天中殺の誕生は昭和の日本

 

後に朱学院宗家となる少年がいました。長崎の材木問屋に生まれた彼は、中国共産党革命から逃れて長崎に亡命した、儒学者の(ウー)仁和(レンホー)と出会います。養父となった師から学んだ中国命術に心酔し、昭和34年、駒澤大学への進学を目指して上京しました。

 

ここからは私の作りばなしです。

 

立派な青年に成長した彼は、進学資金と生活費を稼ぐため、目黒で占い鑑定業を営みながら、命術で金もうけできないものかと知恵を絞りました。子平(四柱推命)で食っちょる占い師ばたくさんおるし、おいがマネしたところで稼げるとは限らんから、ここはひとつ、手を変え品を変える必要があるばい。

 

子平は、生まれた日(日柱)の干支を中心にして宿命星を割り出すんだ。宿命星は比肩(ひけん)(ごう)(ざい)(しょく)(しん)傷官(しょうかん)(へん)(ざい)正財(せいざい)偏官(へんかん)正官(せいかん)偏印(へんいん)印綬(いんじゅ)なんだが。ちょっと待てよ。星の名前を変えれば案外いけるんじゃないか? そうだ、それだ! 貫索、石門、鳳閣、調舒、禄存、司禄、車輢、牽牛、龍高、玉堂なんてね。これでどうだ!

 

子平八字宿命星・・比肩 劫財 食神 傷官 偏財 正財 偏官 正官 偏印 印綬を、

算命学宿命星・・・貫索 石門 鳳閣 調舒 禄存 司禄 車輢 牽牛 龍高 玉堂に名称変更。

 

よしっ、次は十二運だ。運勢の強弱のリズムがわかるやつだ。子平は長生(ちょうせい)沐浴(もくよく)冠帯(かんたい)(けん)(ろく)帝旺(ていおう)(すい)(びょう)()()(ぜつ)(たい)(よう)だから・・・。うーんと、意味ありそうな名前にしなきゃ。天貴、天恍、天南、天禄、天将、天堂、天胡、天極、天庫、天馳、天報、天印に変えて。おっ、天をつけたら雰囲気出たよ。いい感じになってきたぞ!

 

子平八字十二運・・長生 沐浴 冠帯 建禄 帝旺 衰  病  死  墓  絶  胎  養を、

算命学十二運・・・天貴 天恍 天南 天禄 天将 天堂 天胡 天極 天庫 天馳 天報 天印に名称変更。

 

でも困ったな。子平みたいに年柱、月柱、日柱、時柱の四柱で表記すると、がめたと思われるっちゃ。そうか。日本人は正確な出生時間を気にしないから、いっそのこと時柱はなしにしちゃおう。生年月日だけで十分じゅうぶん。それにしても三柱でもあれか。四柱推命みたいか。宿命、運勢、運気、運気、うーん気。気だぁ、エネルギーだぁ。エネルギーってことなら、人体干支図でいけるね。ふふふ。

 

空亡はどうしようか。あんまり迫力ないからな。もっとおどろおどろしい名前に変えたいなあ。十干が空間で十二支が時間だから、空間と時間のズレってことにして、殺すとか、いいじゃないの。人間どうせ死んじゃうんだからさ。天が中殺するとかね。意味不明のほうがごまかしやすいし。空間と時間のズレが生じて、天が激しく運気を揺り動かし、機能を止めてしまい、不運を招きやすい。積極的に事を起こせば、災いは決定的なものになる。よしっ、天中殺で決まりだ。ばり(おと)ろしか。

 

最後に、この新しい学問の名称だけど、鬼谷子っていたよな。殺と鬼で完璧だ。『鬼谷算命術』って本がある。それいただきます。術を学に変えて算命学にしよう。発祥は鬼谷子ってことでよか。でーきたぁ~。しめしめ。これなら算命学の元が子平だと、絶対にバレるまいって。

 

こうしてインチキ天中殺の算命学は、昭和45年前後に日本の東京で産声を上げたのであります。

 

<子平八字の命式表>

日柱の干支(下表では丁)をもとにして宿命星(通変星)を求める。

各柱の地支には十干の要素が含まれている。つまり、地支が干を蔵している(含んでいる)ので蔵干という。このうち月柱の蔵干宿命星を元命といい、その人の基本的な性格と運勢を看るのに用いる。この命式表では印綬が元命になる。

命式表

時柱

日柱

月柱

年柱

天干

地支

天干宿命星

偏印

 

偏官

正官

十二運

帝旺

蔵干

蔵干宿命星

正財

印綬

印綬

劫財

戌亥空亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<算命学の人体干支図>

生まれた日の干支(下表では丁)を核として各星を求めるのは、子平と同じ。

 頭・・・・親との関係。

 胸・・・・自分自身。

 腹・・・・子どもとの関係。

 右手・・・兄弟姉妹との関係。

 左手・・・配偶者との関係。

 右肩・・・初年運。

 右足・・・中年運。

 左足・・・晩年運。

陰占宿命

 

戌亥天中殺

 

人体図

 

牽牛星(頭)

天極星(右肩)

龍高星(左手)

龍高星(胸)

石門星(右手)

天胡星(左足)

車輢星(腹)

天胡星(右足)

 

天中殺ブームの際、天中殺を信じた人たちは、不安と焦燥から恐怖に陥ったことでしょう。天中殺を理由に結婚の延期を余儀なくされた人、事業を始めようと資金調達したのに、天中殺が原因でご破算になった人、あんた天中殺だからとチームから外された人。みんなインチキ天中殺の被害者です。

 

朱学院ホームページによると、トータル40万円の授業料を払って2年間通学すれば、プロの算命学師になれるそうです。「中国にて皇帝の占法として発達した算命学。他の運勢学より卓越した理論と技法・正確さを誇る算命学」が40万円で学べるなら、安い買い物かもしれません。よ。

 

うわべだけで中身がないニセ中国占法団体は、信者から高額な授業料をぶんどって養成し、どこまでも天中殺の被害者を増やす気でいるみたいです。

 

余談ですが、中国人に「算命をご存じですか?」と尋ねてみてください。きっと次のような答えが返ってくるでしょう。

 

「ああ、知っているとも。算命館のことだろう。日本の占いの館さ」