★★★★☆

 芳醇な香りが漂ってきそうな表紙で、ついついコーヒーが飲みたくなってきますね。

 『ブラック・コーヒー』はチャールズ・オズボーン氏による小説版とクリスティの手による戯曲版とがあるのですが、こちらは戯曲版の方です。

 中身は「ブラック・コーヒー」と「評決」の二つの戯曲が入っています。

 

 まずは「ブラック・コーヒー」の方から。

 クロード・エイモリー卿が発見した原子力の方程式が何者かによって盗まれ、エイモリー卿も毒殺されてしまった。卿が飲んだコーヒーに毒を入れたのは誰なのか。その時屋敷の中にいた者たちが容疑者として調べられることになったが・・・という話です。これはポアロもので、ジャップ刑事も登場します。

 

 そんなに活躍してなくて地味めなキャラが犯人という定番の展開で、殺害トリックの方もそんなにたいしたものではなかったですが、原子力の方程式の隠し場所が盲点をついててちょっとおもしろかったです。それまで何回も意味深に描写されていたのに、まったく気づきませんでした。

 

 「評決」は、クリスティはけっこうお気に入りだったけど大衆には受けなかったというようなことがあとがきで書かれていましたが、確かに犯人丸わかりで推理とかはなかったけど、これはこれでおもしろかったです。

 

 理想主義でやさしいけれど自分の信条を貫く頑固な面を持つ教授と、彼によって不幸になっていく周囲の人々を描いた作品。

 種類はまったく違うけど、『春にして君を離れ』になんとなく似ているなと思いました。

 ある人間が自分が良かれと思ってやっていることが原因で、周囲が傷ついているんだけど、本人はそのことに無自覚なまま自体が悪化していってしまう。そして最後の最後で自分のそんな性格に気づかされるという展開です。

 まだこちらの方がラストに救いがあるような気がします、教授がこれから変わっていければですが。

 

 冒頭から意味深に出ていたレスターくんのいる意味があまりなかったような気がしますが・・・。この人がなんかやらかすのかと思っていたら、ぜんぜんそんなことはなかったですね。