あれは老健で働いていた頃のこと。
1人の女性利用者が入所してきた。
立つのもやっとの状態で、それでも必死にトイレを使おうとしていた。
ただ、ズボンやリハパンを下ろす数秒すら立っていられない。
こちらが必死に支えながら、なんとか介助する日々だった。
認知症も進み、会話はほぼ成立しない。
そんな彼女が老健に入るきっかけは――入所直前に自ら運転して起こした交通事故。
幸い物損事故で怪我人はいなかったが、
その一件で「もう独居は無理だ」と家族がやっと気付いた。
こんな状態で運転してたってマジか?!?!
耳を疑った。
・・・オイオイ。怖くね?
認知症というフィルターを通して見ると理解しやすいが、
実際にはそのフィルターがなくても、年齢を重ねれば
「おかしいぞ?」と疑うポイントは出てくる。
一番怖いのは――常識的な判断が出来なくなることだ。
・早朝4時にマンションの住人を起こそうとピンポンダッシュ
・賞味期限切れのお弁当を平気で口にする
・雨が降っているのに傘もささず外に出る
・自分の状態を把握できないまま車を運転する
これらは「ちょっとした変化」なんかじゃない。
立派な赤信号。
疑えば、気付ける。
家族や周りの人は、そのサインをどうか見逃さないでほしい。
認知症は進行性――止まらない。
誰かのサポートが必ず必要になる。
大きな事故が起きる前に。
気付きの種を、どうかまいてほしい。
