★★★★☆

 『カリブ海の秘密』に登場した老富豪ラフィール氏の訃報を知ったミス・マープルのもとに、亡きラフィール氏から弁護士を通じて依頼がもたらされる。それは、内容も目的も不明な雲を掴むようなものだった。途方に暮れるミス・マープルに、とあるバス・ツアーへの招待が舞い込んできて・・・という話。

 

 この『復讐の女神』は『カリブ海の秘密』に続いて三部作になるはずだった一連の作品の二作めに当たるミステリですが、クリスティーの死去によって二作で終わってしまったんですよね。大変惜しいです。

 タイトルの「復讐の女神」つまり「ネメシス」ですが、これは『カリブ海の秘密』にてラフィール氏との間で印象的に使われた言葉ですが、本作においてもまるでコードネームのように使われているのがかっこいいですね。

 ネメシスとは、ミス・マープルの柔らかで大人しい雰囲気には似つかわしくない呼び名のように思われますが、ミス・マープルシリーズの読者ならば、彼女が知人が殺害されれば必ずその犯人を探し出し、また数々の殺人事件においても犯人を追い詰めて許さない性格であることはもうご存知ですよね。

 本作でもなかなかのネメシスっぷりを発揮しているので、そこは楽しみに読んで頂きたいと思います。

 

 この作品は、ラフィール氏の訃報から始まり、氏の依頼の手紙とともにミステリが始まるのですが、ミス・マープルが依頼の謎を通してラフィール氏を偲ぶ前半がとても好きです。友人なんだけど、そんなに深い友人でもなくて、でも普通の友人という程度の軽さでもなくて・・・という近くもなく遠くもない絶妙な二人の距離感みたいなのがいいですね。

 ラフィール氏も普段はあんななのに、手紙の文面がすごく素直なのが氏の性格が出ていてかわいいです。

 

 ミステリとしては、この作品もなかなか思わせぶりだなと思いました。最後の最後までなかなか真相に近づいていかないので。

 そのわりに真相もわりと普通・・・? 確かにテーマ通り「愛」のミステリではあったし、せつなくもあったけど。

 あとは、訳がうまくなかったのも残念です。これと『バートラム・ホテルにて』は、翻訳を変えてもう一度読み直したいくらい。

 

 さて、ミス・マープルシリーズは次の『スリーピング・マーダー』で最終巻となりました。読み終わるのが惜しいような気がしますが、ここまできたらあとはこのままノンストップに読んでいきたいと思います。