指摘 | 怪奇な僻地

怪奇な僻地

川谷圭による二次創作小説中心のブログです。

Attention!! まご→むつ

「そう言えば、狐の肉は旨いらしいな」
 その時キツネたちが「ひぇっ!?」と飛び上がるのと、陸奥守が孫六の後頭部を叩くのはほぼ同時だった。
 もっとも然程力は込められていなかったらしく、孫六はけろりとしている。
 そして、何事もなかったかのように言葉を続けた。
「という話を先日主人から教わったんだが」
「さよか」
「それと、狼の肉も臭みがなくて美味らしい」
「ほにほに」
「お前さんは食べたことはあるか?」
「ないぜよ」
「ふむ――」
『な、鳴狐ぇ!』
「……大丈夫、食べない」
「おっと、すまんすまん」
『本当でございますよね! 孫六様はわたくしたちのことを食べたりしませんよね!?』
「ああ、今の所は」
『それはどういう意味でございますか!?』
「はっはっはっはっは、あだっ」
「そん位にしとき」
 そこで脳天に手刀を落とされた孫六は、流石に口を噤み作業を再開した。
 孫六が洗濯物を畳み始めたことを確認すると、陸奥守は畳み終わった洗濯物を配る為に部屋を後にする。
 その場に残ったのは孫六と鳴狐とおつきのキツネ、そして偶々遊びに来ていたまめのすけと付き添いのこんのすけだ。
『こんのすけ、まめのすけたち、たべられちゃうまめ……?』
『大丈夫です。今のは孫六兼元の悪い冗談というものですから』
「……孫六」
「うん?」
「嬉しそうだね」
 ぽつりと告げられた一言に、孫六は思わず手を止めた。
 一方、鳴狐は手を止めることも孫六に目を向けることもない。
 しかし、先程の一言には間違いなく『確かな自信』が込められていた。
(これは参った……見抜かれたか)

 陸奥守に構われて嬉しい。

 決して叩かれて喜ぶ趣味はないが、どのような形であれ好意を持つ相手に構われれば心が浮き立つ。
 そんな青臭い気持ちを見透かされるというのは、思っていた以上に落ち着かなかった。
「……俺は、そんなに分かりやすいか?」
「うん」
「そうか……」

 ――出来るかどうかはさておき、今後は他の刀たちの前で陸奥守に話しかける際は気を付けよう。

 《終わり》
本気だからこそ揶揄われたくはないもので