外債投資拡大報道の真のメッセージ
10月12日付の日本経済新聞は、生命保険業界最大手の日本生命が、為替リスクをとった形の外国債券への投資を、今年度は当初の予定より1千億円多い3千億円とすると報道しています。報道によると、日本生命の為替リスクを取る形の外国債券投資残高は、今年度当初は約3兆円とありますので、日本生命は、為替リスクを取る形の外国債券投資を今年度だけで1割も増やすことになります。
為替リスクをとる形の外国債券投資とは、為替レートを予め予約し、円建ての受取額を確定する手法である為替ヘッジをしないまま外国債券に投資をすることを意味します。為替ヘッジは、円建ての受取額が確定するというメリットがあるものの、為替予約のための手数料を支払う必要があるため、為替ヘッジをしない投資に比べ投資収益が低くなってしまうデメリットがあります。報道では、日本生命が為替リスクをとる形の外国債券投資を増やしたのは、円高で為替損が発生するリスクがあるものの、為替ヘッジをしないことで外国債券への投資収益の拡大を狙ったため、としています。
為替ヘッジをすれば為替リスクはないものの投資収益は低くなり、為替ヘッジをしなければ為替リスクはあるものの投資収益は高くなる、というロジックは当然のことです。よって今回の報道を表面的に読めば、報道は単に当然のことを伝えたにすぎない、といえます。しかし、今回の報道は、単に当然のことを伝えたと考えないほうがよさそうです。むしろ、今回の報道は、「日本生命は海外金利が現時点でピークに近いという見通しを持っている」と報道した、と解釈したほうが良いように思えます。
日本の投資家は、海外金利が今後も上昇を続けると見込むのであれば、外国債券投資を今すぐに拡大する必要はなく、金利が上昇した後に投資をしたほうが合理的です。一方、海外金利の上昇に歯止めがかかると見込むのであれば、海外金利は横ばいで推移するか、もしくは低下するかのどちらかですから、海外金利が高止まりしている間に、言い換えれば海外金利が低下する前に外国債券に投資をしたほうが、より高い投資収益が得られると言えます。
米国の政策金利であるフェデラル・ファンドレート(FFレート)は、2004年6月から今年の6月までの2年間に1.0%から5.25%まで引き上げられました。しかし、今年の7月から、住宅をはじめとする米国経済指標が弱含んだこともあり、その後FFレートは据え置かれたままとなっています。
米国の政策金利を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)メンバーの多くは、米国のインフレ懸念は依然として高い、と発言していることもあり、FFレートがさらに引き上げられる可能性は否定できません。しかし、米国金利の先行きを非常に注目している為替、株式、債券の各市場では、米国の利上げは打ち止めだろうとの観測を強めています。たとえば、米国金利と合わせるように上昇してきたドルは、ドル円レートで120円近くまで上昇しているものの、ここから120円を超えてさらに上昇するほどの勢いを示していません。また米国株式市場では、米国利上げ打ち止め期待から株価が史上最高値を更新するほどの上昇を示しています。
利上げを続けているユーロ圏でも金利先高観は後退しています。ユーロの政策金利を決めるECB理事は、ユーロ圏でのインフレ懸念を警戒する発言を続けていますが、米国ほど景気の足腰が強い状況でもなく、ユーロ高の進展や原油価格の下落もあって、最近のユーロ圏の物価指標は落ち着いた動きを示しています。
日本生命が、今年度半ばを過ぎた現時点で、為替リスクをとる形の外国債券投資を拡大する方針を示したのは、おそらく、こうした市場の観測を意識したためと思われます。言い換えれば、日本生命は、「現時点での海外金利はピークに近い」という見通しを強め、その見通しに合わせて投資行動を変更したともいえます。
なお、為替変動リスクは、過去の経験では、短期的には高いものの、長期的にはさほど高くないことが分かっています。日本生命は、昨年度に自己資本を積み上げ、リスクの許容度を高めていますので、
外国債券投資を増やすのであれば、為替ヘッジによって投資収益を低下させるよりも、為替リスクをとる形で外国債券に投資をするのは、ある程度合理的なものと思われます。
村田雅志(むらた・まさし)