映画 「沈まぬ太陽」 平成21年10月24日公開 ★★☆☆☆
原作本 「沈まぬ太陽」 山崎豊子 新潮社


読んで♪観て♪


国民航空の労働組合委員長・恩地(渡辺謙)は職場環境の改善に奔走した結果、
海外勤務を命じられてしまう。
10年におよぶ孤独な生活に耐え、本社復帰を果たすもジャンボ機墜落事故が起き、
救援隊として現地に行った彼はさまざまな悲劇を目の当たりにする。
そして、組織の建て直しを図るべく就任した国見新会長(石坂浩二)のもとで、
恩地は会社の腐敗と闘うが・・・・   (シネマトゥデイ)


アフリカで野生の象をしとめるの図
国民航空35周年のパーティーの図
24年前の日航機いや、国航機事故の図。

タイトルロールの前に、このほぼ同時期と思われる
これら三つの場面が、クロスカットされます。

「クライマーズ・ハイ」よりもさらにリアルな映像で、
あの時の記憶が一瞬にしてよみがえりました。
そして、政官癒着をにおわせるパーティーのシーン。
象がたおれるところでは、思わず、先日観た
「ザ・バンク 堕ちた巨像(象)」のタイトルが頭にうかびました。
要するに主人公恩地が難攻不落の半官半民の悪の権化みたいな大企業に
ガツンと一発弾丸を撃ち込む、というわけねっ・・・・

そして
「沈まぬ太陽」のタイトルロゴが。

ここで本来ならば観ているほうは
テンションあがらなくてはいけないのでしょうが、
私には「あ~あ・・・」という感じでした。

(今月、あまりに良い映画ばかり見ていたので
 ハードル上がってすみません)

ともかく
「恩地にもちょっとは問題あったんじゃないの?」
なんて思おうもんなら、
そこいら中の人に怒られちゃいそうな雰囲気の中で
へんに熱いアジテートなストーリーが進行します。

実は私原作まだ読んでいないんです。
(なのに、偉そうにすみません)
夫の本棚に全巻そろっているのをみていたので、
直前にサクっと予習しておこうと思っていたのですが、
どうやら人に貸してしまったらしく・・・・
まあ、自分の本じゃないから文句は言えないですが。

ただ、主人公のモデルは小倉寛太郎という実在の人物。
(もう故人ですが、どうやら、夫の友人の知り合いみたいです)
ノンフィクションにかなり近いけれど、
準主役の行天など、架空の人物も登場する、
等々、2,3の予備知識は夫から仕入れていました。

一人の人間のダークなブブンを
三浦友和演じる行天に全部引き受けてもらえるから、
だから、恩地さんはいっつもクリーンで、男気があって、
一本筋が通った人間でいられるわけです。
いいな、私にも「行天」ほしいな。

たとえば、組合時代に「スト実行の日を首相の帰国日にあてる」
ことを提案したのは行天の提案となって、恩地は濡れ衣を着せられる、
ということですが、少なくともこれは恩地、というか
小倉氏の言いだしたことなわけですよね。

私は企業小説とか、ほとんど読まないのですが、
架空の人間に悪いところを押し付けて、主人公を善の部分を磨き上げるというのは
便利な手法だな、と思いました。
フィクションだから、といえば、名誉棄損も免れられるのでしょうかね。

でもそれを差し引いても、
私には立派な人物には見えなかったんですけど・・・

だいたい、当時の日航社員の給料が不当に安すぎたとか
労働が過酷だったとか、そんなことあったのかな?
年末手当4.2か月分確保した、
「委員長としての腕」は大したものです。
たしかに個人のお手柄ではあっても、
それが会社のため、社会のためには・・・なってないよね。

日航、いや国航の社員は、私には誰がだれかはわかりませんが、
事故のときの社長 堂本 → 高木社長
ものすごい人格者として登場する国見会長が元鐘紡の会長(名前忘れた)
であることくらいは、私にだってわかります。

政治家はホントに笑っちゃうようなネーミングで、
利根川首相 → 中曽根首相
竹丸 → 金丸
道塚 → 三塚
あと、仲介役の龍崎は、どう考えたって瀬島龍三ですよね。

もうちょっと物を知ってる人だったら、
20人はわかっちゃうんじゃないかな?

