★★★★☆

 第一巻の「月の影 影の海」のラストにて景王に即位した陽子。

 普通ならそこでめでたしめでたしのはずなんだけど、王になったらなったで気苦労は耐えなくて・・・というその後のお話が描かれています。

 

 この巻は陽子、鈴、祥瓊という同年代 (仙籍期間の関係もあり、実年齢は違う) の少女三人の視点が入れ替わりながら物語が展開していくのが特徴です。

 正直、私はこのエピソードの上巻はあまり好きではありません。鈴、祥瓊らの話が進んでいく中で、行く先々で出会う人々がいちいち正論ぶった説教をかましてくるのが鼻につきました。

 そのお説教の内容も「みんなそうだからお前も我慢しろ、不平不満を言うな」とか「その場所から逃げ出さなかったのは、そんなにつらくなかったからだろ」というものばかりでまったく響いてきませんでした。特に後者の清秀が言った「その場から逃げなかったのは、本当にはつらくなかったからだ」云々の発言には腹が立ちましたね。人にはいろんな事情があって、つらくてもそこから離れられない人だっているんだよ。虐待されてる子どもとかの前でそんなこと言えんのかっていう。

 

 まあ確かに鈴、祥瓊は他責思考強めではあるのですが、二人ともかなりつらい思いをしてきたのは事実で、それは嘆いてもいいと思うんですよ。 (もちろん盗みをしたのはダメですよ) 

 自分たちにも反省すべきところはあったけど、他人にひどいめに合わされてきたのはそうなんだし。それに、その人の悲しみつらさはその人自身のもので、他人がそれを測っていいものではないでしょう。

 災害が起きていて生活も蓬莱より格段に厳しい十二国の世界での価値観なのかもしれませんが、そんなみんな説教ばかりしなくても・・・大変だったねって共感してくれるようなキャラがいてもよかったんじゃないとは思いました。

 

 その鈴、祥瓊の二人も、下巻ではだいぶ性格がかわって、急に正義感あふれるキャラになってしまったのも戸惑いましたが・・・。

 あとは、月渓がなぜあそこまで祥瓊を生かすことにこだわったのか、その理由がいまいち伝わってきませんでした。あまり原作とアニメを比べるのもどうかとは思いますが、これはアニメの方がその理由が明確に描かれていて良かったですね。

 

 このエピソードで一番好きなシーンはなんといってもラストもラストの陽子が初勅を出すシーンですね。このシーンは今までの物語の結としてビシッと決まる素晴らしいシーンでした。このシーンだけでもこのエピソードを読んだ価値はあると思います。

 

 余談ですが、景麒の使令のみなさんってけっこうそれぞれに性格が違っててすごい好きですね。冗祐はまじめな感じで班渠はけっこうお茶目な感じ。

 なんだかんだ陽子が景麒よりも使令を使いこなしてるっぽいのが笑えました。