【パソコン歴史浪漫】31 ●キーピッチ21mmキーボードは幻か? | サンロフトの本とテレビの部屋

【パソコン歴史浪漫】31 ●キーピッチ21mmキーボードは幻か?

【パソコン歴史浪漫】31 ●キーピッチ21mmキーボードは幻か?


次のテーマに移る前に、独自規格キーボードについて補足しておく。


1980年から1995年頃までの長きに渡って使われた富士通の「親指シフト」キーボードは、特異な存在だった。2000年代に入ってもパソコン用として復活する等、根強い人気である。
ワープロ専用機OASYSにはJIS配列、50音配列のキーボードもあったが、原則として親指シフト一本で勝負していた。他社がすべてJIS配列(一部ローエンド機に50音配列あり)の中での孤軍奮闘。これは奇跡に近い。


1983年8月、NECも独自の「M式」キーボードを、PC-8801用ワープロソフト「新入力方式日本語ワードプロセッサ PCWORD-M(PC88-1010-2W)」6万2000円に同梱という形で発売。当時は後発と思えたが、初代OASYSからわずか3年後のことだった。
1984年3月、NECは初の一般向けワープロ専用機「PWP-100」34万9800円にM式キーボードを搭載。見た目や操作感覚は親指シフト以上に奇異であり、JIS配列や50音配列キーボードは用意されなかった。思い切った戦略である。
1984年4月発売の「文豪5N(NWP-5N)」、1985年10月発売の一般向け「文豪mini」シリーズのハイエンドモデル「文豪mini7」ではM式キーボードがオプション設定されたものの、JIS配列が標準になった。
結局、M式はワープロ専用機では2世代(3年間)の短命に終わった。


M式によく似たTRONキーボードは、TRONのパソコン規格「B-TRON(ビー・トロン)」の失敗により、ほとんど市場に出回らずに終わった。


16個のキーで日本語入力を可能にする「タッチ16」は、エプソンのハンドヘルドコンピュータ「HC-88」に搭載されたものの、一代限りで終わった。


ミサワホームの「CUT Key」(Compact Universal Terminal Keyboard)は、22キーのテンキー状小型キーボード。なぜハウスメーカーが? と思うだろうが、住宅内ネットワークの端末用キーボードとして開発されたのである。
ミサワホーム「G型」のコントロールタワー、「NEAT」のグルメロボットとハイテクバスロボット、「マホーの家」のロボットスツールといった、ミサワホームのホームオートメーションの歴史から考えれば、出るべくして出た製品といえる。
他のキーボード、特に日本語入力用キーボードが打鍵数を減らすのが目的なのに対し、これはJIS配列より打鍵数が多い。その代わり、片手入力という他に無い特徴を持っている。
私も旧モデルを持っているが、パソコン用として常用するのは難しい。両手を使うJIS配列の方が格段に速く打てるし、ショートカットキーが使えないとWindowsの操作性が著しく低下するからだ。CUT Key前提の端末、OS等でなければ本領発揮とはいかない。



ここで、新しいキーボードのアイデアを一つ。
「ダブルミーニング・キーボード」。通常、キーは上から真下へ押し込むが、これは山型のキーを斜め左右から押す。右指はキーの右から左へ、左指はキーの左から右へ押す。例えば、右から押すと「A」、左から押すと「H」が入力される。これで、フルキーの数と幅を半分にしようという試みだ。これを拡張し、手前から奥へ、奥から手前へ押すギミックを加えると、1つのキーで4通りの入力が可能だ。1つ1つのキーがファミコンの十字キーだと思えばいい。SHIFTを使わない片手入力キーボードも可能だろう。



最後に、キーボードの常識についての謎を書いておこう。
パソコンのキーボードのキーピッチは、19mmが標準である。デスクトップ機用のフルサイズキーボードはもちろん、テンキー無しのコンパクトキーボードやA4ノートPCでもキーピッチ19mmが積極的に採用されている。18mmの場合は「18mm確保されている」などと、足りないが十分快適と宣伝されるわけだ。
手の大きさ、指の長さ、慣れ、そしてキートップ形状等によって違ってくるが、キーピッチの最低ラインは15mmあたりだろう。
しかし、キーピッチ19mmもまた絶対の基準ではない。


パソコン黎明期には、キーピッチ21mmのキーボードも存在した。オフコンや企業向け高級パソコンで見られた。今では、ごく一部のマニア向けキーボードにのみ残るピッチである。
PC-8001のキーピッチをカタログ写真から測ってみたが、十分な精度が得られない。21mmではないかと思うが、確証はない。PC-8801も同様に測ってみたが、19mmのようだ。
当時、リアルタイムで両機種とも触っていたので、キーピッチが2mmも違えば操作感で気づくはずだ。キートップの形状も同じだから、見た目でも分かる。


キーピッチ21mmは一般的なパソコンにも見られたのか、ごく限られた特殊な例だったのか、今となっては分からない。ノートパソコン等、キーボードが小ささが問題となるジャンル以外、カタログにキーピッチが書かれることは皆無だからである。
ちなみに、PC-6001は実機計測で19mmだった。


関連ページ  『CUT Key』公式サイト


関連ページ  『MISAWA CUT Key Pocket VC-201』