイメージではないです。

 

この時点で、これは

「レベルの低~いコメディ」と割り切って見ようと覚悟しました。

 

クライマックスのダンスだって、練習ではお達者クラブの健康体操レベルだったのが、

本番で、あそこまでキレッキレのパフォーマンスができるものなんでしょうか?

 

それに登場人物たちが、年齢を重ねていろんな経験はしてきているのに、

なんか行動パターンが単純すぎませんか?

 

その中で、チャーリーだけは本当に愛情深くて、誠実で、ちょっと好きになりそうでした。

ティモシー・スポールがダーリンだなんて、

ハッピーエンド」のイザベル・ユペールのダーリンがトビー・ジョンズだったのを思い出しましたが。

 

ティモシーは、あの風貌と太った体形で役が付いているのかと思ったら、

痩せたあとも、「否定と肯定」のあのエキセントリックな悪役も、チャーリーみたいな善人役もはまり役で

逆に役柄の幅を広げた気がします。

 

サンドラ役のイメルダ・スタウントンも、クセ強めのババア役ばかりの彼女が

今回は恋するヒロインというのも、ちょっとキツイですが、だんだん表情が穏やかになってきて

素直な笑顔になってくるのがいいですね。

ただ、あんまり「妹キャラ」ではないと思うけど・・・・

 

実年齢を調べたら、エリザベスのセリア・イムリーが66歳、

サンドラのイメルダ・スタウントンが62歳で、ちゃんと年下でしたが。

因みに、チャーリー役のティモシー・スポールが61歳でした。

 

年齢のことは映画では言及していなかったけれど、

結婚35周年といっていたから、年齢もきっとこのくらいの設定なんでしょうね。

 

シニアの恋愛映画って、イザベル・ユペールとかジュリアン・ムーアとかダイアン・キートンとか、

年齢いってててもカッコイイ女優さんならすんなり受け入れられるけど、現実感うすいです。

逆に、本作に出てくる、そこらへんのおじちゃんおばちゃん連中はリアルだけど、

コメディモードにしとかないと、同年代の私なんかがみても、ちょっと厳しいものが・・・(笑)

 

話は全体的に薄っぺらで、都合よく人を簡単に死なせるのもどうかと思いますし、

それまでのサンドラのように結婚して35年も自分を夢を我慢して、家庭を守り

夫を支え、子どもを育て、気取った連中と付き合うことが愚かで、

エリザベスのように、家庭を持たず自由を謳歌するのが幸せな生き方だ言っているようで

ちょっとそれだけは、私には受け入れらないです。

 

ただ、ラストで、サンドラがチャーリーの船を追いかけて必死で走り、

岸から船めがけて、飛び移ろうとするところ。

上手く乗れるか、川に落ちるか、失敗して大けがするか、

でも、私は飛ぶ!

 

「信じて飛ぶのよ」

の字幕に、突然静止画になった、必死で飛ぶサンドラの短くて太い脚が本当に愛おしくて、

最後の最後にグッときてしまいました。

 

いろいろ突っ込みどころ満載のジジババ映画を観たことを若干後悔していたはずなのに、

なんかいろんな思いがこみ上げてきました。

 

自分が若いころは、

「人は年齢を重ねると、より慎重に保守的になる」と思っていたんですけど、

自分がいざ歳をとってきたら、

守るべき子どもも大人になったし、自分の残り時間も少なくなったし

「別に死んだところで、たいした痛手じゃない」

と腹をくくって生きるようになった気がします。

 

 

夢をかなえるために思い切ってジャンプするようなことが起きるかはわかりませんが、

もしそんな時が来たら、失敗して死ぬかもしれなくても、

覚悟を決めてジャンプしてやろうじゃないの!!

と思うようになりました。

 

ありがとう!サンドラ。