前回、蛍原さん弄便(ろうべん)癖のお話をさせて頂きました。認知症というものをご存じない方には、かなりショックが大きいであろう症状のお話。

 いや、いくら事前知識があろうと、実際に身近な人物がそれをやってしまうようになった時のショックは、計り知れません。

 

 前回はこちら↓↓↓

 

 

 そこそこ進んだアルツハイマー兼、統合失調症の蛍原さん(82歳・女性)。自分で満足にできることはだいぶ減ってきてしまっているのにもかかわらず、“動ける認知症”であるため、常にフットワークも軽く、様々な事件を起こしてくださいます。

 

 

 この方、実は“異食”もやってしまうのですよ。異食とは、食べ物ではない物を食べてしまうこと。言うまでもなく、場合によっては命にも関わる非常に危険な行為です。

 その物体が一体何なのか?それが認知症によって分からなくなってしまうから起きてしまう異食。私が実際にお会いした方でその症状があるのは2人だけですので、それはもしかしたらあまり多くはないケースなのかもしれません。

 しかし、“動ける認知症”×異食 の組み合わせは、本当に難しいと蛍原さんで思い知りました。

 

 

 蛍原さん、認知症に罹る以前は、とても多趣味な方だったようです。だから居室にはその趣味の道具、例えば裁縫の道具や絵を描く道具などがたくさんあります。それがまず不運でした。

 

 大人しく机に向かってなにかをやってらっしゃると思えば、一心不乱に色鉛筆を舐めていたり(色によって味が違うらしい)。飴を舐めているのかと思えばボタンだったり。なにか噛んでいると思えばティッシュだったり。

 

 例えば寝たきりの方の異食なら、手の届く範囲の物を気遣っておけば問題は解決するのですが、蛍原さんは手も足も元気であるため、そういうわけにもいきません。

 口に入れてしまいそうな物をきれいにタンスにしまっておいても、簡単にご自分で取り出してしまうのですから。

 

 

 ただ、不幸中の幸いだったのは、蛍原さんには残歯がほとんどなく、嚥下機能も低下しているということでした。それにより、固い物や大きな物を噛み切ることができず、また飲み込むこともできなかったようです。

 そしてまだ味覚はあるようで、苦い物はすぐに吐き出すことができた様子。それにより、重大な事故には至りませんでした。

 

 

 でも、実際、蛍原さんの胃には、あってはいけないものがあるのではないか?24時間の見守りができない以上、その疑念は決して拭えません。

 

 

 

 

 ある日のトイレ。

 

 私が様子を見に居室を訪ねると、蛍原さんは便座に座り、手にはビリビリに破ったリハパンを持って、そこに付いた茶色のブツを触っていました。そしておもむろに、ブツが付いた手を口に持っていこうとした蛍原さん。

 

『ダメェェェ!!!』

 

 私、介護史上、この時ほど大きな声を上げたことはないかもしれません。