映画「永遠のジャンゴ」 平成29年11月25日公開 ★★★★★

(フランス語 ドイツ語  字幕翻訳 星加久美)

 

 

ナチスドイツの支配下に置かれた、1943年のフランス。

ロマ出身であるジャズギタリストのジャンゴ・ラインハルトは、

パリの名門ミュージックホールであるフォリー・ベルジェールのステージで観客からの喝采を浴びていた。

アーティストとしての栄華を極める彼だったが、

ナチスドイツが各地でロマを迫害しているのを知って激しい怒りと悲しみを抱く。

家族や自身にも危険が及ぶ中、

ナチスドイツの上層部が集まる夕食会での演奏を命じられ……。               (シネマトゥデイ)

 

予定どおり、初日の初回に鑑賞。

初日プレゼントで、ロゴ入りのギターピックをもらいました。

 

 

いろいろガラスに映り込んでいますが、武蔵野館のディスプレイはこんな感じ

 

 

 

「ジプシースウィングの父」、「ヨーロッパで最初の偉大なミュージシャン」といわれるジャンゴ・ラインハルト。

彼は事故により、フレットを抑える大事な左手の指が二本動かない「障碍者」でありながら

誰にもまねできない、ギターの速弾きの達人でもありました。

 

うちの夫のようにギターを弾く人にとっては、彼は超有名なギタリストだそうですが、

日本では(私もふくめ)ジャンゴの知名度はそんなに高くありません。

 

彼の半生を描いて、ミュージシャンとしての歴史的価値を知らしめる映画・・・・

かと思ったらそうではなく、相棒のステファン・グラッペリさえ登場しません。

「障碍を克服して、いかに超絶技巧のテクニックを習得したか」・・・・って映画でさえもありませんでした。

 

彼の人生のうち、1943年から45年までに絞って、

その時代をナチス占領下のフランスで生き抜いた

ジプシー出身のカリスマミュージシャンとしての彼のドラマでした。 (これは意外!)

(今ではジプシーより「ロマ」の呼称の方が一般的ですが、

映画の中では「ジプシー」を使っていたので、そのまま使用します)

 

ホロコーストで犠牲となったのはユダヤ人だけでなく、ジプシーや同性愛者たちにも及びます。

非アーリア人以外は「劣性」なので、いかようにも迫害できたのですね。

 

 

1943年6月、フランス アルデンヌで、ジプシーのギタリストが銃撃されるシーンから。

同じころパリで一番華やかなミュージックホールでは、

大勢の観客がジャンゴの登場を待っているのに、本人は近くの川でナマズ釣りに夢中です。

散々待たせた挙句にステージに登場したジャンゴは、華麗なテクニックで満場の観客を魅了します。

(すごい!レダ・カテブが吹替なしでガチで弾いてる!!)

 

観客たちは次々に立ち上がって踊り始め、

「ダンス禁止」の張り紙もむなしく、場内は「総立ち」状態。

観ている私たちも思わず身体が動いてしまいます。

こういうのは、映画的には最後のクライマックスにもってくるのが普通なのに、

いきなり最初にやっちゃったのには驚きました。

 

ギャラの交渉にやたらと強気な母親、しっかり者の妻ナギーヌ、良くなついている猿のジョコ・・・

彼のプライベートは、(弟の家族たちともいっしょに暮らす)ジプシー流の大家族の平和な日常。

ただ、ジャンゴは、(ほとんどの大物ミュージシャンがそうであるように)賭け事にハマっていて

妻以外に愛人もいるのですが、チェット・ベイカーなんかほどはクズじゃなかったので、

とりあえず安心しました。

愛人ルイーズ(セシル・ドゥ・フランス)との関係も、単なる身体目当てでもないみたい。

彼女は「モンパルナスの夜の女王」と言われ、あちこちに顔のきくなかなかの大物のようです。

 

ある日、「ドイツにいるフランス人たちが娯楽を求めている」と、

ナチスから正式にドイツでの公演とレコード録音を持ちかけられます。

 

「スウィングは20%以下にする」

「ソロ中に脚でリズムをとるのは扇動にあたる」

「ジャズの曲でもベースは必ず弓を使え」

「キーはメジャーが中心」

「シンコペーションは5%以下」

「ソロ演奏は5秒以下」

 

などなど、彼らの要求は常軌を逸していて、とってもやる気にはなれないジャンゴたち。

 

ミュージシャンには、体制に敏感な人と、無頓着な人がいるようですが、

ジャンゴは後者のタイプのようです。(ヒトラーのことも知らないくらい)

ジプシーは国を持たないから、そもそも戦争なんて概念がないんですね。

「俺はみんなが聴きたい曲をやって、それで家族を養っている」と、のんびりしています。

 

そのうちにパリでも空襲警報におびえる日々がやってきて、

フランスのあちこちでジプシーたちが迫害されている話も伝わってきます。

ジャンゴのところへも警察が。

ただ、これは逮捕とかではなく、ジプシーの登録をするようで

写真を撮られ、頭の幅や耳の長さや口のなかまで調べられます。(「サーミの血」を思い出しました)

