2010年に集英社から出された「風にそよぐ墓標 父と息子の日航機墜落事故」を、WOWOWでドラマ化されるのを機に改題し、加筆再編集されたもの。
単独機としては世界最悪の520人もの死亡者をだした日航機御巣鷹山事故は1985(昭和60)年8月12日、あれから27年たった。私の飛行機との因縁のなかで最大の要素がこの事故だった。以来、この事故の取りわけ事故原因にまつわる様々な事をしらべてきた。運輸省(当時)の事故調

事故から四半世紀が経った2010年、漸く「男達」が亡くなった父親の年齢になったときに語り始めた。門田氏は事故当時、ジャーナリストで直接取材で関係した人だが、この男達に重い口を開いて貰うことに成功した。この本には5人の男達が登場する。冒頭は、あの事故で奇跡的に生存していた4人の内、ヘリコプターでつり上げられていくテレビの生映像とともに衝撃的な印象を与えた川上慶子さん。彼女を抱きかかえていた元自衛隊員。当時、自らも小学生の子を持つ父親として川上慶子さんを抱きかけたときに「乳のにおいのようなもの感じた」と、まさに父親として慶子ちゃんを抱きしめていたことをあかす。彼以外は、すべて被害者の息子達。みんな当時、小学生た中学生、そんな小さな事ども達が突然、父親や家族の突然の死に、いかに立ち向かったというより、翻弄され、動揺し、泣いてもがいた日々が克明な記憶をたどりながらリアルな文章となって切々と心にしみてくる。共通する体験として、死体検案のシーン。当時、冷房もなかった藤岡体育館で窓も閉められ40度近い暑さの中、湿気と腐臭のなかで、おびただしい棺を父親ではないか、妹ではないかと、何としても見つけてあげて家に連れて帰らなければと探すシーンには、ほとんど涙が出っぱなしである。お店の片隅や電車の中で読んでるとき、本当に困った。途中からは他人がいるところで読めなくなり、私としては珍しく文庫本一冊に1週間かかった。
そうした悲しみの中で、「第4章父が残した機内写真」は私にとって大変重みがあった。先に述べた政府の事故調の最終報告でいうような圧力隔壁の一部破損で垂直尾翼を引き飛ばすほどの「急減圧」が本当に起きたのかという根本的疑問に対して、決定的とも言える証拠として、乗客の一人小川哲さんが移した機内写真が必ず取り上げられていた。最後部から3列目に乗っていた小川さんが酸素マスクも降りている機内の様子を取っていたのだ。スチュワーデス(当時)が普通にたって冷静に乗客達に説明している、後ろ姿の乗客達もパニックになっている様子もうかがえない。誰もが、この写真を見てやはり事故調は何かを隠して、別のストーリーを書こうとしていると感じた。通常、急減圧が起きたら他の事故でも乗員や乗客が機外へ吸い出されるようになったり、とても冷静に立っていられるわけがないという。実際の日航機内は極めて冷静だったといわれている。生存者の落合由美子さんや川上慶子ちゃんのインタビューからもそれらは証明されている。にも関わらず、強引に事故調は採取答申までこの圧力隔壁説もっていった。さらには、、その圧力隔壁説で、群馬県警が日航12人、運輸省4人、ボーイング社(被疑者不詳=米国側がボーイング社の事情聴取拒否したため)を書類送検したが、1989年前橋地検が不起訴処分として、520人もの生命が奪われた事故は誰一人刑事責任を問われることはなかった。
問題なので、その「残した写真」が、その機内の様子だけではなかったのだ。警察が小川哲さんのカメラがみつかりフィルムを現像したら写真がしっかり写っていたこと、そしてそれを唯一(両親、妹まで一緒に搭乗していた)残された16歳の少年に、この写真を事故原因解明のために使わせて欲しいと依頼に来た時のことを門田氏はさらりとこのように書いている。「ディズニーランドで撮った写真だけでなく、ジャンボ機の前で撮ったもの、あるいは、富士山の写真など次々と並べられていく。窓の外に、黒い光の点が映っている謎の写真(下線は私)もあった。極めつきは、明らかに機内を取ったもので、しかも酸素マスクが下りている写真だった。~」
小川哲さんは、窓外におきた異変に気がついたシャッターを押している。紹介した文章は、門田氏が小川さんの息子さんにインタビューした時の様子なのだが、門田氏も小川氏も何も知らないはずはない。実は、この写真も後に公開されるが大変話題というか議論沸騰した写真である。後にデジタル解析をしたらオレンジっぽい色で先っぽが円錐形また円筒状で、その方向は、ジャンボ機の進行する方向をさしている、とされたものだ。これこそ、圧力隔壁の一部破損説をさらに具体的に反論し、何らかの飛翔物によって日航機は破壊されたとする有力な証拠となったものだ。(このことは、主要メディアもなぜか、ほとんど重要な扱いをしていないことも大変不思議な話だ)。しかし、この本は、事故原因を探ったりするものではなく、あの事故に関わった男達の四半世の時間をレクイエムとして書かれたものなので、この辺にしておきます。
さて、ドラマは、前編後編の二部構成で作成し、脚本はヒットメーカーの岡田恵和(略字)、監督が山崎豊子さんの日航機事故を扱った「沈まぬ太陽」を撮った若松節郎。キャストは、伊勢谷友介、松坂桃李、玉山鉄二、萩原聖人、貫地谷しほり、余貴美子、緒形直人、広末涼子、石田ゆり子らというから、スタッフ・キャストとも地上波では見られないくらい豪華。10月初旬に放映されたが11月26,27日にWOWOWプライムで再放送されるとか。残念ながら私はWOWOWは見られないだけど。