会社の役員達とか、運輸省の官僚とか、
会社の都合のいい記事を書く新聞記者とか、
悪い奴は徹底的に悪く描き、
たいていは飲んでるか食ってるか女はべらせてるか。
しかもみ~んな、不正経理の会社のお金で。

時代劇の悪代官だって、ここまでわかりやすく悪くはないぞ!
それに俳優の顔ぶれをみれば、次の展開がわかっちゃう。
柴俊夫はお約束の悪人笑い、
西村雅彦はお約束通り切れてくれるし。

なんの偏見も予断もなく、むしろ期待満々で観に行ったのに、
途中休憩が入ったところで、
ものすごく帰りたくなりました。
スクリーンの大画面に「あと3分ではじまります」
「あと2分で・・・」とカウントダウンされるのがおもしろくて、
帰りそびれ、このあと、うっかり後半へ突入。

後半、国見会長登場で、
いよいよ「巨悪」にメスがはいるわけです。
機付き整備士を導入などで安全性が高まった
というのは評価に値するけれど、
結局どうなったのかわからないまま、
三顧の礼をもって迎え入れたわりにはすぐクビで、
このあたりの事情もよくわかりません。

最後はアフリカの壮大な夕日。
題名「まんま」のエンディング。
ミーアキャット」とおんなじでした。
エンデイングテーマはこっち(沈まぬ太陽)のほうが良かったです。

作品全体を通じていちばん納得いかなかったのが
日航機事故の遺族の扱いです。
「クライマーズハイ」では多少の配慮が感じられたのですが、
これ、遺族の人がみたらどうなんだろう。

すべて恩地の「引き立て役」の役回りです。
むしろヒールっぽいかも。

遺族会の事務局長の美谷島さんは今回も全面協力で
クライマーズハイ同様、健クンのエピソードを提供しています。
でもなかなか実名で映画に登場させるのを承諾する遺族は少ないはず。

ましてや日航に全く協力してもらえない状況で
再現シーンをとるのはホントに困難極まりなかったことでしょう。
(全日空全面協力の「ハッピーフライト」とはエライ違いですね)
でもこれが作品の価値を高めるとも思えません。
むしろ、映画にすべきではなかったのかと・・・・

恩地のモデルになった人物が、
「日航機事故被害者の交渉役になった事実はない」
ということは、観た後で知りました。
そうかぁ・・・
でも、観た人(本を読んだ人も)は、事実だと思うよね。
これはノンフィクションまがいのお話としては
けっこう悪質かもね。

内容以外のことでちょっと許せないのは、
時代考証のいい加減さ。
1962年から88年くらいの、タイムラグがあるのに、
渡辺謙の頭にカツラを乗っけるか乗っけないかだけの
コントみたいなメイクもすごいし、
小学生と思われる二人の子どもが、海外転勤の間に
全然成長してないのも、ありえないずさんさ。
エキストラの衣装とか演技とかも手を抜いてませんでしたか?

予算が足りないなら、「クライマーズ・ハイ」のように
その場面をつくらない、というのもありだと思います。
それをあえて映すのなら、もうちょっと頑張ってね!
飛行機のCGも酷いけど、
東尋坊の崖も、飛び降りても助かっちゃいそうな感じ。
あんなの観るくらいなら、むしろ映像いらなかったです。

「テレビの2時間x2日のスペシャルドラマならいいかな?」
のレベルでした。
映画館で長時間拘束され、集中して観る必要ないと思います。
ごはん食べたり家事をしながらちらちら観ても
充分内容は理解できるし、
映画館で集中して観ちゃったら、
いろいろ細かいアラが気になって、逆に
素直に日航をバッシングしようなんて気にはなれないです。

ほんとに「残念の塊」みたいな中で、
救われたのが妻役の鈴木京香。
カラチでのスカーフ姿は「君の名は」の真知子みたい。
すっごく似合っていました。
(ほめ方、ちっちゃ~い!)

「あなたさえ みじめにならなければ、わたしは・・・」

「かまいませんよ。怒りたい時に怒れば
わたしだっていっぱい我慢してきたんですよ」


妻の鏡ですね。
扱いの難しい夫をしっかり受け止め、やさしくリリースする。
こんな妻に私もなりたい。(でも無理)
彼女はとっても語尾がきれいで、
こんな普通のせりふでも、記憶に残ってしまいます。
(広末涼子では、こうはいくまい)

全般的に、
初めて明かされる真実に触れる興奮・・・というようなものは
ないです。
暗い映画でもシリアスな映画でもない。
娯楽映画としては良しとしましょう。
この長尺、あまり退屈はしなかったし、
眠くもならなかった。
「1本分の料金で長時間見られてお得!」
という考え方があるなら、「お得」なのでしょう。
でも3時間半もの時間を拘束されただけの
充実感や感動は、私はまったく感じられませんでした。

お暇だったら、観てください、といえるだけです。