映画「クライマーズハイ」 平成20年7月5日公開予定 ★★★★☆

原作「クライマース・ハイ」 横山秀夫作  文春文庫   ★★★★★

クライマーズ・ハイ


読んで♪観て♪

見ごたえのある作品でした。

気楽にみられる心地よい映画ではありません。でも、

見終わった後、2時間半まえより、ちょっとタフな自分になれたような

気がしました。


2時間25分という長尺、その多くは北関東新聞社の編集局の

大部屋でのやりとりで、20年前の新聞業界を描いた

「企業映画」のような印象も受けました。

 

昭和60年7月12日は、悠木にとって、日航機事故の全権デスクに命じられた日、

というだけでなく、親友の安西を失うことになる重大な日でもあったのです。

原作ではこの二本の大きな柱を同時進行で書いていましたが、

映画では、安西のことがかなり削られていて物足りなかったです。

(このことは後述)


局内の人間の描写はなかなかの迫力でした。

取材に命をかける熱血記者、過去の栄光にどっぷりつかっている部長連中、

自分のプライドや保身しか考えない嫌なやつら、

すぐに切れる悠木デスクのまわりは、キャラクターの濃い人たちばかりです。

彼らは上司にむかってもぞんざいなくちの利き方をするので、

本で読んでいると、誰が誰にむかって話しているのか

わかりづらかったのですが、映画ではとってもよくわかりました。

(あたりまえですね・・・)


新聞社は、言ってみれば「他人の不幸が飯のタネ」

犠牲者は一人でも多いほうが、見出しが大きくなるし

盛り上がる、よく売れる・・・・これが現実です。

現実の事件を題材にしているので、

遺族の方たちの心情が気になったのですが、

映画では極力感情を逆なでするような描写は

注意深く排除していたように思います。


悠木が搭乗者名簿を見るシーン。

9歳の男の子の名前で指がとまります。

たしか、実名ではなかったかと思います。

彼はたったひとりで123便に搭乗したのです。

事故にあった彼の笑顔、お母さんの顔、

一瞬のうちによみがえって、

涙がとめどなくあふれてきました。


実はそれよりまえ、悠木の息子ジュンも

「キッズサポート」のようなサービスを利用して

ひとりで飛行機に乗るシーンがあり、

原作にはない、伏線をはっていました。

親の悲しみが彼を襲ったことでしょう。

「犠牲者の心にそった紙面をつくる!」

せりふにはなかったですが、悠木の決意が

聞こえた気がしました。

彼はその後、独断で派手な広告や日航の広告を

カットするのですが、そこに自然につながって、

この改変はとても良かったと思います。


カットしてほしくなかったところ


①  安西は若いころから登山ひとすじで、

無職のとき妻が妊娠した。困っているとところを

販売の伊東(ガムをくちゃくちゃ噛んでるいやなヤツ)が

拾ってくれたので、恩義を感じて、無理な仕事も自分から

進んでやっていた。


②  悠木は安西の死後、「親友の遺児」として、息子の

燐太郎をずっとかわいがってきた。

(20年以上たって、急に登山に同行したわけではない)


③  安西は自分の息子にアンザイレン・・・「安西れん」と

名づけたかったが、妻に反対されて実現しなかったと

悠木には話していた。でも、それ(反対されたこと)は嘘だった。


とくにアンザイレン(二人以上が相互確保のために

ザイルで体を結びあうこと)という登山用語は、

「クライマーズ・ハイ」とともに、

この小説の中核をなす大事なことばなので、

せりふの中にもっと生かしてほしかったです。


悠木自身の家族、とくにジュンとの親子関係は

この話の背後にずっと流れていることだと思うのですが、

これもごっそりカットされました。

父が好きなのに、それが表現できない不器用な息子。 

思うようにならないとすぐに暴力をふるってしまい、

息子に嫌われていると思い込んでいる父親。

この辺の葛藤の説明もなしに、

ニュージーランドのシーンに飛ぶのは

どうなんでしょう??

ちょっと納得のいかないラストでした。


勝手なことばかり書きましたが、

原作どおり作っていたら、

4時間ちかい映画になってしまいますね。

がまん、がまん、です。



「日航機墜落」をライブで知っているのは

30歳以上の人でしょうし、

取材先で人の家の電話を借りる、なんて、

若い人たちには、理解できないでしょうね。

それにつけても、無線もなしに手帳と鉛筆をもって

革靴とスーツで山に登らせるなんで、それはないよね。

紙面の割付だって、今はパソコンで

ひょいひょいとできるけれど、

当時は名人芸が必要だったんでしょうね。


こんなくだらないブログでさえ、今は一瞬で公開できるのに・・・・

申し訳ない気持ちでいっぱいです。