●希望の落し物 | サンロフトの本とテレビの部屋

●希望の落し物

●希望の落し物
小4の休み時間は、親友たちとプール裏の築山で遊ぶことが多かった。築山の中央辺りから国道4号線のバイパスが見えるので、車を眺めながら雑談をしていた。

 

ある日の20分休みの終わりだと思う。チャイムが鳴って旧校舎西端の玄関へ向かう途中、プールの横あたりで、名札を拾った。ケースは無く、中身の布一枚だけが落ちていたのだ。知らない女子の名前だった。元の場所へ捨ててもよかったが、私はポケットに入れた。「5年2組」と書かれていたからだ。「教授」のクラスである。もしかしたら、彼女のものかもしれなかった。

 

小学校6年間で、名札を拾ったのはその一度だけ。学校が分割されたとはいえ、30クラス以上ある。名も知らぬ憧れの人のクラスとは、運命的な偶然と思えた。ひょっとすると前年度の5年2組かもしれないが……。今思えば、落し物として5年2組へ届けるという手もあったが、当時の私にそんな大胆さは無いし、そういう発想も無かった。

 

謎の名札はお守りのように保存していたが、ある日、その効力を失う出来事が起こった。以前書いたが、すれ違いざまに「教授」の名札を見ようとした一件である。1文字も読めなかったものの、あの名札の主が別人なのは明らかだった。「教授」の名は漢字4文字、名札は漢字5文字だったのである。その後名札をどうしたか覚えていない。書かれていた名前も覚えていない。