足もとに流れる深い川 ★★★☆☆

 なんだかスティーヴン・キングの『スタンド・バイ・ミー』を思い出しました。

 仲間と釣りに出かけた夫が川に浮かんでいる死体を発見したことから夫婦仲がギクシャクしていく話。

 

 妻がちょっと過敏すぎるかなぁ。

 過去に友人を同じように失っていることからトラウマになっていることはわかるんだけど、夫が (やり方は大ハズレだけど) 何度も歩み寄ろうとしているのに、だいぶしつこいですね。

 夫の方も死者に対して敬意がなかったのは悪いとは思うし、性的な方面で妻の機嫌をとろうとしたことはよくない。

 妻と夫、どちらの態度もよくないと思いながら読んでいて、結局最後まで妻がぐだぐだ言うのやめなくて、じゃあどうすりゃええねんってなったまま終わるのが後味悪い。めんどくさい妻とデリカシーのない夫の組み合わせ。

 

ダンスしないか? ★★★★★

 これも「収集」のような不思議系だけど好き。

 中年の男が家財道具一式を自宅の芝生の上で売っている。それに目をとめた若いカップルと値段交渉などをしつつ、やがて売り物のレコードをかけてダンスを踊り・・・という話なんだけど、物語の風景がとても良い。

 

 人生の終わりが見えかけて何かやけっぱちな心境で家具を投げ売りする中年男性。そこへ未来がまだ充分に開けている若い男女が現われ、三人は束の間交わる。

 そこには何かしらの交代が行われているような気がする。中年男から若者たちへ何かが受け継がれ移動する。

 ダンスをしている情景が澄み切っていて美しい。

 短いストーリーなんだけど名作だと思います。

 

大聖堂 ★★★★★

 訳者の村上春樹氏がカーヴァーの傑作と呼ぶ作品。確かに傑作でした。

 妻の古い友人の盲人の男が家に遊びに来ることになり、夫ははじめのうちその盲人に対してあまり好感情を抱いていないんだけど、ひょんなことから彼と一緒に大聖堂の絵を描くことになって・・・という話。

 

 シチュエーションがいい。

 盲人と二人、手を重ねて大聖堂を描いていくうちに夫と盲人は一体となる。そこには絆のようなものが生まれる。

 とても美しい小説です。空気感がなんともいえない。

 

ぼくが電話をかけている場所 ★★★★☆

 アルコール依存症患者の更生施設に入所している人々の話。

 飲酒によって人生を壊してしまった者たちの再生の物語。

 彼らを取り巻いている状況は悲惨なんだけど、そこからなんとかやり直したいという願いが描かれている。

 

 終盤で幸運のキスをしてもらうくだりは、洋画のようなワンシーンだと思った。

 結末は希望と絶望が折り重なったせつない終わり方だと思うけど、もしその後絶望が待っていたとしても、ストーリー自体は希望を残しつつ終わっているので読後は良い。