裏運気よ、お前もか
2000年代に入ると、お笑い芸人がオリジナル占術『五星三心占い』を世に繰り出しました。赤いマスクで顔を覆ってメディアに出演し、著書の発行部数は累計で700万部にも及ぶといいます。こちらはみずから占いとうたっているので、それほど罪はないのですが、「裏運気」というのが聞き捨てなりません。だから深堀しない程度に、仕組みに触れてみることにしました。
五星三心の「五星」は、人が生まれ持つ5種類の欲望も示していると、著書内に説明があります。命数から割り出し、その下ひと桁1と2が「自我欲」、3と4が「食欲・性欲」、5と6が「金欲・財欲」、7と8が「権力・支配欲」、9と0が「創作欲」で、さらに生まれた西暦年が偶数なら攻めの強い「金(陽)タイプ」、奇数なら守りの強い「銀(陰)タイプ」なのだそうです。
少しややこしくなりますが、子平八字の宿命星は比肩、劫財、食神、傷官、偏財、正財、偏官、正官、偏印、印綬の十星であることは、前に紹介しました。それぞれの星には性格があります。
比肩・・独立心旺盛でマイペースの努力家。
劫財・・自己顕示欲が強力なギャンブラー。
食神・・食通でのんびりしたい平和主義者。
傷官・・自信家で負けず嫌いな完璧主義者。
偏財・・アドリブが利く現実主義の商売人。
正財・・計画的に着々と貯蓄に励む堅実派。
偏官・・義理人情に厚く革新的思考のボス。
正官・・信用第一で実より名のプライド派。
偏印・・頭の回転が速く天才肌の変わり者。
印綬・・浮世離れしたこの道一筋の研究者。
「五星」は実に、これにピタリと当たるのです。前出の子平八字命式表を見てみましょう。月柱の蔵干宿命星を元命といいます。その人の基本性格をあらわしますが、五星はまさに元命であることが、おわかりいただけるかと思います。
子平八字元命・・比肩 劫財 食神 傷官 偏財 正財 偏官 正官 偏印 印綬を、
五星三心五星・・1欲 2欲 3欲 4欲 5欲 6欲 7欲 8欲 9欲 0欲に名称変更。
そして「裏運気」です。
十二運は子平八字だけでなく、中国命術のほとんどに登場するポピュラーなものです。自然界に太陽の昇降や季節の移ろいがあるように、人間界にも規則的な運気のリズムがあると考えられており、それが長生、沐浴、冠帯、建禄、帝旺、衰、病、死、墓、絶、胎、養の十二運です。
長生・・人が初めてこの世に生まれる。成長と発展のきざし。
沐浴・・人が生まれて産湯に浸かり垢を取る。迷いやすい。
冠帯・・人が成人して一人前になり、社交の衣服をまとう。
建禄・・人がさらに成長し、社会に出て積極的に活躍する。
帝旺・・人の体力、気力、事業が充実して最高潮に達する。
衰・・・人の体力、気力が最盛期を過ぎて衰え始める。
病・・・生命力の衰えが激しくなる。争いが絶えない。
死・・・生命が尽き果てる。運気低迷して思い通りにならない。
墓・・・墓に入り地中に蓄えられる。運気が完全に固まった状態。
絶・・・前の気が尽きて無の状態だが、後の気が動く気配を見せる。
胎・・・後の気が動き出し、魂が母の胎内に宿って無から有になる。
養・・・胎内で養われ、生まれようとしている。新たな成長の暗示。
裏運気が十二運の墓星に対応していることは、全体が12周期であることと、それぞれの星の意味から見て、まず間違いありません。多分こうでしょう。算出法は六星占術と同じみたいです。
子平八字十二運・・長生 沐浴 冠帯 建禄 帝旺 衰 病 死 墓 絶 胎 養を、
五星三心運気・・・健康管理 リフレッシュ 解放 準備 幸運 開運 ブレーキ 乱気 裏運気 整理 チャレンジ1年目 チャレンジ2年目に名称変更。つまり裏運気は墓のこと。
算命学の天中殺しかり、六星占術の大殺界しかり、五星三心占いの裏運気しかり。アレンジ巧みな日本人が、古代中国人が長い年月をかけて築き上げた学問をベースに、ちょいと知恵を働かせて編み出した、金もうけの道具にすぎません。そのからくりを知らずに信じてしまう迷える子羊たちの心理を利用して、たっぷりと金を吸い上げるこうした占いビジネスは、いつの時代も商売繁盛です。
紀元前1600年頃(殷時代) 甲骨文字に「六十干支」刻まれる
紀元前600年頃(周時代) 陰陽五行説成立
紀元前500年頃(周時代) 命術「七政四餘」誕生(空亡登場)
900年頃(唐~五代十国時代) 命術「紫微斗數」誕生
1000年頃(宗時代) 命術「子平八字」誕生
1350年頃(元~清時代) 子平八字の教科書「滴天髄」完成
1550年(明時代) 紫微斗数の教科書「紫微斗數全書」完成
1800年頃(清時代) 古代占術事典「星平会海全書」完成
1970年頃(昭和時代) 天中殺の「算命学」誕生
1978年 「算命占星学入門」刊行
1985年 「運命を読む六星占術入門」刊行
2015年 「ゲッターズ飯田の五星三心占い」刊行
*命術誕生の時期は推測です。