初めて告白をします。
私、実は一度、実際に虐待を行ってしまったことがあります。
それはオムツ交換をしている最中のことでした。相手は、重度の認知症によりほとんどコミュニケーションがとれない、寝たきりの利用者さん。攻撃性があり、何かにつけて介助の時に手でバンバンと殴ってきたり、口腔ケアの時に指を噛んできたりする方でした。
その方の暴力はいつものことであり、そこまで力も強くないので、多少殴られても普段ならなにも思いません。ただその時は、忙しさに少しイライラしていたのがいけませんでした。
バンバンと私を殴るその方の手が、たまたま私の目に当たったのです。眼鏡が吹っ飛び、危うく眼球に手が入りそうになり、私は思わずその方の手を払いのけてしまいました。
『ちょっと!』
その、私が咄嗟に出した手と、その方が再度私を殴ろうとした手が、きれいに空中で当たりました。まるでハイタッチのような形です。パチンと、乾いた音が居室内に響きました。
……その乾いた音を聞いて、私はハッとしました。
『私、今、なにした?』
もし、私の手がその方の手とうまく当たらなかったら。もし、その方の顔にでも当たっていたら?
これはれっきとした、“暴力行為”とされてしまうかもしれません。たまたま手が当たったというだけではないのです。悪気がなかったとは言え、私がイライラしていたのは事実なのですから。
私はひとり、青ざめました。
私は、自分で言うのもなんですが、真面目な介護スタッフです。真摯に介護を頑張っていますし、利用者さんのことをいつも真剣に考えています。仕事を抜きに考えても、おそらく比較的優しい性格です(本当に自分で言うなという話ですが)。
でも、そんな私でも、介護の虐待の報道が出ると、いつも思ってしまうのですよ。
『明日は我が身だ』 と。
おそらく介護を実際に経験した方のほとんどが、この感情を理解されるのではないかと思います。それだけ、“紙一重”だということです。
考えてみたら当たり前なのかもしれません。殴られ、引っ掻かれ、唾をかけられ、ひどい言葉で罵られても、全くダメージを受けない人なんて、きっとこの世にいませんから。
手は2本しかないのに10本の手を求められたら、イラつきもしますから。
私たちは、神様仏様の類ではないのです。
だから、虐待の報道に対して、
「こんなヤツ介護をする資格なんてない」
「人として最低」
その様なコメントを見ると、まるで自分が言われたかのようにグサリと心をえぐられます。
『私もいつか、本当に虐待をしてしまうのではないか?』
これからも、心のどこかでそんな恐怖を抱えながら、介護をしていくのだと思います。
私はあのハイタッチは、きっと生涯忘れられません。
