映画「去年の冬、きみと別れ」 平成30年3月10日公開 ★★★☆☆

原作本「去年の冬、きみと別れ」 中村文則 幻冬舎 ★★★★★

 

 

松田百合子(山本美月)と婚約しているルポライター耶雲恭介(岩田剛典)は、

猟奇殺人事件の容疑者である天才カメラマン木原坂雄大(斎藤工)のスクープを狙っている。

この事件は世間を大きく騒がせたが、真相はわかっていなかった。

耶雲は事件を解明しようと奔走するが、百合子が木原坂の標的になり……。(シネマ・トゥデイ)

 

「全員だまされる」「すべての人がこの罠にハマる」

の扇動的なコピーが印象的なこの映画、

私は先に原作を読んでいたので、騙されるわけないんですが、

むしろ、このストーリーをどう映像化するのか?できるのか?

が気になって観に行きました。

 

炎に包まれている女性モデルに向かって(助けることもせずに)シャッターをきりつづけたのでは?

という疑惑の天才カメラマンのもとへ、ルポライターの恭介が取材に訪れます。

 

「君に書く覚悟はあるの?」

「僕と一緒にいると、君にも危険が及ぶよ」

といっていたカメラマン木原坂も、恭介の熱心さに押されて、屋敷の入り口のシャッターのカギを与え

好きに取材することを許します。

 

幼い頃両親を失い、ずっと木原坂を幼少から庇護してきた姉にも取材して親密な関係になったり、

親が殺された事件を調べたり、木原坂を知る人たちに取材したり、

美人の婚約者,百合子を差し置いてまでこの事件に没頭し、出版社でも評価されてきますが、

その百合子までが、恭介の毒牙にかかってしまい・・・・・

 

これが、何と言うか、「表の話」

実はこれには「裏」があって、まったく別のストーリーが裏で進行していたのです。

こういうのって、本来、小説だからこそできることなんですよね。

「僕」が章によって違う人物になっているのに、読者にそれを悟られないようにしたり、

時間経過を敢て書かずにミスリードさせたりとか・・・・

 

ミステリーと言うより「パズル」にちかいような小説。

たとえば、乾くるみの「イニシエーション・ラブ」なんて、私はあっさり騙されたんですけど、

映画では、いろいろ工夫はしてましたけど、見事なまでに失敗していました。

 

私は「ミステリーと言うよりパズルみたいな映画」が好物で、

内田けんじの「運命じゃない人」とか、小沢良太の「キサラギ」とかも大好きなんですけど、

彼らは「脚本家」でちゃんと視覚的に考えて書いてますから、プロットは完璧です。

 

「去年の冬、君と別れ」  中村文則

 

私はこの作家の小説を全く読んだことがなく、若くして芥川賞とってるような人なんで、

「研ぎ澄まされた感性の文芸小説を書く人」みたいなイメージを勝手にもっていて、

つまり私なんかにはご縁のない人と思っていました。

こんなガチのミステリーを書くなんてびっくり。

1月に公開された「悪と仮面のルール」の原作者でもあったんですね。

わー!、これは迂闊でした。

(最近の邦画はコミック原作ばっかりだから、これもそっちかと思ってスルーしてしまったんですね)

 

原作小説はそんなに厚い本ではないのですが、すみずみまでたくさんの伏線が仕掛けられています。

本文にとどまらず、「献辞の相手のイニシャル」とか「章の数字(突然資料番号になる)」とか、

そして最大の伏線が「去年の冬、きみと別れ」というタイトルそのもの、という・・・・

 

日本のミステリー小説だと、たいてい少しは「カットしても大丈夫な部分」がけっこうあるんですが、

これは「伏線に気付きづらくするための配慮」なのか、

単に「枚数をふやして原稿料かせぐ」ためかは不明ですが、本の厚さの割に中味は少ない感じ。

 

KHさんなんて、あれだけたくさん書いて、書くそばから売れてるので、大変だとは思いますが、

彼もまた(私にとっては)そんなイメージ。

ただ、今上映中の「祈りの幕が下りる時」の原作は、シリーズ完結だけに力が入ってましたが、

「あの人とあの人が実は同一人物」「同一人物と見せかけて、実はあの人と同一人物」

みたいなことが繰り返されるので、映像化するのも大変そうです。

 

映画とは関係ないことをだらだら書いていますが、(今回はネタバレあらすじは書きません)

「冬きみ」でも、映画化にあたり、作者に了解を得ているのか心配になるくらい、大きな改変があり、

そっちのほうが衝撃度は高いので、びっくりしているうちに終わってしまいました。

だから原作を読んでいた私も「騙された」ってことになるのかな?

 

「イニシエーション・ラブ」より、★が一つ多いのは、キャストの差ということで。

邪悪なオーラを全身から放ちづつける、斎藤工に対して、

真面目でストイックな恭介の岩田剛典、健気でか弱い百合子の山本美月のイメージがピッタリで、そして

この先入観が最大のミスリードを引き寄せてる・・・・ってことが、一番の見どころで、

タイトルに次ぐ「ネタバレ」だと思います。

 

エグザイル系の人たち、よく映画に登場しますが、はっきりいって

腹が立つほど下手な人の方が多いです。

そのなかでガンちゃんは、上手いよな~!(って言えるほどは観てないんですが)

 

「クローズEXPLODE」では、(あんなに華奢な体と可愛いお顔で、慶応卒のおぼっちゃまなのに)

対立する高校の不良のテッペンをなんの違和感もなく演じてて、タダモノじゃない!と実感しました。

4年前、うっかり、完成披露試写会なんかに行って、大歓声で耳がおかしくなったのを思い出しました。

(→こちら

 

山本美月は、誰がみても可愛らしいイノセントでスイートなイメージのモデル出身の女優さん。

けっして上手とは思わないんですが、作品に余計な色をつけないというか・・・

こういうの「透明感ある」っていうんでしょうか?

本作でもまさにそれで、映画の方では、彼女の関する伏線が絶対に脚本で書き足りてないと思うんですが、

彼女が演じたことで、受け入れられちゃった気もします。

 

映画の方はプロモーションで期待させられたほどじゃなかったですが、

原作の方には興味が湧いてきたので、

「悪と仮面のルール」「掏摸」「最後の命」など、すぐにも読みたいです。