指導について
今度、西表島で操船と帆や艤装品製作のお手伝いに。
島へは何度も行っているし、サバ二仲間へは機会を見て浅い経験ながらも伝る
れるものは伝えてきたつもりだが、今回は「指導」の目的で招待されること
に。これまでのように遊び感覚で行くわけにはいかない。
ちょっとプレッシャー。
そもそも私が指導していいものか?という基本的な問題があるものの、求まら
れるとその任に相応しいのかを判断しないまま、のこのこと行ってしまうこと
に。
第1回 帆の製作
「帆の製作方法とその形の解説」
上記の講習があるなら私も参加したい。
私は帆について流体力学などといった専門的な知識はないし、そんな解説はで
きない。
帆の設計はどうしてその形になったのか? と問われたら「何となく使い勝手
がいいんだよねー」というしかない。
「ラインの解説もして欲しい」との要望を受けて、改めて、どういう説明をしたものか?考えてしまった。だがなかなか上手い言葉が浮かんでこない。
揚力や風圧中心などと、どこかで拾ってきたような小難しい言葉を並べても、私の言葉ではないので、最近はそれも仕方ないのかも知れないなーと思い始めている。
私もはじめ意味を知りたくて、そんな質問をサバ二大工の新城さんに投げかけ
ていた。だが期待する回答を貰う場面は少ない。多分それは理屈ではなく、
フィールドで養われた感覚的なものではなかろうか?
少し話はずれるが、以前奄美大島から宝島への航海時、あるラインから潮に流されて若干方位を修正した。後にGPSを確認したら修正する前に流され、そして修正したのが航跡にはっきりと残されていた。クルーのマコトから「なんで分かるの?」の質問に「うーん何となく」と答えてから、改めて自分でも何を目安にしていたのか明確に答えられなかった。
航海中たまにスピードを確認することはあるが殆どの場合、後に航跡を確認する目的以外はGPSを使用することは少ない。
これなども言葉では説明できない感覚的なものだったのではなかったろうか?
帆もしかり、多分私はその形を力学などの専門的な解説を交えての説明できないと思っている。これまで大小合わせて30枚近くの帆を製作してきた。修正したばかりは満足できても何回か使用しているうちに必ず不備や不満が出てくる。きっとこの過程は留まることはないと諦めている。
帆に限らず帆かけサバ二全体に言えることだが、私のスタート時は情報も限られ周りに指導してくれる人がいなかった。
すべては海(レースや航海)での試行錯誤を繰り返し手探りでやってきた。帆の製作に限らず、操船方法から全ての装備品も例外なくそうしてきた。
今思えば少し時間はかかったがそれで良かったと思っている。
帆かけサバ二はシーカヤックやヨットの要素を備えてはいるが、あくまでも帆かけサバ二という得意にして独特なジャンルだと思う。
昔の海人は専門的な知識を持ち合わせていた訳でもないのに、帆に膨らみを持たせたり舟の形をフィッシュフォームにしたりとシンプルながらもあらゆるところに工夫を凝らし多くの面で現代の専門家をも唸らせるデザインになっている。
それは日々、海と共に暮らし時には命をも危険にさらしてきた道具なのだから否が応でも洗練されてくるのだろう。
そこには理屈ではなく海という最も信頼できる厳しい先生がいて結果として修練されてきたのだろう。
もし私に指導するに値する何か一つでも誇れるものがあるとすれば、その完成
度の良し悪しはともかく、製作の数、サバ二と共に過ごした時間、フィールド
に出る回数、だけは他の誰より勝っていると自負している。
そしてこれこそが最も価値あることだと思っている。
昔の海人とは比較するのはおこがましいが、難しい理論の理解力がない以上、
フィールドで経験を重ねる他ないのだろう。
こんな私でも知りたいと言ってくれる人がいるのは光栄なことだし、僅かばか
りの経験でも知りうる全てを伝えたいと思っている。
森