たかが通勤手当、されどそこには落とし穴が・・   | 昼は会計、夜は「お会計!」

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今、私のASP業で作業的には給与システムの比率が高くなっている。それは、財務会計は簿記という共通ルールが明確なので、システムもそれに則って動いている限り、後はユーザーの仕訳の問題になる。我々が関与することは比較的少ない(ヘビーユーザーになればいろいろあるのだが)。それに比し給与は基本給をどうしようが、どんな手当を付けようが、基本的には問題が無い。もちろん時間外労働や有給休暇付与など労基法の定めがあるもの、通勤手当のように税法基準があるもの、その他健康保険法や雇用保険法などの法が適用されるものはあるが、法人サイドの自由裁量部分が大きいので、それだけ一筋縄ではいかないことが多い。金額的にはたいしたことが無い複雑な支給方法にしたものなど普通にある。したがって一つの法人の給与システムをくみ上げていくのはかなりの工数を必要とする。そうした中で今回は通勤手当について、様々な落とし穴について紹介する。

1.公共交通機関と車両通勤の違い
 都市部では多くの場合、企業の通勤手当支給の考え方は、公共交通機関の定期代を基準にして、1ヶ月分3ヶ月分、6ヶ月分支給などを規定に盛り込む。その昔は総務部で定期を購入して配ってくれたりもした(今でも都市部では定期支給をしている企業は多い)。この場合、余程のことが無い限り所得税は非課税となる。(1ヶ月の定期代が1万円まで非課税) また、当然ながら前払いとするケースがほとんどだ。通勤定期代を削減するために、3ヶ月定期や6ヶ月定期とするところが増えて、それを前払いとすることが普通に行われる。
 しかし地方に行けば圧倒的に車両通勤が多い。ここで法人側の誤解がかなりある。信じられないくらい公共交通機関と同じように考えて1ヶ月定額で前払いとしているところも多い。通勤費規定には、せっかく片道の通勤距離毎に金額を決めるという姿勢なのだが、1日単価×所定労働日数で月額を計算し、それを支給しているところもある。その決め方は自由裁量の範囲なのだが、税法基準は、車両通勤に対しては驚くほど非課税限度額は低い。以前は、車両通勤の場合も、公共交通機関を利用した場合と見なして10万円まで非課税とする方法もあったが、今はそれも廃止されている。因みに、現在は、2キロまでは0円、つまりすべて課税となる。2キロ~10キロで4100円、10キロ~15キロで6500円という具合だ。

2.法人側の対応(通勤手当規定)
 法人側の一番の落とし穴は、手当自体は自由裁量だが、税法基準を知らないか無視した規定が多くあることだ。一応、本人の通勤距離は申告させているが、税法の距離とは別に、距離に対して、ガソリン代という感覚で実勢価格など射程においてキロ何円というような規定が多い。そこで1か月の所定労働日数をかけて月額を決めている法人が実に多い。これが第2の落とし穴だ。昔は車両通勤であっても公共交通機関通勤とみなしてその定期代も認められていたりしたので、定期代と同様に月額規定が多い。結論的には、距離別の1日単価を定めて、通勤手当は  1日単価×通勤回数 で支給するというのが一番合理的である。そうなっていないことが後述するように矛盾をうむ。

3.給与システムでの対応
 給与システム上は、個々の社員ごとに通勤方法を選び、公共交通機関を選べば、支給単位(1か月3か月等)を選択できるようになり、通勤方法を車両とすると、片道の通勤距離を登録するようになっており、計算方法を月額か、1日単価×通勤回数かなど選択できる仕組みとなっている。
 システム的には、通勤方法と車両の場合の距離とで自動的に非課税通勤手当と課税通勤手当とを区分している。公共交通機関の場合は10万円を超えた部分を課税支給額、それまでお非課税通勤手当とする。車両の場合は、距離ごとに限度額があり、そこから自動的に非課税・課税を振り分ける。
そこで、問題になるのが、1か月分の定額前払をしているところでは、生休や有給休暇、特別休暇で休んでも丸々1ヶ月分の通勤手当定額が支給されることになる。法人の規定の額にもよるが、多くの所でガソリン代という考えで車両通勤の手当額を決めている場合ことも多いが、その場合はかなり課税支給分が占める。福岡県のある法人の調査では90%が課税支給をしていた。(もっとも、ここでは課税と非課税の区分をしないで明細表表示していたので、そのことは誰もわかっていなかった。しかも、法人の規定では通勤手当は非課税限度額までと書いてあり、ほとんど規定違反を何年にもわたって実行していたことになった)
 因みに、公共交通機関利用で3か月分、6か月分支給の場合は、給与システムでは、実際に支給する月とは別に、月額按分した金額を内蔵しており、標準報酬算定届の際にはその月額で按分計算した数値が入るので、実際支給月(基準月)を何月にしても均等になるように組んでいる。

