【パソコン歴史浪漫】83 一太郎、その紆余曲折 | サンロフトの本とテレビの部屋

【パソコン歴史浪漫】83 一太郎、その紆余曲折

【パソコン歴史浪漫】83 一太郎、その紆余曲折


キューハチ(PC-9801)時代を象徴するのが、ワープロソフト『一太郎』である。現在のWindowsとWord(Microsoft Office)以上に密接な関係だった。オフィスのPC-9801は少なからず一太郎専用機として稼動していた。


すべては、PC-100(1983年10月発売)標準添付の『JS-WORD』から始まった。初めてマウス操作を前提としたワープロソフトである。
1984年12月、IBM PC JX用の『jX-WORD』が発売され、それが1985年2月にPC-9801へ移植され『jX-WORD太郎』(5万8000円)と命名された。IBM PC JXはあまり売れず短命に終わったため、いきなりPC-9801版が登場したイメージが強い。
これが、当時PC-9801用最強ワープロソフトとして君臨していた『松』(12万8000円)を脅かした。値段の安さと部分的に『松』を上回る高機能さに話題沸騰。
『松』がマシン語で書かれ(妙な言い方だが)BASIC上で動作していたのに対し、『jX-WORD太郎』はMS-DOS上で動作した。これが決定的なアドバンテージだったというのが、今日的な見方だ。しかし、当時、まだユーザーにMS-DOS重視の空気は無かった。PC-100やIBM PC JXはMS-DOS(PC-DOS)マシンだったので、その上で動くのは自明であった。初めからPC-9801用として開発されていたら、『松』と同様、速度やメモリで有利な選択がなされたかもしれない。


1985年8月、後継製品として『一太郎』発売。わずか半年後のバージョンアップに驚き、不満とされた欠点がほぼ解消されたことに感動した。学習機能も以前は無かった。さらに、かな漢字変換システムATOK4が日本語入力FEP(今でいうIME)となり、MS-DOS上の他のソフトからも使えるようになった。これが、MS-DOS普及の大きなきっかけとなった。


『JS-WORD』でマウス操作という先進性をもってスタートしたのに、『jX-WORD』ではキーボード操作を突き詰めた独自のUIを確立した。これは、IBM PC JXがマウス非対応だったからかもしれない。PC-9801シリーズ用マウスはPC-100と同時に登場したので、『jX-WORD太郎』まで1年以上の猶予があった。現に、『JS-WORD』はPC-9801に移植され『JS-WORD2』として発売された。
開発したジャストシステムが販売するアスキーと決裂したため『JS-WORD』の流れは止まり、ジャストシステム発売の『jX-WORD太郎』、『一太郎』へと主流が移ったのだ。もし、両社の関係が良好であったなら、日本のワープロソフトは違った進化を辿ったかもしれない。


1990年代に入ると、DOS/VブームとVGA対応のPC-9821発売で、MS-WINDOWS 3.1Jが普及し始めた。しかし、3.1Jは同時期のMacintosh 漢字Talk6に比べるとお粗末なDTP環境。ジャストシステムは独自のウィンドウシステム「ジャストウィンドウ」へ進んでいく。
Windows版『一太郎』の発売が遅れたのは『松』の失敗を連想させたが、あの時期、わざわざ低機能化させてまでWindows版を投入することが正しいのかどうか……。
結局、Windows 3.1J/NT版『一太郎Ver.6』が3.1時代末期の1995年1月という中途半端な時期に発売されることとなった。同年7月にMacintosh版も発売されるが、Macintosh独自のワープロ文化の中では異質であった。私など、PC-9801やPC-8801で簡単にできることがMacintoshでは困難(縦組み、ぶら下がり禁則等)なので参っていたが、その手の乗換え組みには有効だったろう。それじゃ、わざわざPC-9801からMaintoshに乗り換える意味が無いけど。


その後は、Windows 95対応への遅れや『一太郎Ver.7』の低速化とメモリ浪費等で、シェアを徐々にMicrosoft Office(WORD)へ奪われていく。Office IME 2007の日本語IMEが中国で開発され品質低下した時には、ATOKが再び脚光を浴びたりもしたが、Microsoft Officeの独走を止めることはまったくできなかった。


尚、1995年6月、ジャストウィンドウ対応の『一太郎Ver.5 with ATOK9』が発売されているが、恐らくATOKが刷新されただけだろう。ジャストウィンドウはかなり後まで開発が進められていたので、ひょっとすると私が関わった部分もここで陽の目を見たのかもしれないな。今となっては遠い過去の話。


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