映画「シング・ストリート 未来へのうた」 平成28年7月9日公開 ★★★★☆


1985年、ダブリン。
両親の離婚やいじめで暗い日々を過ごすコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は、
音楽好きな兄と一緒にロンドンのミュージックビデオを見ることが唯一の楽しみという14歳。
ある日、ラフィナを見掛け瞬く間に恋に落ちた彼は、思わず「僕のバンドのPVに出ない?」と口走ってしまう。
慌ててバンドを組んだコナーは彼女を振り向かせようと、クールなPVを撮るため音楽活動に奔走する。
                                        (シネマ・トゥデイ)


音楽がメインのイギリスやアイルランド映画って多くないですか?
「ノーウエア・ボーイ」とか「アンコール!」とか「サンシャイン 歌声が響く街」とか・・・
なかでもアイルランド出身のジョン・カーニー監督の映画で有名なのはもれなく音楽映画。
ONCEダブリンの街角で」は地味~な映画でしたけど、音楽のよさが光っていたし
はじまりのうた」ではハリウッドスターをキャスティングしてヒットしたけれど、
きっとこれがしっくりこなかったのか、今回は無名の人ばかりの地味路線に逆戻りです。

好きな女の子にアピールするためにバンドをはじめたダサい中学男子の話。
1985年のダブリン。
この時期のアイルランドは大変な不景気で、主人公コナーの父親も失業中です。
コナーはそれまで私立のお坊ちゃま学校に通っていたようですが、家計のピンチで父は家族を集め
「予算カットがどうしても必要だから、コナーには転校してもらう」
と、公立の「シング・ストリート校」に入れられてしまいます。
ここのスローガンは「雄々しくあれ!」
要するにただ校内暴力のはびこる荒れた学校だったのです。

転校生のコナーはいじめっ子のバリーにチョコバーを取られたうえに殴られ、他の生徒たちはしらんふり。
バクスター校長も、コナーの履いている茶色の靴が校則違反だといって、無理やり脱がせて靴下で歩かせ・・
もう最悪の学校生活が始まりますが、
街で偶然見かけたラフィーナという年上の女の子にひとめぼれします。(切り替え早い!)
彼女がモデルだと知って(まだバンドもできてないのに)
「僕らのバンドのPVに出ない?」と誘ってしまいます。

そして、慌てて仲間を集めてバンドを作ることに。
クラスメートのダーレンがマネージャーになってくれて、楽器の名手エイモンを誘い彼がギター、
「黒人がいたほうが箔がつく」と、ンギグに声をかけたら、たまたまキーボードが弾けて、
ベースとドラムは募集をかけたら、ギャリーとラリーが仲間に入ってくれました。

エイモンの部屋で練習がはじまり、デュラン・デュランのコピーとかを始めるのですが
そのうちに自分たちのオリジナル曲を演奏するようになって・・・・
適当につくったバンドの割には、みんなそこそこ音楽性も高くて、
短いフレーズのアイディアを積み上げていって、楽器が少しずつ加わって完成していく様は、
こういう経験をしたことがある人にとっては、たまらなく楽しい瞬間です。
80年代のザ・クラッシュとかザ・キュアーとかの世代の人たち、
このころ中学生で、今40代の人たちだったら、より共感できるのでは?

道ばたや海岸やいろんなところでゲリラ的に演奏して、ダーレンがそれをビデオに収めるのですが
今となっては懐かしい、VHSテープ(ベータかも?)を入れて録る大きいカメラですよ!

画質は悪いですが、演奏のほうはどんどんうまくなっていきます。

ただ、格好がねぇ・・・粋がれば粋がるほどダサいったらないです。
ラフィーナがメイクをしてくれたり、それぞれに頑張ってはいるんですが、あか抜けないんですけど・・・


60年代くらいのファションだと、今見るとレトロな素敵さがありますが、
この時期の、たとえば、ケミカルウォッシュのGパンとか・・・ちょっと勘弁ですよね・・・

ところで、コナーの家で問題なのは、失業の件だけではなくて、母親の浮気で、両親は離婚寸前。
(法律で離婚はできなくて別居だそうですが)毎日ケンカをきかされる子どもたちはたまったもんじゃないです。
コナーの姉は美人で勉強家ですが、ほとんど登場はナシ。
兄のブレンダンは、大学を中退してひきこもりなんですが、音楽好きな彼のアドバイスは
コナーにとっては金言であることが多く、一番の理解者です。

ただ、ブレンダン自身は自分はドイツに行きたい夢も親につぶされ、社会の落伍者みたいにくすぶっていて
夢をかなえようとしている弟は応援したいけど、なんか腹が立つ。
「いかれた密林を俺が切り開いた後にお前はらくらく歩いてるだけだ」とかいって、キレてしまいます。

当時のアイルランドには閉塞感が満ちていて、若者はみんなイギリスを目指し、
ラフィーナも彼氏とイギリスにいってモデルを目指すといって、コナーの前から姿を消しますが
夢破れてすぐに戻ってくる・・・
これもかなりかっこ悪いですが、このドラマは、こんな「気まずい」ことの連続なんですね。

彼女の言っていた「悲しみのよろこびが愛よ」という一言を、
「悲しみも一緒に受け入れて、希望をもってそこから一歩踏み出そう」と解釈したコナーには
新たな作詞のアイディアがどんどん沸いてきて、レパートリーも広がっていきます。
そして学校での初ギグも成功し、コナーは彼女をつれてイギリスを目指す・・・・

って、ラストはかなり強引で、彼の音楽が認められる以前に、ヴィザとかパスポート的なものは大丈夫?
ってオバサンは心配でなりません。
多分強制送還されるんでしょうけど、そんな失敗も青春の思い出ですね。

この時代の音楽が全く分からないのでうまく説明できなくて説得力ないですが、
どうやらコニーもモデルは監督自身のようで、(43歳の元ミュージシャンです)
「はじまりのうた」も「ONCE・・・」もそうでしたが、演奏シーンはやたらと現実味があります。
バントのメンバーも、ちゃんと演奏もできる子たちみたいです。

一目ぼれした彼女にモテたい、というエネルギーで、中学生男子はたいていのことが出来てしまいます。
私の実体験からは時間がたちすぎで、甘酸っぱい気持ちにはなれなかったけれど
自分はどんづまりでも、弟の夢に自分も乗っかって、幸福感でいっぱいになる・・・
そんなお兄ちゃんの気持ちにはけっこう共感しました。

しかし、この映画、故郷のアイルランドのPRには全然なってないけれど、大丈夫かな?