「利用者の尊厳を第一に」
それがうちの施設の旗印だ。
そこに“トルネード”がやってきた。
70代の女性。家族との関係は冷え切っていたが、入所当初はどんな時もとびきりの笑顔だった。
「こんなに明るい人、家族と一体何があったんだろう?」と職員同士で首をかしげるほど。
だが3ヶ月も経たないうちに、様子が一変する。
般若面のような表情が通常モード。
突然の感情失禁。
急に始まる徘徊(シルバーカー使用)。
唐突もなく始まる盗み癖。
予兆もなく飛び出す暴言暴力。
そして強烈な弄便。
今思えば、最初から“明るすぎた”のかもしれない。躁鬱っぽい波も認知症の表れだったのだろう。
そんな彼女の口癖は「黒飴ちょうだい」。
うちの施設は“NOと言わない介護”が基本。
欲しいと言われるたび、素直に手渡していた。
異様な行動が始まってからそれはどんどんエスカレート。
ある日、ふと気づく。
――めっちゃ飴食ってんじゃん。
部屋には無数の黒飴の包み紙が散乱。
数日間、手渡す時に数を数えてみたら、一日で50個以上も渡していた日もあった。
しかも、いつ・どこで食べているのか分からない。
寝ながら食べて窒息でもしたら、一瞬で命取りだ。
「尊厳ファースト」――耳障りはいい。
だがそれ“だけ”ではリスクを放置してるだけ。
私たちは“リスクの存在”を忘れてはいけない。
その上で「どうしたいのか」を本人に確認していくのが筋じゃないのか。
現場でそう伝えても、職員たちはポカンと口を開けるだけ。
「欲しいって言ったから渡しただけ」――それで済むと思っている。
飴欲しいって言うからあげました、窒息しました、死にました。ーーあぁそうですか。
て、なるか?おい。
尊厳を盾にして思考停止していたら、守れるのは“人の命”じゃなく“美化された理念”だけだ。
お願いだから少しは自分の頭で考えてくれ。

