遊漁船業を営まれている皆さま【業務規程の改訂が必要です】
平成30年2月22日付け運委参第286号運輸安全委員会委員長意見「遊漁船及び瀬渡船における落水した釣り客の救助に関する意見」が出されたことを受け、業務規程例の条文及び別表8の改正が行われました。
この改訂に基づき、遊漁船業の登録をしている事業者は下記の手続きが必要です。
1.使用船舶と営業所に保管している「業務規程」の改訂の作業。
2.登録している都道府県知事宛に「業務規程の変更届出書」とともにこれを提出する。
3.提出した業務規程のコピーを今まで同じように船と営業所に保管する。
(なお、自治体によっては行政の収受印の押された届出書または業務規程の表紙の控えを保管するよう指示される場合があります)
★業務規程の改訂の中身について★
ものすごくざっくり言うと、「人が落ちた時の対策として、船に『はしご』などを置くこと。そしてその使い方を定期的に訓練したり、釣り客にも使い方を周知すること」です。
具体的には、
第7条第2項の新設
「事業者は、利用者が落水した場合に船上への引揚げを補助できるはしご等を遊漁船に備えます。」
第9条第3項の新設
「事業者は、自ら及びその従業者が適確に落水者を救助できるよう、落水者の発生を想定した定期的な訓練を行います。」
別表8(旅客への周知事項)
*救命胴衣及び救命浮環の保管場所及び使用方法(改訂)
*救命胴衣等の保管場所落水者の船上への引揚げを補助するはしご等の保管場所及び使用方法 (新設)
つまり、↑この内容を釣り客へ周知する必要があります。周知方法も決まっていまして、「釣り客に周知事項を書いた書面を配布する」か、「船か営業所のどちらかの皆が見やすいところに掲示する」です(いずれにするかは業務規程で定めるところによります)。
通常は漁連、漁船保険組合等で配布されている「利用者の皆さまへ」(黄色いステッカー)を貼り付けていることが多いと思いますが、内容が古いものは救命胴衣の着用が任意の記載になっていたりもしますので、中身について注意が必要です。
また、「船と船宿のどっちに貼り付ければいいの?」と以前質問を受けたことがありますが、要するに「目につくところ」です。
一度船宿に集合してから船に移動するのであれば、船宿にあればいいし、そうではなく漁港などに直接集合するような場合は船内掲示が必要であると思慮します。
★改訂の経緯★
平成28年12月29日に蓋井島北西岸付近の三ノ鼻において瀬渡船の釣り客が亡くなるという痛ましい事故がありました(以下「本事故」という)。
この事故は、瀬渡船が釣り客の収容作業中に波高約3mを超える波を受けたため、船体が移動して釣り客がバランスを崩して移乗を始めた位置から低いくぼみにずり落ち、落水したことにより発生した可能性が考えられています。
この事故では、落水後の釣り客の救助活動において、船長が救命浮環を投げ入れて釣り客を本船の舷側まで引き寄せたものの、船上に引き揚げることができず、釣り客が溺死してしまいました。
一方、本事故翌日に発生した別の瀬渡船の死亡事故では、釣り客が瀬渡し中に落水したにもかかわらず、船長が救命浮環の使用に思い至らず、また、釣り客に救命浮環の保管場所が周知されていなかったことから、救助に際して救命浮環が使用されなかったことが釣り客の溺死に関与した可能性があると考えられています。
本事故のほか、平成20年10月から平成29年12月までに運輸安全委員会が公表した調査報告書において、遊漁船の事故等は330件、渡船の事故等は54件、遊漁船と瀬渡船の衝突事故は1件であり、合計は385件であった。これらの事故等のうち、釣り客に落水者が発生した事故は26件で38人となっており、このうち、13人が死亡(11人は溺死)していたとされています。
これらの事故は、発生の状況は異なるものの、いずれも瀬渡し場所での乗降時に釣り客が落水し、その後、釣り客の生存が確認できていたものの、救助することができずに亡くなるに至っています。
そこで、落水者を発生させないことはもとより、仮に落水者が発生した場合でも生存率を高めるために、前述したような業務規程の改訂指示が水産庁よりありました。
★「はしご」についての具体的運用について★
個別具体的な例までは、国の方から落ちてきていませんので、各事業者の判断に委ねられるところであると思慮しますが、なんらの措置も取っていないとなると、当然ペナルティの対象になるでしょう。
(業務規程の記載事項に違反=遊適法違反で指導や業務停止処分等の対象になり得ます。)
例えば、舷の高い漁船であれば、ロープはしごなど作った上で「すぐに使えるところに浮き輪などと一緒に保管する」等が必要だと思います。
シーバスガイド船などで使われているフィッシングボートタイプでも同様だと思います。あるいは、トランサムの横にラダーの設置などでも足りるとは思慮します(浮環によりラダーの位置まで引っ張ってあげることもできるため)。
和船、バスボートは舷が低いので、自力でよじ登るのは容易だと思いますが、「容易であるなら免除する」という指示・指導は落ちてきていないので、同様にロープはしごくらいは保管しておくべきです(ペナルティを回避するため)。
次に訓練についてです。
訓練の方法等について具体的な指示は落ちてきていないので、各遊漁船事業者の判断に委ねられるところです。
最後に、周知についてです。
業務規程別表8の改訂において、「救命胴衣等の保管場所落水者の船上への引揚げを補助するはしご等の保管場所及び使用方法」の記載が新設されました。
別表8というのは、お客さんへ周知するものになりますので、はしご等の使い方までお客さんに周知することが遊漁船事業者に義務付けられました。
これはちょっと中々、運用が難しいところだと思われますが、考えられる方法として最適なのは、以下のような書面をパウチするなどして船内の見やすいところに掲示することでしょうか。
「
落水者が発生した場合
万一、お隣のお客さんが落水してしまった場合などは、引き上げようの「はしご」がここにしまってありますので、落水者の救助のご協力をお願い申し上げます。
はしごの使い方:〇〇〇
安全な遊漁船の運航のため、皆さんのご理解・ご協力をお願い申し上げます。
〇〇丸 船長
」
と、こんなところでしょうか。
★手続きについて★
※業務規程は変更を生じた後,≪遅滞なく≫届出なければなりません(遊漁船業の適正化に関する法律第11条後段)。
この手続きを怠っていると,6ヶ月以内の営業停止処分又は営業取消処分の対象となりますのでご注意ください(同法第19条第1項第1号)。
当事務所ではこれらの業務規程の変更届出等を速やかに処理いたします。
詳しくはご相談くださいませ。
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