最近の労務問題の特徴 労基署の臨検 未払残業代の支払命令で経営危機も | 昼は会計、夜は「お会計!」

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 このブログテーマの第1回目として、最近の労務問題のなかで特徴となっている労基署による臨検(立ち入り検査)について書いておきます。
労基署(労働基準監督署)による監督制度とは、労働法令違反行為又は労働法令違反状態がそこで働く労働者に重大且つ深刻な被害を及ぼす前に、それを是正し、労働法令を遵守させることを目的に労働法令で定められた制度です。従来型は、建設、運送業や過去に重大な労災事故をおこした事業所に対して臨検(立ち入り調査)が行われ来て、現在も引き続き重要課題です。それ以外の業種など最近特に増えたのが、残業代不払いの有無、名ばかり管理職の存在調査などで臨検が行われいます。
 臨検は後述するように労基法でも司法警察官の職務が与えられています。そこをまず理解しておきましょう。事前に電話やFAXで予告したり、出頭要求という場合もありますが、基本的には抜き打ち検査が主流です。そして、原則的には検査を拒否することはできません。解説書によっては、責任者が不在であるなど丁寧に説明して変更して貰うこともできる、と記載したものもありますが、知り得る限り実際は、慇懃だが有無を言わさぬ調査です。
 
<臨検の種類>
 1)定期監督 労働局及び労働基準監督署の年度計画(労働行政方針)に基づき実施される検査。主に建設業、運送業、危険有害業務を行なう製造業が対象、2)再監督 定期監督で是正勧告などを受けた事業所を対象に、その後の是正措置実施状況を確認する為に行なわれる検査、3)司法警察監督 是正勧告を受けた事業主がその是正勧告に従わない場合に強権を発動して行なわれる検査、4)申告監督 労働者の申告に基づき行なわれる検査 現場を見なければ労働法令違反状態の確認が出来ない場合を除き、事業主に「労働基準監督署への出頭命令」をすることによって行なわれるケースが多いようです。

<臨検後の対応>
 法令違反があった時には、違反事項と是正期日を定めた是正勧告書が交付されます。法令違反では無いが改善が必要な場合は、指導表が交付されます。いずれにしても、是正(改善)報告書が求められます。

<労働相談員の調査>
 上記、臨検ではないが最近見受けられるケースは、労基署の主に元職員である労働相談員がやってくることがある。相談員は、通常は多くは労働者からの(一部は事業者も)持ち込まれる相談に応じるという労基署サービスの一つです。この相談員が巡回訪問と称して尋ねるケースがある。その際も、ほとんど臨検と同様な対応がなされ、後に正式な臨検となる場合や、その場で指導票のようなものが発行されることもあり、その場合は改善報告書も求められる。

<問題になる代表的事例>
①残業代不払い
 時間外労働に関する経営側の無知で、構造的な時間外労働が発生していたにもかかわらず、認めてなかった。サービス残業が常態化していたなど。証明できるものがあれば2年くらいは普通に遡及した未払残業代支払命令となります。職員アンケートで実際はどれくらい残業していましたか、という質問の事項に、記載された全額を支払い命令とされている独立行政法人の病院もあった。個人ベースでは年末一時金に相当する金額を受け取ったという身近な事例もある。医療介護とは違うが、ある劇団も役者と雇用関係にしていたが、時間管理がずさんで、臨検の結果総額9千万円近い未払残業代の支払い命令が出たケースもある。
②就業規則・三六協定に関する事項
 就業規則は常時10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則を作成し、労働者の代表の意見を聞いて労基署に届け出なければならないが、常時使用するという言葉を常勤労働者10人以上と解釈していたが、実際は、パートであれ常時使用する労働者が10人以上が要件となる。
 残業や休日労働をさせるには、労基法第36条にさ定める協定(ここからさぶろく協定といわれる)で、時間外労働をさせる具体的事由、1日・週・月などの限度時間などについて協定しておかなければなりません。就業規則の届け出義務が無い常用労働者10人未満であっても三六協定は必要です。また協定の有効期間は1年以内なので、毎年更新し届け出が必要となります。
③名ばかり管理職
 一時期、新聞等を賑わせ得た名ばかり管理職。全国チェーン系の店長などが有名だが、実際には医療や介護事業などで臨検で次々と勧告されている。そもそも、管理職に関わる理解不足もはなはだ激しく、残業代を払いたくないために「管理職体系」というのを職種別につくっている法人もあった。そもそも管理者という考えがおかしい医療法人や社福は残念ながら普通にあります。ひどいのは、片方で労働組合員でありながら管理会メンバーというのもある。そもそも、技術系・事務系の課長・病棟看護師師長で管理職で残業代がない、って普通に法令違反です。
 この事項での裁判はほとんど労働者側の勝訴になっていること、労働者からの申告臨検においても、ほとんど是正勧告となる。是正無い勧告の内容もタイムカードなどから計算するので膨大なものになります。

 そもそも、企業側が「管理者」の範囲をどのようにするかはまったく企業側の自由だが、そのことと労基法上の管理・監督者は別物という意識が低い。労基法では、管理監督者とは、「事業の種類に関わらず、監督もしくは管理の地位にあるもの」としているだけで、実際は裁判の判例によりほぼ常識的な理解をするしかない。大手企業が次々と内部告発などマクドナルド、洋服の青木、青山、セブンイレブン、メガネスーパーなどが、など裁判や申告臨検による是正勧告などで変えてきている。病院関係では、滋賀県立成人病センターの管理職の医師が権限が無いのに残業代が払われていない、名ばかり管理職であると是正勧告が出された(H20年・大津労基署)。
 *但し、医師労働をどうみるかについては、様々な議論があり、医療法上は監督者で有り、権限もあるが、労基法でいうような権限はほとんど無いので、一部の権限・限局された権限ともいわれる。その辺が医療関係者の中では難しい問題であるのと、厚生行政の側面からは、日本の医師不足の現状、それを根本的に規定する診療報酬が十分でないこととの関係であることは明らかだ。従って、厚労省はこの医師労働問題は「諸刃の剣」でもある。

 管理監督者というのは、簡単に言うと、「いつ休もうが、何時に来て何時に帰ろうが、一日何時間働くか、本人の自由であり、賃金は働いた時間にかかわらず定額であること」だ。そんな人には、残業代を払う対象では無いですよということです。

④休日・休暇について 
 4週4休という法定休日と他の休日との区分がつかないまま労務管理をしているので、多くは指導対象となるようです。
 最近の一つの傾向では、有給休暇の規定や実態が間違っているケースとパート労働者の有給休暇の比例付与がされていないケース。先の例では、常勤で無くても週32時間働いていたら常勤と同じ有給休暇を与えなければならない事が理解されていないこと、後のパート問題はシンプルに知らないだけが多い。有期契約の臨時だと弁解しても、実態が契約満了と同時に自動更新され続けている場合は、短期労働者とはみなされない。