私、ずっと思っているんですよ。

 

 介護って、要介護者ご本人を、置き去りにし過ぎじゃないかって。特に認知症介護。

 

 

「どうせ、認知症だから聞いても理解できるわけがない。」

「どうせ、話したってすぐに忘れるから。」

 

 

 ……それは、もしかしたら事実かもしれません。でも、認知症でも、時によって驚く程にきちんと理解されることもある。

 

「どうせ」

 

と、勝手に決めつけていないでしょうか?

 

 

 

 

 自分が要介護者の立場だったら、と考えます。

 何もかも、自分の意見も聞かれることなく、大事なことが決められていくのは腹が立つでしょう。なにも事前に知らされることなく、自分の未来の行動を指図されるのは不愉快でしょう。

 

 

 

 まともな介護スタッフなら、どんなに重度な認知症の方でも、たとえ植物状態の方でも、介助の前に必ず声掛けをします。

 

『○○さん、オムツ替えますね。』

『○○さん、お風呂行きませんか?』

『○○さん、ほら、今日はいい天気ですよ!』

 

 テレビドラマなんかでよくありますが、たとえ植物状態でも、声掛けは伝わっているって言うじゃないですか。それと一緒。

 

 ……いや、認知症の方の場合、意識はしっかりとあるんですから、なにも言わず、なにも聞かない方がおかしいんです。

 

 施設入居をするかしないか、という重要なことから、ご飯を食べるか食べないか、という軽微なことまで。それと、延命措置をするかしないか、というような重いことも。

 

 

 

 

 以前聞いた、とある方のお話です。

 

 介護施設に入居するかどうか決めるにあたって、主治医の先生が、ご本人のご意向を聞いたと。

 するとご家族さんは、「認知症なのに本人の意向を聞くなんて、バカじゃないのか⁉ そんな医者はバカすぎて信用ならん!」と、とても憤っていらっしゃいました。

 そしてその話を聞いた周りの方々も、口々に、「その医者は認知症をわかってない。アホな医者もいるもんだ。」とご家族さんに同調されました。

 

 

 ……そんなに、このお医者さんの言っていることは、おかしいですか? 私は、これっぽっちも、おかしくないと思います。

 

 

 

 特に施設入居の判断はとても難しく、とてもデリケートな問題で、本人に聞いてしまって拒絶されてしまったら最後、余計に入居させ辛くなる、ということはあると思います。そんな話をして激昂されたらそれこそ大変!という思いもわかります。

 

 でも、施設入居は、人生の最期をどう過ごすかと言う、とてもとても大事なこと。ご本人のご意向を聞く、と言うのは、当たり前すぎるほど当たり前だと思いませんか?

 

 

 きっと、実際に介護で苦労をされているご家族さんには、『そんなのは所詮きれいごと。当事者じゃないから言えるのよ。』と、鼻で笑われるでしょう。

 

 でもじゃあ、日々、植物状態の方に声を掛け続けている方を、鼻で笑えますか?我々介護スタッフが、常に声掛けをしていることを、全くの無意味だと言えますか?

 “認知症”という障害を持ってしまった方の権利を踏みにじる行為は、果たして当たり前なのでしょうか。

 

 施設入居云々の難しい話は少し置いておいたとしても、日常的に、もっとちゃんとご本人の気持ちを聞いた方が良いと思うのです。ご本人に、知らせた方が良いと思うのです。

 認知症だろうがなんだろうが、自身のことは当然、知る権利がありますし、周囲には知らせる義務があるのですから。

 

 

 

 

 これは想像ですが、本人置き去り介護が常態化している方々は、『これが当たり前。これで良い。』と思う反面、どこかモヤモヤとしたものを抱えてしまっているのではないでしょうか。

 

 モヤモヤの正体は、きっと 罪悪感 です。

本人置き去り介護を続けた果ては、きっと罪悪感に苛まれたものになると思います。

 

 

 聞いてみたらいいんですよ。ダメもとで話してみたらいいんです。聞いた上で、『やっぱりまともな言い分じゃないな。』と思ったら、聞き流せば良し。結果聞き流したとしても、聞く義務は果たしています

 それが元でケンカになってもいいじゃないですか。たとえケンカになっても、多分次の日にはしっかり忘れてくれます。それが認知症の、ある種の特権です。

 そしてご本人が忘れようが、話したという事実に変わりはなし。“全く相談も報告もしなかった”という罪悪感からは、逃れられるでしょう。

 

 

 

 

 

 あぁ、読んでくださっている、今実際に介護に苦労をされている方から、轟々と非難の声が聞こえてくるような気がします。

 でもあえて、僭越ながら、要介護者の方のお気持ちを代弁して、言わせて頂きます。

 

 

「私のことなんです。どうか私を、置き去りにしないでください。」