4.無駄な通勤手当の弊害 税金負担の増
 通勤手当などたくさん貰えればそれがいいと思っている職員や労働組合も多い。しかし、通勤手当といっても非課税通勤手当はありがたいが、課税通勤手当は、所得税や住民税などに影響するので、非課税限度を超えて支給されても、税への影響は考慮する必要用がある。
 仮に月額で5千円も非課税限度額を超過してもらっていると年間では6万円になる。そうすると年税額表でいえば、課税所得が10以上はランクが上がる(課税所得は所得の幅で給与所得控除後の課税所得が決まる)。年税額表でいうと中位では、ほぼ4千円きざみなので先の事例のように月額で4千円から5千円の超過額でも年税額表にすると10ランク以上もあがる。そのうえで、源泉税は、課税所得が195万円までは5%だが、それを越え330万円までが10%-97,500円となる。さらにその上だと20%になる。その上で、今は復興特別税が2.1%加算される。さらに、今は地方税の方の比率を高くしたので東京で例を取ると中間層で市区民税・都民税とで10%になる。そうすると併せて、17~32%も税率で計算されることになる。ここのところをよく考えないと、ガソリン単価が上がったから通勤手当を増やせなどと要求するのは、間違いなのだと気が付く。いうべきは、非課税限度額を上げろと国に言うべきなのだ。
 もちろん、支給する企業・法人側の経費負担が無駄に増えていることは言うまでもない。

5.社会保険料の算定基礎も考慮すれば
 先の例のように課税支給分を支給するかしないかで、税金負担だけでもそこそこの金額が増えるが、実は、社会保険料にも影響する。健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料(及び労災保険料)は、税法での課税・非課税とは別に総支給額になります。社会保険の場合は月額報酬が中位で2万円きざみ(等級)で標準報酬月額が決まり(4~6月の平均)それに対して料率をかけるということになります。従ってその2万円のきざみの中でおさまって金額に変更ない場合もありますが、1等級増えることもありえます。協会けんぽは県によってちがうし健保組合もまちまちですが月収20~40万円くらいだと、仮に通勤手当で1等増加すると健康保険と厚生年金だけでほぼ2700円くらいにの自己負担増になる。金額は僅少だが雇用保険料は確実に上がる(雇用保険料は標準報酬ではなく単純に料率をかけるだけなので)。
 まして、事業主負担分は健保・厚生年金は従業員負担分と同額で、雇用保険は1.7倍、労災保険料は全額負担ですので、通勤手当を余計に増やすことの影響は、従業員と企業・法人負担分のいわば法定福利費まで合計すると実に大きいのです。

 私は、漠然と労働者の手当を下げろとか言っているのではなく、通勤手当は労基法上の規定はなくいくら出すかは自由裁量なのだが、税法準があって、それを無視して敢えて増額しても課税分が増えるだけなら、決して労働者のためにならない、ということを強調しているに過ぎないのだ。民主的職場といわれているところでは、通勤手当が普通に出されているが、一般企業や中小企業ではもともと通勤手当に理不尽な上限があって定期代にもならないとか、全員一律に定額しか出さない、などというのがいっぱいある。そういうところこそ、非課税限度額までは通勤手当を出せという要求は正当な要求だし、取り上げてくれるはずの労働組合もないというのがほとんどだ。それらに比べ、職場で一定の民主主義や権利が認められているところで、わかりやすく言い換えれば、通常の非課税枠での通勤手当が常識として支給されているようなところで、石油やガソリン代が上がったから、さらに車両通勤手当を増やすなどというのは、今の税法の下では、如何なものか、と切歯扼腕しているところです。