年をとると、いろんな機能が落ちる。

病気もするし、体力も衰える。

それは誰にでも起こる「自然現象」だ。


——しかし、それをどうしても受け入れられない人がいる。


「なんでこの年にもなって、こんなになっちゃうんだろう」

息を吐くように何度も言う80代の女性利用者だ。

そう言うたびに、私はつい訂正してしまう。


“この年になったから”なんです。


でもその言葉も、認知症の短期記憶障害で、次の瞬間にはきれいに忘れられる。

まるで、老いそのものを忘れようとしているみたいだ。

若い頃は体操選手だったらしい。


「自分はまだ大丈夫」という思い込みの強さ。

それは時に、生きる原動力になり、時に、現実を拒む鎧になる。


老いを受け入れられず、認識と身体のギャップに落胆する。

その繰り返しが、不穏の火種をつくるのだとわかっていても——

私たち介護士にできることは、結局、何もない。


ただそっと、訂正し続けるだけ。