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 泰王、泰麒の行方不明から六年。逆賊の汚名を着せられた戴の将軍・李斎は泰麒を、ひいては戴を救うため、泰麒と同じ胎果であった景王を頼ろうと景へと向かうが・・・という話。

 

 李斎や泰麒の状態も相まって、かなりハードなストーリーです。導入部分からもう緊迫感がすごくて冒頭から引き込まれますが、最初から最後までつらい状況が続く上、状況はあまり好転しないままエピソードが終わってしまうので、この巻だけではいささか消化不良かも。

 でも、少々陰惨なものの、とてもおもしろいことには変わりないです。

 

 読んでいて気分が晴れる部分といえば、やはり十二国の約半数の麒麟が集結してワイワイしてるのを読むのはだいぶ楽しかったですね。麒麟以外の新キャラでは氾王がなかなかおもしろい人物でしたね。かなりの賢王なのだろうかと思わせる洞察力がありました。氾麟も愛嬌があってかわいいし。この王と麒麟の間にも独特の関係性があるんだろうなと思うと、国それぞれで王と麒麟の付き合い方に違いがあっておもしろいです。

 

 あとは、登場人物が十二国世界のルールと直接対峙して、そのルールの穴をついていくような感じで泰麒を救おうとしていく様が、他のファンタジーにはなかなかない感じでおもしろかったです。これは世界のルールがかなりきっちり定められている十二国記ならではだなぁって。

 キャラクターが世界の理に疑問を持ったり、物申したりするのもどこかメタ的でおもしろかったし。

 その流れから発せられたセリフで「天が実在しないなら、天は過ちを起こさない。もし天が存在するならそれは過ちを起こす。そしてそれを正すだろう」みたいな言葉がとても印象に残りました。

 

 先に書きましたが、泰麒の救出はなんとか叶ったものの、戴国の状況は以前厳しいままなので、晴れやかなエンディングとはいかない本書ですが、それでも人や麒麟のやさしさ、力を合わせて救おうとする心が染み入る良い物語でした。