食と農業に関する出版を行う団体に勤めていることもあって、全国の様々な食材や食品に出会う機会の多いのがうれしいです。やはり美味しいものに出会い、味わうときほど幸せなことはありません。



ということで、今回は最近出会った個性派の醤油を3点ご紹介します。



写真は、左から、長野県千曲市で農家のお母さん方が作っている手作り醤油、日本の醤油発祥の地とも言われる和歌山県湯浅町の搾りたて生醤油、そして東日本大震災で津波被害を受けた岩手県陸前高田市の八木澤商店の丸大豆醤油です。



かいたん☆かいたん 八ヶ岳縄文人への道


すべて大豆、小麦、食塩だけで作った濃口醤油で、丸大豆醤油です。よく店頭でも「丸大豆」と表記されたものが、少し高めの値段設定で売られていますが、これは大豆を丸のまま原料にしていると言うことです。当然ではないかと思われるでしょうが、市場に出回っている安い醤油のほとんどは、大豆から油を搾り取った後の大豆かすを材料にしているのです。



■千曲市(五加)の手づくり醤油

まず、千曲市の手作り醤油。これは先日、仕事で長野の事務所に行った際に、たまたま打ち合わせに来ていた「食と農のかけはしの会」代表の小松たつ子さんからいただいたものです。


小松さんたちは、地元の伝統的な食文化を次世代に伝えていこうと、先輩のおばあちゃんから聞き取りをして、食の伝統的なしきたりや知恵を満載した「食ごよみ」という冊子を作成したり、手作りの農産加工品や料理を持ち寄った「食の文化祭」を開いて、味の交流を行ったり、また子供たちに箱膳を使った食事の体験を通じて、食のマナーや伝統食を伝えたりする活動に取り組んでいます。


★食の文化祭

http://www.city.chikuma.nagano.jp/app/b-keizai/k-nourin/20100202171751713.html



自分たちで育てた大豆を、地元の宮坂醸造に頼んでモロミ作りをやってもらい、それを木の樽に仕込んで1年余りじっくりと発酵させます。その上で、再度搾る作業を頼んで瓶詰め。自作のラベルを貼って、地元の直売所などに置いています。そんなに量も作っていいないので、かなり貴重なお醤油です。



■湯浅醤油の生醤油

一方、湯浅町の生醤油は、製造元の湯浅醤油有限会社からネットで取り寄せました。同社の若社長新古敏朗さんとは、6年ほど前の「ナチュラルエキスポ」で当時発売したばかりの「洋食屋さんの醤油」と称する新商品を持って初出展した際にお会いし、名刺交換をしました。


たまたま先日、昨年仕込んだ醤油の搾りたて「生醤油」を数量限定で販売しますとのメールをいただいて、申し込みました。火入れをしていないため、香りも高く、えんじ色のきれいな醤油が小瓶に詰められています。


★社長 新古敏朗のブログ

http://ameblo.jp/yuasasyouyu/



■陸前高田市・八木澤商店の丸大豆醤油

最後は、陸前高田市の八木澤商店の醤油です。八木澤商店は先の大震災の津波で200年続いた古い店舗が流され、社員も二人犠牲になりました。ニュースにもよく登場していた老舗ですが、試験用にたまたま大学に預けていたモロミが見つかって、これまで親しまれてきた伝統の味を再現しようと、先代の河野和義さんから息子の通洋さんに社長業を引き継ぎ、新たな出発をいち早く行いました。7月の東京国際ブックフェアでも、東北復興支援を掲げた物販で、八木澤商店販売の醤油も扱いました。当時はまだ製造を再開していなかったため、提携先の醤油醸造メーカーから取り寄せた商品でした。



かいたん☆かいたん 八ヶ岳縄文人への道
東京国際ブックフェアで販売した醤油は委託製造の商品でしたが、風味がよく、美味しい醤油でした。500mlの醤油も残りわずかです。


今回の醤油は、10月に日比谷公園であった「土と平和の祭典」で販売するブースがあったため、そこで買い求めました。「陸前高田がんばっぺし」のシールが貼られ、商品名も「ゆっくりね のんびりと」ということで、再起に向けた意気込みと発酵のじっくりのんびりの世界に信頼を寄せながら、丁寧な仕事を行う八木澤商店の姿勢が現れた一品です。


ただ、自社のモロミでの醤油は1年間余の発酵期間を要するため、まだ今のところは委託製造した醤油になっています。


★八木澤商店ホームページ

http://www.yagisawa-s.co.jp/index.html





いまや醤油は日本が世界に誇る調味料です。地域地域、また会社会社で味の個性がきらっと輝く地域食品です。


だいぶ数が少なくなったとは言え、まだ全国には1000を超える醸造メーカーが残っています。味噌も同様です。日本食の味を支え、日本人の繊細な味覚を育んできた醤油や味噌の小さなメーカーを、これからもみんなの力で支えていきたいものです。