【書評】メカニックデザイナーの仕事論 ヤッターマン、ガンダムを描いた職人 | サンロフトの本とテレビの部屋

【書評】メカニックデザイナーの仕事論 ヤッターマン、ガンダムを描いた職人

【書評】メカニックデザイナーの仕事論 ヤッターマン、ガンダムを描いた職人


ガンダムファン、アニメのメカマニアなら知らぬ者はいない大河原邦男氏の自伝である。少年期、メカニックデザイナーになったきっかけ、デビュー作、ガンダム、ダグラム、ボトムズ、さらに近年の作品まで自身の関わった作品について幅広く語られている。


よく知っているはずのガンダムに限っても、初出と思われるエピソードがいくつもあるようだ。ガンダムの初稿デザインに口があったというのは知る人ぞ知る話だが、図版を見ると構成こそガンダムだがフォルムが超合金玩具そのもの。安彦良和氏が人間的なフォルムに描き換えなければ、作品の世界観そのものが成立しなかったと思われる。


その他のエピソードは読んでのお楽しみとしてこれ以上書かないが、これまでの偉大すぎたイメージが崩れ、大河原邦男氏が小さく見えた。というと失礼だが、等身大の人間だったのだなと思えた。


プロとしてのデザイン論も興味深い。(BDを売って成立する現代は別として)アニメは、玩具ありき。玩具として変形合体可能で、アニメーターが描きやすく、しかもカッコよく見えることが必要。そして、主役メカをデザインする方法論。主役を張れそうなメカが出来てこず、氏に主役メカのみの仕事が来たという話もあった。この苦悩はプロしか経験し得ないが、メカもののアニメを観てきた者としてはよく分かる。


“アニメのメカニックデザイナーというのは、「絵が好きなメカニックデザイナー」と、「メカが好きなメカニックデザイナー」の2つに分かれます。”という件が、最初の方に出てくる。大河原氏は後者のタイプであり、デザイナーに要求されることでもある。アニメーターの中にはものすごく達者な人がいるが、それでもデザインは出来ない人もいる。という話も出てくる。


私は今からメカニックデザイナーになろうという年齢じゃないので、必要な資質がどうであれ福音にはならない。が、経験が豊富なぶん、書かれている指摘にはいちいち納得がいく。3つのアドバイスの中で最も特徴的なのが「頭の中で立体を描く力」。あと2つは物の形を捉える力(デッサン力)、何にでも興味持つこと、という当たり前のことだ。


私が高校生の頃(1985年頃)、大河原氏が「メカを描く時には、見えていない裏側の形を想像すること」と言っていると聞いた。言い得て妙だと思った。当たり前すぎて、わざわざ言うこともないことだが、当時、友人は感心していた。「頭の中で立体を描く力」とは、このことだろう。


先日、ある番組で天才児の特集があり、絵のうまい小学生が登場。飛行機の写真を見て、三面図を描く様子等が放送された。空間認知力が高いということらしい。う~む。そんなの、私も小学生の頃から普通にやっていたが……。逆は、小学生には難しい。三面図から立体図を描くにはデッサン力と遠近法の知識が必要だからだ。ともあれ、これも「頭の中で立体を描く力」。デザイナー志望の方はやってみるといい。


ただ、これはスキルではなく、感性の問題。絵を描くことが好きなタイプなら、この行為は苦痛かもしれない。私のようにメカが好きなタイプなら、デザインや変形ギミックを見たり、想像したり、考えたりするのが楽しいはず。私は絵を描くのがあまり好きではなく、複雑なデザインを考えると絵にする段階でイヤになってしまう。こういうタイプでもメカニックデザイナーとしては大成するかもしれない。この本、30年前に読みたかったな。


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