目覚めずして死なば ★★★★☆

 連続少女誘拐事件が発生している地域に通う少年が、突然姿を消したクラスメイトの女の子を救うために奮闘するお話。子供が主人公の作品です。

 

 キャンディーの色が信号機カラーになっているのが、おもしろいアイデアだけど怖すぎ。獲物を狙ってじっと佇む殺人鬼の不気味な描写と相まってゾクゾクします。

 

 最後はハッピーエンドだけど、出来れば最初の女の子も助かってほしかったな。いい子だったし、最初にそこそこその女の子と主人公の少年がか関わっている描写もあるので悲しい。

 

さらばニューヨーク ★★★★★

 経済的に困窮して思い余った末に殺人を犯してしまった男とその妻が、警察からの逃避行を余儀なくされる話。

 

 これはとてもつらいですね。読んでいてピリピリするような緊迫感がたまりませんでした。

 犯罪を犯してしまった一瞬後から、もう普通の暮らしには戻れない。その後は一生を逃避行に費やさなくてはいけない。住み慣れた土地を離れ、こそこそと一目を忍びながら、常に緊張と不安を強いられる生活が待っている。

 

 犯罪を犯すのはもちろん悪いことですし、やってはいけないことですけど、この作品を読むと本当に悪いことしちゃいけないなと思い知る。それほどの絶望感を感じるストーリーになっています。

 ストーリー内ではなんとか警察の手をかいくぐって紙一重で逃亡に成功するのですが、未来の暗雲を払うことはけしてできないまま二人は進み続けなければいけない。あまりにも重い結末です。

 

ハミング・バード帰る ★★★★☆

 盲目の母親が住んでいる家に、長いこと寄りつかなかった息子が帰って来た。しかし息子は何やらよからぬ連中とよからぬことに手を染めているようで・・・という話。

 

 これも悲しい話でしたね。

 目の見えないお母さんが悪いことをしてる息子を止めようと決意して、それを行動にうつす勇気。

 終盤の「彼はいままた彼女の息子になった」というくだりが泣かせます。

 バッド・エンドなんだけど、ある意味で救いのあるバッド・エンドなのかな。

 

送って行くよ、キャスリーン ★★★★★

 前科者のバークと元恋人のキャスリーンがダンスホールの帰り道、森の中を歩いていると、キャスリーンが鍵を落としてしまった。暗闇の中、二人が手探りで探していると、キャスリーンが忽然と姿を消してしまう。後にキャスリーンが無惨な死体となって発見され、容疑は前科者のバークに向けられてしまうが・・・という話。

 

 この話もおもしろかったです。

 森の中でのロマンティックなキスから一転、不安と緊迫感渦巻くシーンへと転じるのが流石。何度もキャスリーンの名を呼ぶこのシーンは本当に切ないです。

 殺人の容疑者となってしまったバークが知り合いの刑事に助けを呼ぶのですが、「こんな時についていてくれる友達がいなければ、生きていたってしようがない」というふうなことを言うシーンも印象的でした。『幻の女』もそうだけど、アイリッシュは友情について触れるシーンが何だか熱いんですよね。アイリッシュ自身が私生活で友達のいないタイプだったからなのかな。

 

 そんなわけで助けにきてくれた刑事ベイリーもこれまためちゃくちゃかっこよくて。

 犯人の性格を分析して捜査に繋げていく流れもおもしろかったです。最後に協力してくれた女の子とちょっといい感じになりそうなのもいいですね。

 

 最後は真犯人も捕まってめでたしめでたし・・・という感じではなく、かつての恋人を失ってしまったバークの哀切な姿が苦みを残します。

 

 それにしても、容疑者を私刑しようと留置場を襲撃する村人たちが怖すぎる。どんだけ治安の悪い村なんだ。

 

総評 ★★★★★

 アイリッシュ短編集のうちの6です。

 表題作の「ニューヨーク・ブルース」はいまいちでしたが、他のはなかなかおもしろかったです。

 「さらばニューヨーク」「自由の女神事件」「借り」「送って行くよ、キャスリーン」が特に好みかな。

 

 アイリッシュの短編はだいたいどれも質が良いのがいいです。