「1910年1月23日 リベルシ(ベルギー)生まれ 見世物のミュージシャンです」

手の障碍は「近親交配を繰り返したための奇形」と言われ、

これにはさすがに反論するのですが、「劣っていること」を記録するのが目的なんでしょうかね。

 

ジャンゴの留守中にルイーズが妻のナギーヌを訪ね

「ジプシー狩りが始まっている。危険だからスイスに逃げて」と逃亡用の書類一式を持ってきます。

「彼のつくる美しい音楽をなくしたくない」と。

賢明なナギーヌはルイーズの言葉を信じ

「あの女は嫌いだけど、正しいわ」と、ジャンゴを説得し、家族でスイス国境までやって来ます。

レマン語のほとりに隠家を提供されるも、スイス国境までは13キロあり、

ルイーズからの連絡は途絶え、ここで2か月も足止めをくらいます。

 

生活のために酒場での演奏を始めますが、ドイツ公演をすっぽかしてきてるから、見つかったら大変。

帽子を深くかぶり、目立たないようにしてたけど、結局どこかでバレて、連行されてしまいます。

 

一旦は監獄にいれられるのですが、彼のファンはこの地のドイツ人にも多く、

「ドイツ公演に行く前に、ぜひナチス幹部の夕食会で演奏して欲しい」といわれて解放されます。

これにもルイーズが絡んでいて、彼女の尽力で、昔の仲間たちと再会することも出来たんですが、

レジスタンスの力を借りてもジプシー仲間を全員救うことは難しく、

ジャンゴたちが演奏でドイツ人たちを夢中にさせて警備が手薄になった時間を狙って、

レジスタンスたちが湖を渡る手助けをする・・・

これで少しでも役に立とうと考えます。

 

そして夕食会での演奏がはじまります。

要請通り静かな曲ではじまったものの、次第に(当初のお約束はどこへやら)

スイング調のアドリブ演奏でどんどん盛り上がって、みんな踊り始め、会場は大盛況。

屋外にいる見張りの兵士たちも職務を忘れて、音楽に聴き惚れてしまいます。

ほぼ全員が我を忘れて夢中になってしまったものの、やはり一人や二人は乗り切れない将校がいるようで

「サルの音楽に惑わされるな!」

「すぐ音楽を止めろ!」

そして40分前にレジスタンスが列車を爆破したことがわかり、一転、緊迫ムードに逆戻りです。

ルイーズは殴られ、ジプシーの村は焼き払われ、国境を超えるには、

ジャンゴたちには雪の降りしきる山を越える道しか残っていません。

とても体力がもたない身重の妻と年老いた母を置いて逃げるも、いつ捕らえられてもおかしくない状況。

一番大事な家族を守ることさえもできず、折れたギターを手に呆然とたたずむジャンゴ・・・・

 

 

そして1945年、解放後のパリ。

迫害されたジプシーたちに捧げるレクイエムを作曲し、指揮をするジャンゴの姿がありました。

客席には母と妻と幼い子どももいます。(お婆ちゃん,生きてたんだ!すごい生命力!)

静かな鎮魂歌が流れる中、生命あることに感謝し、亡くなった仲間たちを想います

無数のジプシーたちの登録写真が映し出されますが、彼らは迫害で亡くなった人たちでしょうか。

 

1910年生まれのジャンゴはこのとき35歳。

彼は43歳で早世してしまいますが、それにしても最後の8年間は世界を渡り歩いて大活躍するのに、

この辺はまったく出てきません。

 ・18歳の時に火事を消そうとして大火傷して、指が動かなくなった

 ・全く教育を受けなかったから、読み書きもできなかった

なんていう、ジャンゴを知る人が必ず知っているエピソードもほとんど掘り下げられず。

 

でも、だからこそ、彼のことをもっと知りたい気持ちにかられました。

図書館で本を借りてきていたので、これも読んでみよう!

 

 

 

ストーリーとしては「ナチス迫害もの」のジャンルに入ると思いますが、

ジャンゴならではのマヌーシュ(ジプシー・スウィング)音楽も満載で、

ジャズのコアなファンでなくとも、必ずや楽しめます。

 

主演のレタ・カテブは、ジャンゴと全然にていないので、さては「ギターの腕が買われたか!」

と思ったら、本人はギターをほとんど弾けないんですって!

映画のための猛練習であそこまで指が動くなんてタダモノではありませんね。

 

「レダ・カテブ ジャンゴ」の画像検索結果

 

彼は、(外見からはアラブ系の役が多いですが)年齢も国籍も問わず、どんな役でも対応可。

12月公開予定の「アランフェスの麗しい日々」でも主演ですが、今度は夫婦の会話劇だそうですよ。

 

ルイーズ役のセシル・ドゥ・フランスは、男っぽい役がほとんどなのに、今回は露出多めのドレス姿で

最初誰かわかりませんでした(失礼!)

でもルイーズもまた、性格はけっこう男前でしたね。

 

ルイーズの存在はまったくフィクションだそうで、そうするとどこまでが史実なのか迷ってしまいますが、

脚色が多いからと言って、問題があるわけじゃありません。

「大切なのは信ぴょう性と楽観」ですから。(「人生はシネマティック」の受け売りですが)