【パソコン歴史浪漫】22 ●X68000はPC-100の夢を見るか? | サンロフトの本とテレビの部屋

【パソコン歴史浪漫】22 ●X68000はPC-100の夢を見るか?

【パソコン歴史浪漫】22 ●X68000はPC-100の夢を見るか?


パソコン史において、シャープX68000は高性能ホビーパソコンと位置づけられるだろう。客観的にせよ、かつてのユーザーの主観にせよ、振り返ればそれで間違いない。
しかし、X68000登場時はもっと複雑であった。


どのシリーズであれ、初代機は不透明な船出をしたものである。そもそも、PC-8001が出たのは、ワンボードマイコンにキーボード、ディスプレイ、BASICを組み合わせたセミキットパソコンの時代であった。それが、後のPC-8801、PC-9801シリーズへ連なるパソコンの標準スタイルになるなんて、誰も想像しなかった。いや、NECにアドバイスした西和彦氏には見えていたのかもしれないが……。
ビジネスパソコンPC-8801は発売直後からほとんどホビー用途に使われ、パソコン入門&ゲーム機のMSXはファミコンの登場でゲーム機としての存在感を失った。
PC-8001を上回る東芝PASOPIAや、PC-8801並みの性能のカシオFP-1100は、メーカーの技術情報の不足やアクションゲームに向かないハード等で、ソフトが出ずに終わった。


X68000のスペックや価格は早い時期に分かったものの、発売後どんな方向へ進んでいくか、進むのにどんな障害があるのかは、誰にも分からなかった。
ゲーム「グラディウス」が標準添付されていたことから、高性能なゲームマシンと捉えた人は多かった。
X1の後継機となるパソコンテレビとして、テレビ・ビデオと連携するAVマシンと見た人もいただろう。当初から、カラーイメージユニット(静止画キャプチャ)がアナウンスされていた。
マウスとビジュアルシェルから、和製Macintoshと期待した人もいたはずだ。X68000のOS Human68kのIOCSは、MacintoshのToolboxを強く意識していた。


私もそれらを考えたが、もっと強く連想したものがあった。1982年秋に発売されたNEC PC-100である。丸4年も経ち、PC-100そのものは陳腐化した。8086/7MHz、128KバイトRAM、5インチ2D FDD。完全に時代遅れである。しかし、PC-9801シリーズはそんな時代遅れのマシンを凌駕しただろうか?
連載の都合で話が飛んだが、X68000の発表はPC-9801RA(80386/16MHz)の2年前、PC-9801VX(80286/8MHz)の時代だ。RAでも同じことだが、CPUの処理能力やRAM容量、5インチ2HD FDD、現実的な価格になったHDD等、優れているのはハード面だけである。画面表示に関してはVMから変わっていない。


PC-100はマウス前提だったが、PC-9801シリーズはVM~VX時代にかけてようやくマウスが普及した。MS-DOSとGW-BASICを拡張したN100-BASICも、やはりVM~VX時代にほぼ同等のものが実現した。
PC-100のグラフィックは720×512ドット(GRAMは1024×1024ドット)で512色中16色。GRAMは512Kバイトで、VXの2倍だ。カラーこそ4096色中16色と微妙に上回ったものの、640×400ドットのしがらみからは抜けられない。ハイレゾモードはRA時代でも普及しないし、テキストは80字×25行でノーマルモードと変わらない。


PC-100がユニークだったのは、テキストVRAMが無いことを活かし、テキストモードが多彩だったことだ。ANK(1バイト半角)では80×25、90×25、90×32、120×64。日本語(2バイト全角)では、40×25、45×25。これは、ありそうで無かった。
X68000は、テキストVRAMがGRAMと同じ512Kバイトでビットマップ方式。残念ながら複数のテキストモードは無かったが、96(全角48)×32はPC-100を上回った。
1行80字が常識でも、行頭に行番号表示したり、その行末に改行コードを表示したりと、余分な16文字は役に立った。行数が7行多いのも、ワープロ等で2~3行食われる場合は大きなアドパンテージだった。22行と29行の比較なら、PC-9801はX68000の25%も行数が少ない。


X68000は、16ドットと24ドットのフォント(漢字ROM)を搭載していた。これは他に例が無い(PC-98XL以降も両方搭載だが、ノーマルモードは16ドットのみ、ハイレゾモードは24ドットのみしか使えない)。24ドットは印字用であり、テキスト表示には使えなかった(後にフリーウェアのドライバが出たが、コマンドシェルでの利用にとどまった)。
見過ごされがちだが、12ドットフォントも搭載されていた。ANKは12ドット専用にデザインされたものだが、全角は24ドット明朝体を縦横1/2に圧縮しただけだ。12ドットは、ビジュアルシェルでの表示に使われた。これは、MacOS 9.x迄やWindows XP迄と同じである。日本語MS WINDOWSが16ドット(ハイレゾモードは24ドット)表示。Windows 3.1Jは16ドット基本だったと思うが、いつ12ドット基本になったのやら……。


X68000にPC-100を重ねて見た人は少ないだろうが、革新性に惹かれた人は多いはずだ。
21世紀以降のWindows PCの方が遥かに変化に乏しいが、1980年代中盤の閉塞感はそれ以上だった。16ビットは進化なきPC-9801に独占され、高級8ビットは失速を始めた。
X1turbo、PC-8801mkIISR、MZ-2500、FM-77AVで8ビットは進化はしたものの、来るべき80286時代の16ビット機には対抗できないと思った。それが、失速に見えた。
今思えば、1986年秋の時点でパソコンの未来を悲観するのは早すぎた。狂おしいほどの変化が当たり前の数年間を過ごしてきたので、我々は進化の鈍化に過剰な不安を抱いたのだ。


X68000は、我々にPC-100以上の新しい体験をもたらした。そして、これまでのパソコンに無い展開を見せていくのだが、それはまた後の話。